

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、公に「ハマスに反対するガザ地区の組織」に対して武器を供与している旨を表明し、同地区におけるハマス支配に対抗する目的で、イスラエルが他の武装集団を支援している事実を認めた。
フィナンシャル・タイムズ紙の6日の報道によれば、ネタニヤフ首相はガザ地区を実効支配するハマスの勢力を弱めるべく、同地区においてハマスに対立する他の武装組織集団に対して軍事支援を行っていることを認めた。AP通信の報道によれば、当該勢力はガザ南部のラファ地域で活動する武装勢力「Popular Forces(通称 Anti-Terror Service)」。指導者は、ハマス政府によって有罪判決を受け投獄されていた元麻薬密売人のヤセル・アブ・シャバブである。同組織は、イスラエル軍による2024年5月のラファ攻勢の混乱に乗じて同地区に出現、活動を開始し、南部エジプト・ガザ国境付近と援助ルートを支配している。エジプトから入ってくるトラック輸送や物資配布の安全確保を担っているとされ、構成員は300人とされる。
"القوات الشعبية" تطلق مشروعا لمواجهة "فوضى الجوع" في غزة.. وحماس تتهمها بأنها "مليشيا مدعومة من إسرائيل" #قناة_العربية pic.twitter.com/4FzqIdNpjT
— شاشة العربية (@AlArabiyaScreen) June 8, 2025
ただし、同組織に対する評判は芳しくなく、ガザ地区に搬入される人道支援物資の略奪や民間人への暴力行為が報告されている。同組織は、略奪行為はハマスによるものだと主張しているが、2023年のイスラエルによるガザ侵攻以降、家族や隣人を養うために50台の支援トラックを襲撃した事実を認めている。そのため、同組織に対する武器支援は、ガザ地区の更なる治安悪化と混乱を招くと多くの懸念と批判の声が上がっており、特に人権団体と国連関係筋から指摘されている。これに対し、ネタニヤフ首相は「それの何が悪いのか?」と述べ、「良いことばかりだ。イスラエル兵の命が救われるのだから」と発言した。政府も「イスラエルは、治安機関の幹部全員の勧告に基づき、多岐にわたる方法でハマス打倒に取り組んでいる」と声明を発表している。
2025年6月、アブ・シャバブは自身のグループがラファ東部を制圧したと主張するビデオを公開した。彼はラファの住民に帰還を呼びかけ、イスラエル国防軍(IDF)の監視下で設置された仮設キャンプで食料、住居、そして保護を提供することを約束した。彼らはイスラエルの支援を受け、イスラエル軍と連携しているが、「我々はイスラエルに雇われたのではない。パレスチナの未来のために戦っている」と主張し、イスラエル占領軍とのいかなる関係も否定、活動はテロ組織ハマスによる支配を拒否する国民に奉仕することを目的とした国家運動であると主張している。イスラエルとしては、ハマスを排除した後の現地統治能力の構築を模索しており、ガザでの秩序形成の一環として、ハマスと対立する氏族・民兵の支援を試みている。
しかし、一部報道では、同組織がイスラム国(IS)に関係する人物やグループとの関係も疑われており、勢力を拡大することで将来的な敵対勢力になることも懸念されている。実際、レバノンやイラク、アフガニスタンでの事例のように、アメリカが敵対勢力に対抗するために支援した現地武装勢力が力をつけ、後に敵対勢力に転じた事例も見られる。また、イスラエルの支援を受けた同組織を地元住民が認めるか否かは不透明であり、新たな紛争の火種となる可能性も高い。イスラエルに利用されるだけで終わる可能性も否定できない。