

2025年11月末、ドイツ連邦軍(Bundeswehr)向けに輸送中だった約20,000発もの大量の弾薬が、民間物流業者による輸送トレーラーから盗難されるという、極めて異例かつ重大な事件が発生した。この事態は、単なる物流上の問題を超え、ドイツの軍事物資輸送・管理体制における深刻な「構造的欠陥」を浮き彫りにし、国内外の安全保障関係者に大きな衝撃を与えている。
ドイツメディアが報じ、後にドイツ連邦軍および国防省への取材で確認されたところによると、盗難は民間物流業者が請け負った弾薬輸送中に発生した。 事件は11月24日から25日にかけての夜間に起きた。輸送を担っていた民間業者のドライバーが休憩のためホテル前に車両を駐車した際、トレーラーは夜間無人のまま放置されていたとみられる。厳格な警備手順が義務付けられているにもかかわらず、輸送車両は誰も警備しない状態で無防備になっていた。翌日、目的地である兵舎に到着し、積荷の確認が行われた際に、初めて「弾薬の明らかな不足とトレーラーの損傷」が判明。直ちに軍と地方警察に通報され、合同での捜査が開始された。
盗まれた弾薬は約20,000発という大規模な量に上る。内訳は約10,000発の拳銃用実弾。約9,900発のアサルトライフル用ブランク弾(訓練用)。若干数の発煙弾になる。特に約1万発もの拳銃用実弾が盗まれた事実は、テロ組織や犯罪組織の手に渡れば、重大な悪用につながる可能性があり、安全保障上の最大の懸念となっている。
この事件が単なる盗難で終わらないのは、軍用弾薬の輸送において、本来、極めて厳格な警備プロトコルが定められているにもかかわらず、それが完全に無視されていた点にある。通常の輸送プロトコルでは軍用弾薬の輸送において、通常、ドライバーを2名体制とし、休憩時間中であっても積荷の安全を確保するための警備を維持することが義務付けられている。しかし、今回の輸送では、その厳格な手順が守られず、ドライバーが休憩のためにホテル前に駐車した際、積荷を積んだトレーラーは夜間、無人のまま放置されていた。国防省は、この行為を輸送を請け負った民間物流業者の「重大な契約違反」であると指摘しており、今後、業者に対する法的・契約上の責任追及も含めた対応を検討している。
現在、軍と地方警察が合同で捜査を進めており、弾薬がどこへ移動したのか、誰が関与したのかの追跡が行われている。 関係筋によると、今回の盗難は「偶発的な強盗」ではなく、「監視された輸送」に対する計画的な犯行である可能性が高いという。これは、輸送ルート、駐車のタイミング、車両の停泊状況など、物流の詳細情報が事前に犯人グループによって把握されていたことを示唆しており、内部関係者の関与の可能性も排除できない。今回ほど大規模ではないものの、ドイツでは今年に入ってからも、東部の州で警察向け銃弾数十発が紛失するなど、同様の弾薬紛失・盗難事案が報告されており、物資管理体制の杜撰さが常態化している懸念がある。
このような前例と今回の巨大な盗難事件は、ドイツ連邦軍および関連する物流・管理体制が抱える「構造的な欠陥」を如実に浮き彫りにしている。この大規模な弾薬盗難事件は、現在のドイツの安全保障環境において、極めて悪いタイミングで発生した。
ドイツ政府は現在、連邦軍の軍備拡充を急速に進めている最中にある。2035年までに現役兵を約18万人から26万人に増強し、さらに予備役を20万人追加する法案を提出しており、軍需物資と弾薬の需要は今後大幅に増加する見込みだ。また、ウクライナ侵攻などの地政学的緊張を背景に、ドイツは近隣国への軍事支援や、欧州全体の安全保障再編において重要な役割を担っている。国内での弾薬・物資の安定供給と厳格な管理の重要性はかつてないほど高まっている。このような状況下での大規模盗難は、軍備拡大を進めるドイツの意図と、その物資を安全に管理・輸送する能力そのものに対して、根本から疑問符を投げかける懸念材料となっている。厳格な管理体制の早急な見直しと強化が、ドイツ国防省に課せられた喫緊の課題となっている。
