
アメリカのドナルド・トランプ大統領は3月3日月曜日、ウクライナへの軍事援助の一時停止を発表。移送中だったものも含めて、即座に支援はストップされた。アメリカはウクライナの最大の支援国であり、これまで数多くの兵器を供与してきた。これらの兵器はロシア軍に対し戦力で圧倒的に劣るウクライナ軍を支えており、支援が停止すれば、ウクライナは甚大な影響を受ける事になる。ここではウクライナ軍に欠かせない米国製兵器を上げる。
パトリオット防空ミサイルシステム

日夜、ロシア軍のミサイル、自爆ドローンの脅威に晒されているウクライナ。そのウクライナの空を護っているのが米国とドイツから供与されているパトリオット防空ミサイルだ。パトリオットミサイル(MIM-104 Patriot)は航空機、弾道ミサイルを撃墜する能力を持つ防空ミサイルシステムで世界18か国で配備されるなど、世界で最も優れ、先進的なミサイル防衛システムの一つだ。ウクライナではロシアの長距離ミサイルの攻撃に対し、90%を超える迎撃率を達成。パトリオットが撃墜したミサイルの中にはロシアが誇る極超音速ミサイル「キンジャール」も含まれている。ミサイルには近接信管のPAC-2と主にミサイル迎撃用のPAC-3があり、射程160kmのPAC-2はロシア軍機の迎撃のため前線近くに配備、Su-34、Su-35、A-50など多くのロシア軍機を撃墜。2024年2月には1か月で10機のロシア軍機を撃墜するなどロシア空軍にとっては天敵になり、パトリオットはロシア軍機の侵入を防いでいる。しかし、軍事支援停止でミサイルの在庫が尽きる可能性がある。そうなれば、ウクライナの都市は空爆によって甚大な被害を受ける事に。ただ、最近ではイスラエルが退役したパトリオットミサイル90発を供与したという報道もあり、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ポーランドといったNATO諸国も配備しており、在庫から一定数をウクライナに供与する事は可能と思われ、直ぐに在庫が尽きることはないと思われる。
高機動ロケットシステムHIMARS

ウクライナ軍の最も信頼できる砲兵システムがHIMARSだ。HIMARSの特徴は最大90kmの射程でGPS誘導で精密攻撃ができる点だ。長距離砲撃というと、西側から提供された155mm榴弾砲があるが、通常弾で30km前後、延伸弾で40kmと射程はHIMARSの半分ほど。30km前後の射程はロシア軍が保有する対砲兵レーダーの検出範囲になり、発射後20秒で発射地点がわりだされてしまうが、HIMARSにその心配はない。装輪式で無限軌道と比べ、移動エリアの制限こそうけるものの整地で最大速度85km/hで移動でき、仮に敵がロケット弾を検知、発射地点を特定する頃には既にHIMARSは遠く離れた場所におり、追跡するのは難しい。射程150kmのER GLSDBも受領しており、攻撃範囲は拡大している。また射程300kmの弾道ミサイルATACMSも昨年から運用が始まっており、クリミア半島のロシア軍の防空網を壊滅させている。火力で劣るウクライナはHIMARSの精密攻撃と射程でピンポイントでロシア軍の拠点を効果的に攻撃してきたが、ロケット弾の供給が止まればそれが難しくなる。ウクライナ軍は米国から40台を受領し、2台が破壊されている。また、HIMARSと同じロケット弾を発射する履帯式のM270 MLRSも米国、英国、ノルウェーから供与されている。
ジャベリン対戦車ミサイル

歩兵一人で戦車に対抗できる兵器である携行式の対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」。ロシアによる初期侵攻でロシア軍の機甲部隊を撃退し、今でも前線でロシア軍の車両に一撃で壊滅的な打撃を与えている。ジャベリンは世界最強の携行式対戦車ミサイルと称されている。射程は2000mと長く、ロックオンすればあとはセルフ誘導・撃ちっぱなしのファイア・アンド・フォーゲット、そして、トップアタックといわれる戦車の最も脆弱な砲塔を上面の装甲を狙って撃つことができ、強固な装甲を持つ戦車に対しても一撃で致命傷を与える。ウクライナ軍には米国からこれまで1万発のジャベリンンミサイルが供与されており多くのロシア戦車が餌食となった。ウクライナの人々はジャベリンの偉業を称え、「Saint Javelin(聖・ジャベリン)」とも呼んだ。ジャベリンは広い戦線で重火器が無い塹壕でも歩兵に対して、高度な対戦車能力を与えてきた。枯渇すれば前線の維持が厳しくなる。
装甲戦闘車
ウクライナ軍の機械化歩兵部隊を支えているのがアメリカから供与されたM2ブラッドレー歩兵戦闘車とストライカー装輪装甲車だ。
M2ブラッドレー歩兵戦闘車

M2ブラッドレー歩兵戦闘車は機械化歩兵部隊の要だ。車長、砲手、運転手の 3 人の乗員に加え、 6~7人の兵士を運ぶことができ、重量は30t前後と軽量で走破性が高く、整地を最大速度66km/h、480kmを走破する。武装にはM242 87口径25mm機関砲と7.62mm同軸機銃を備えており、25mm機関砲は毎分約200発の連射が可能で、射程は2.5km、装甲車の装甲を貫通する。戦車も側面など装甲の薄い部分であれば貫通が可能で、実際にロシア軍のT-90M戦車を破壊するのも確認されている。2連装発射式のTOW対戦車ミサイルも搭載可能で、予備弾3発も含め計5発を搭載。射程は3,750mと主力戦車の主砲の射程に匹敵。火力支援車両としても重宝されている。米国は300両以上のM2A2ブラッドレーを供与。半数近い145両が破壊ないしは損傷しているが、それだけ、前線で使用されている事を示すものであり、破壊されても乗員の生存率が高く、ウクライナ兵の信頼は厚い。
ストライカー装甲車

ストライカーは戦闘地域での部隊展開を迅速に行うための機動力と防護力を兼ね備えた装甲車で、基本構成である兵員輸送のICV型は3人の乗員を含む最大12人の歩兵を輸送できる。ほとんどのタイプには、12.7mm M2ブローニング機関銃または 40mm Mk.19自動擲弾発射機を装備した遠隔操作式 M151プロテクター砲塔が装備されている。ストライカーの最大の特徴は装輪式による機動力で、最高速度は整地で97km/h、走行距離は500kmを超え、兵員を速やか戦場に届ける。ウクライナ軍がロシア領のクルスク州に侵攻した際はその機動力で電撃戦を行った。装甲は14.5mm弾、至近距離での155mm榴弾の破片から乗員を守る。車体のV字型構造は地雷やIED(即席仕掛け爆弾)による生存率を向上している。米国は400両のストライカーを供与しているが、損失は39両と1割に満たない。
米国から支援が停止となれば、これら車両の修理、メンテナンスに必要なパーツの供給が止まり、稼働率が低下する。前線に兵士を届け、物資を輸送する上で重要な車両だ。
米国の軍事支援停止によって、今すぐウクライナ軍が窮地に陥るわけではないが、米戦略国際問題研究所(CSIS)は2~4か月後にウクライナ兵は軍事援助停止の影響を受けるだろうと予測。米国による軍事支援停止の影響は甚大で壊滅的と断言している。