

ドナルド・トランプ大統領は、中国の台頭と地政学的な脅威に対抗する戦略の一環として、アフガニスタンのバグラム空軍基地の再獲得に向け、タリバン政権との交渉を進めていると公表しました。2021年7月の米軍撤退時に放棄されたバグラム空軍基地は、その戦略的な立地、特に中国の核施設群への近接性から、極めて重要な意味合いを持つ拠点として再注目されています。
トランプ大統領の発言と真意
President Donald Trump suggests the US is trying to “get back” the Bagram Air Base in Afghanistan
— Bloomberg (@business) September 18, 2025
“That could be a little breaking news,” he adds https://t.co/3AmbWsakmO pic.twitter.com/CflALYv0SF
2025年9月18日、イギリス訪問中のトランプ大統領は、ロンドンで行われたスターマー首相との共同記者会見において、「バグラムを取り戻そうとしている」と述べ、この大胆な外交戦略を明らかにしました。トランプ氏は記者会見で、「バグラムは中国が核兵器を開発している場所の近くだ」と具体的に言及し、対中抑止を基地再取得の主要な理由の一つとして挙げました。バグラム空軍基地は中国国境からわずか800kmという近距離に位置しており、中国の主要な核兵器施設、特に新疆ウイグル自治区と甘粛省にまたがるロプノール核実験場、そして哈密と玉門に建設中または完成間近の新たな固体燃料ミサイルサイロ群に近いことが強調されました。これらの中国の核兵器製造拠点から、基地は航空機でわずか1時間の距離にあり、米軍が基地を再利用できれば、中国の核能力に対する監視、情報収集、偵察、監視活動(ISR)を効果的に行える可能性を秘めています。
トランプ大統領は、バグラム空軍基地を「世界最大級の空軍基地の一つ」と評し、「我々はタリバンに無償で提供した。ちなみに、我々が返還を求めているのは、彼らが我々に何かを求めているからだ。そして我々は返還を望んでいる。しかし、返還を求める理由の一つは、ご存知の通り、中国の核兵器製造拠点からわずか1時間の距離にあるからだ」と述べました。また、アフガニスタンは中国と国境接していることもあり、近年は官民双方、中国の影響力が増しています。希少鉱物資源の獲得や地域における影響力確保の狙いもあるとされます。
現在、アフガニスタンの約9割を実効支配しているタリバンは、政権として国際社会から広く承認されておらず、ロシア、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などごく少数の国に承認されるにとどまっています。人権侵害や継続的なテロの脅威により国際的に孤立しているタリバンは、経済支援や国際社会からの政府承認と引き換えに、米軍による基地利用を承認する可能性も推測されています。これは、タリバンが国際的な正当性を獲得し、経済的苦境を打開するための大きな機会となり得ます。しかし、タリバン政権は自国の主権を強く主張しており、外国軍の国内再駐留には基本的に反対の姿勢を示しています。現時点では、タリバンが米軍の基地再利用提案に対して即座に受け入れの姿勢を示したという公式な報道は確認されていません。また、米国戦争省(ペンタゴン)やホワイトハウスからも、具体的な作戦計画や部隊派遣の決定に関する公式な確認は出ておらず、現時点で公に確認されているのはトランプ大統領の発言のみという状況です。
バグラム空軍基地
バグラム空軍基地は、首都カブールの北約40~60kmに位置するアフガニスタン中部~北部のバグラム郡に所在する大規模な軍用空港です。1979年のソ連のアフガニスタン侵攻時に軍事施設として整備されて以来、アフガニスタンの重要な軍事拠点として利用されてきました。特に2001年のアフガニスタン戦争以降は、米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍の主要な駐留拠点となり、中東における対テロ作戦や兵站拠点として中心的な役割を担いました。
この基地は、大型輸送機の着陸が可能な長大な滑走路、多数の格納庫、駐機エリア、整備・給油設備、指揮統制所、居住区、ヘリポート、多用途ハンガー、通信・監視設備を完備しており、かつては大規模な収容施設も存在しました。C-17やC-130といった大型輸送機や各種ヘリコプターの運用が可能であり、これにより地上部隊や物資を短時間で作戦地域に送り込むことができます。また、空対地支援(攻撃機・爆撃機の前方基地)、無人航空機(ISR)の運用、空中給油の拠点としても極めて有用です。電子監視や偵察機・無人機の離着陸地点として、広範囲の情報網を支える能力も持っています。作戦の指揮統制センターを置くことも可能であり、複数の部隊を統合的に運用する上で不可欠な機能を提供します。基地の状態がどうなっているか分かりませんが、撤退してからまだ4年であり、保全状況がよければ、少ない投資で即座に基地として運用できるかもしれません。バグラム空軍基地が再び利用可能になれば、空輸による即応性、広域監視能力、作戦持続力の確保など、地域内における米軍の影響力が飛躍的に増大することは間違いありません。
潜在的な課題とリスク
しかし、バグラム空軍基地の再利用には複数の課題とリスクが伴います。まず、現在はイスラム原理主義国家であり、かつては米国の敵対勢力であったタリバンが政権を握っているという事実です。仮にタリバン政権が米軍の再駐留を承認したとしても、タリバン内部やアフガニスタン国内に、この決定に不満を持つ勢力が少なくない可能性があり、それが新たな不安定要素を生み出すことも考えられます。
さらに、アフガニスタン国内では、タリバンに敵対的なイスラム国ホラサン州(ISIS-K)が活発なテロ活動を続けており、治安状況は依然として不安定です。米軍が再駐留した場合、ISIS-Kなどのテロ組織による攻撃の標的となる可能性も高く、米軍部隊の安全確保が喫緊の課題となります。このような複雑な情勢の中で、トランプ大統領のバグラム基地再取得への動きは、今後の国際情勢に大きな影響を与える可能性があります。
