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イスラエルがシリア軍本部を空爆!攻撃理由のドルーズ派とは?

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2025年7月中旬、シリア南部における部族間衝突を発端として、中東地域の緊張が再び高まっています。特にイスラエルが16日に行ったシリアの首都ダマスカス中心部への空爆は、事態を一層深刻化させ、国際社会の懸念を招いています。

本衝突の発端は、7月11日にシリア南部のスワイダ(スウェイダ)〜ダマスカス間の幹線道路で発生した遊牧民であるベドウィン部族によるドルーズ派商人の襲撃事件に遡ります。本事件は、両部族間の武力衝突へと発展しました。シリア政府は治安回復を名目として軍・治安部隊をスウェイダに派遣しましたが、ドルーズ派の一部はこれを「政府による自治と安全保障の侵害」と認識し、武力抵抗を開始します。15日にはシリアのアブ・カスラ国防相がドルーズ派との停戦合意を発表したものの、ドルーズ派の指導者ハジリ氏は、政府軍が合意を破り、攻撃を行い、更に住民に対する拷問や剃髪といった侮辱行為を行ったと非難し、抵抗を呼びかけました。

イスラエルの介入とシリアへの空爆

この混乱に乗じる形で、隣国イスラエルが介入します。イスラエルは同盟関係にある少数民族ドルーズ派の保護を理由に挙げ、15日には戦闘機とドローンを派遣し、スワイダ周辺でシリア政府軍の車列を攻撃しました。同時に、イスラエル・シリア国境の非武装化強化を表明しています。さらに翌16日にはシリアの首都ダマスカスを攻撃し、イスラエル軍は無人機を用いてシリア国防省と大統領府を攻撃したことを発表しました。シリア側は、イスラエルの空爆によって民間人にも死傷者が出たことを「侵略」であるとして強く非難しています。

ドルーズ派とは

Wikipedia

今回の衝突の鍵となるドルーズ派は11世紀ごろにイスラム教シーア派イスマーイール派から分派した秘教的宗教集団で、宗教的に排他的で改宗・布教なし、出生によってのみ属し、その歴史的経緯から複雑な立ち位置にあり、イスラム教徒からは異端と見なされています。彼らは1948年のイスラエル建国以来、イスラエルとの協調姿勢をとり、同国内にいる同派はイスラエル国民としての権利を保持しています。イスラエル国内には約14万人のドルーズ派住民が居住しており、彼らは軍への従軍義務がある唯一のアラブ系少数派です。イスラエル国会にも多数のドルーズ系議員がおり、与野党問わず様々な政党に所属しています。

一方、シリアには推定約70万〜90万人のドルーズ派住民が居住しており、シリア人口の約3〜4%を占めるとされています。主に南部のスワイダやゴラン高原に居住する彼らは、アサド政権下では同じ少数派であるアサド政権側のアラウィ派と協調路線をとり、アサド政権もドルーズ派に一定の自治と非干渉を認めることで、緩やかな協調関係を築いていました。2011年以降の内戦時、ドルーズ派は明確な陣営につくことを避け、中立的な立場を保っていました。アサド政権崩壊後、イスラエルは南部の非武装化とドルーズ派へ攻撃しないよう警告していました。

多層的紛争構造と国際社会の懸念

今回のシリア情勢は、「スワイダ自治 vs 中央政府の統制 vs 周辺部族間闘争」というシリア国内の複雑な対立構造に、イスラエルという「外部国家の介入」が重なることで、中東地域の典型的な多層的紛争構造を色濃く反映しています。イスラエルがドルーズ派の保護を理由にシリアの主権を侵害したことは、国際社会に深刻な懸念を抱かせています。これは、単なる地域紛争の問題にとどまらず、国際法の根幹を揺るがす危険性を内包しています。

2022年2月、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を開始した際、「ウクライナ東部のロシア系住民を保護するため」という口実を用いたことは記憶に新しいでしょう。イスラエルの行動は、このロシアの口実と驚くほど酷似しており、国際社会における「保護する責任」の原則が、国家による一方的な武力行使の口実として悪用される可能性を示唆しています。歴史を振り返れば、大国が自国の影響力拡大や戦略的利益のために、他国内の少数民族の保護を名目に介入した事例は枚挙にいとまがありません。しかし、現代の国際法秩序においては、国家の主権と領土の一体性は尊重されるべき不可侵の原則とされています。

ドルーズ派の保護というイスラエルの主張が真実であるとしても、その解決方法は国際法に則った外交的、平和的な手段であるべきとされ、一方的な軍事行動、他国への介入は、さらなる混乱と人道危機を生み出すだけになり、問題の根本的な解決にはつながりません。中東地域における不安定な情勢は、国際社会全体の安全保障に直結する問題です。

シリアのシャラア暫定大統領は今回のイスラエルの攻撃について、ドルーズ派の国民に向け、「われわれはあなた方を外部勢力の手に引きずり込もうとするいかなる試みも拒否する」と述べ、「私たちは戦争を恐れません。私たちはこれまで、困難に立ち向かい、国民を守るために人生を費やしてきました。しかし、混乱や破壊よりもシリア国民の利益を優先します。」述べ、シリア国民は戦争を恐れておらず、尊厳が脅かされれば戦う用意がある意思を示しています。とはいえ、内戦を終えてばかりであり、混乱期に旧シリア軍が保有していた兵器はイスラエルによってことごとく破壊されており、真っ向から戦える戦力を今のシリア軍は持ち合わせていません。今後ののシリア情勢がこれ以上悪化することなく、平和的な解決が図られることが強く望まれます。

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