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スターリンクの通信障害でウクライナ軍が一時窮地に!同システム依存の懸念が再燃

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SpaceXが提供する衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」は、7月24日、世界規模での大規模な通信障害に見舞われました。この障害は特にウクライナ軍の通信にも甚大な影響を及ぼし、軍事活動におけるスターリンクシステムへの過度な依存が抱える潜在的なリスクを明確に浮き彫りにしました。

7月24日協定世界時午後3時、スターリンクのコアネットワークを司る内部ソフトウェアに重大な障害が発生しました。この問題により、約2時間半にわたり全世界でサービスが停止し、インターネットへの接続が遮断されました。ユーザーからは約6万件以上の障害報告が寄せられ、その影響は米国、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど広範囲に及びました。特に英国では、Downdetectorの報告によると1万人以上のユーザーが通信障害を経験したとされています。

障害の直接的な原因は、スターリンクシステムの中核を成す内部ソフトウェアサービスの故障であると特定されました。ソフトウェアのアップデートミスや設定エラー、さらにはサイバー攻撃の可能性も当初指摘されましたが、最終的には外部要因ではなく、スターリンク本社側のシステムに起因する内部障害であることが確認されました。

スターリンク社は障害発生後、ソーシャルメディアプラットフォームX(旧Twitter)を通じて公式に障害を認め、副社長のMichael Nicolls氏およびCEOのイーロン・マスク氏がユーザーに対して謝罪の意を表明しました。両氏は声明の中で、「原因を特定し、再発防止に全力を尽くす」と約束しました。

ウクライナ軍に打撃

今回のスターリンク障害によって、最も深刻な影響を受けたのがウクライナ軍です。ロイター通信の報道によれば、最前線での通信インフラとしてスターリンクを全面的に活用しているウクライナ軍の通信も、7月24日午後10時41分に停止しました。約2時間半にわたり、ドローンの操作や前線からの映像通信が中断される事態となりました。

ウクライナのドローン部隊長であるロバート・ブロブディ氏は、最前線全域で通信不能に陥ったことを明言し、多くの軍事作戦が映像フィードなしで進行せざるを得なくなり、一部の重要なミッションは延期に追い込まれたと報告しています。特にドローンは、搭載されたカメラ映像を基に敵を捕捉し、追跡攻撃を行う上で不可欠な存在です。障害物のない開けた場所であれば、地上のアンテナとドローンの送信機間で1~10km程度の通信は可能ですが、それ以上の長距離作戦には衛星からの通信が必須となります。今回の障害は、ウクライナ軍のドローン作戦能力に直接的な打撃を与えました。

スターリンクに振り回されるウクライナ軍

軍事作戦においてスターリンクが影響を及ぼしたのは、今回が初めてではありません。2022年9月には、ウクライナ軍が黒海で無人自爆艇を用いてロシア海軍黒海艦隊への攻撃を試みた際、イーロン・マスク氏がその通信を有効化することを拒否したと報じられています。結果として、通信途絶により攻撃は無力化されたとされています。自爆無人艇は100km以上離れた標的を対象としており、その操作にはスターリンクによる安定した通信が不可欠でした。

さらに2023年2月には、SpaceXのCOOであるグウィン・ショットウェル氏が、「スターリンクはドローン攻撃のための使用を想定しておらず、制御用途での使用を制限した」と公に明言しました。これにより、マスク氏の個人的な裁量によって、ウクライナにおけるスターリンクの通信が複数回にわたって制限されてきたことが明らかになりました。

スターリンクの利用規約には、「軍事用途(攻撃的使用)は想定外」と明記されており、このような事実が確認された場合、サービス提供側が通信を制御できる構造を確保しているとされています。しかし、このようなスターリンクの対応は、スターリンクを通信網の一部として使用している米国国防総省やポーランド軍などに深刻な懸念を抱かせました。民間企業が国家安全保障の根幹に関与する危うさが浮き彫りになり、ポーランドなどは代替通信手段の模索を開始しています。スターリンクに何度も翻弄されてきたウクライナ側も、特定の一極への依存を避けるべきだと判断し、代替通信手段の確保を積極的に進めていると言われています。

ちなみに、日本も2023年には陸上自衛隊がスターリンクの試験運用を開始しており、南西諸島や離島展開を想定したテストが行われています。海上自衛隊も練習艦に試験的に導入するなど、その可能性を模索している段階です。

スターリンクとは

スターリンクは、SpaceX社が提供する革新的な衛星インターネットサービスです。地球低軌道を周回する多数の小型衛星を活用する「衛星コンステレーション」方式を採用しており、従来の静止軌道衛星に比べて、より地表に近い軌道を周回するため、大幅な高速通信と低遅延を実現しています。これにより、地上インフラが整備されていない地域や災害時などにおいても、安定したインターネット接続を提供できることが最大の強みとされています。

今回のスターリンクの大規模障害は、あらゆる組織、特に軍事組織において、特定の通信システムへの過度な依存が潜在的なリスクとなり得ることを改めて浮き彫りにしました。軍事用途における通信網の拡大と、ネットワークの多様性および冗長性の確保がいかに重要であるかを、今回の事態は強く強調する結果となりました。未来の紛争においては、通信の確保が勝敗を分ける重要な要素となるため、各国は代替手段の開発と導入を加速させる必要性に迫られています。

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