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サウジアラビアとパキスタンが軍事同盟、「核の傘」の下に

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Gov Saudiarabia

中東の安全保障環境は、イスラエル軍によるカタール・ドーハの空爆以降、かつてないほど緊迫の度合いを深めている。こうした状況下で、サウジアラビアとパキスタンの間で締結された「戦略的相互防衛協定」が、地域の力学に決定的な変化をもたらす可能性が浮上している。特に、この協定がサウジアラビアをパキスタンの「核の傘」の下に置く可能性が注目されている。

ロイター通信などの海外報道によれば、2025年9月17日、サウジアラビアとパキスタンは相互防衛協定に正式に署名した。両国は共同声明の中で、「両国間の防衛協力を発展させ、すべての侵略に対する共同抑止力を備えることを目標とする」と明言。協定の条項には、「一方に対する攻撃をもう一方への攻撃とみなす」という相互防衛の原則が盛り込まれ、両国間での軍事協力および防衛協力を強化し、共同抑止力を「あらゆる軍事手段を含めて」強化することが明記された。この「あらゆる軍事手段」という条項が、国際社会の最大の関心事となっている。パキスタンは核保有国であり、この協定がサウジアラビアをパキスタンの「核の傘」の下に入れることを意味するのではないかという憶測が飛び交った。パキスタン国防大臣は「我々が持つ核能力は、この協定に従って必要であればサウジアラビアに提供可能である」と発言。さらに、外相は翌18日、パキスタンのメディア「Geo TV」とのインタビューで、パキスタンの核兵器は必要とあらば「サウジアラビアに利用可能になる」と率直に認めた。これらの発言は、サウジアラビアが事実上、パキスタンの核による抑止力を享受することを公式に認めたものとして、大きな注目を集めている。

しかし、協定そのものには「核兵器の使用を確約する条項」や「どのような状況で発動するか」といった具体的な詳細は明記されていないとされる。パキスタン政府も「核兵器は協定の範囲には乗っていない」と発言しており、あくまで「抑止力強化」「共同防衛の枠組みとしての抑止」という表現が中心となっている。あいまいな部分が残されているものの、この協定がサウジアラビアに新たな核抑止力を与えたと思わせるには十分な影響力を持っている。両国は共にイスラム・スンニ派国家であり、長年にわたる友好的な関係を築いてきた経緯がある。

米国依存からの脱却と地域の自律性強化

このサウジアラビアの動きは、従来の「米国の安全保障保証」への依存を見直し、地域の安全保障をより自主的かつ多角的な枠組みで強化しようとする明確な意図の表れと解釈されている。特に、イスラエルによる中東での越境攻撃に対する米国の対応や影響力への疑問が背景にある。イスラエルとハマスとの戦闘は、隣国のシリアやレバノンを巻き込み、さらにイランへと拡大。シリアやイラクの領空を通過しての攻撃も行われるようになった。

そして、その火種は、先日イスラエル軍がハマス幹部殺害を目的にカタール・ドーハを空爆したことで、湾岸諸国にまで拡大した。湾岸諸国であるサウジアラビア、UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタールは伝統的に親米とされ、米軍基地も存在し、事実上の同盟関係にある。にもかかわらず、米軍はイスラエルのカタール領空侵入および空爆を事実上容認し、何ら対応をしなかった。このことは、イスラエルが敵対勢力への攻撃のためには他国の主権侵害も辞さない姿勢を示し、アメリカがそれを容認・支援することが明らかになったことを意味する。こうした状況下で、サウジアラビアが自国の安全保障を多様化しようと考えるのは当然の帰結と言えるだろう。

パキスタンの地政学的思惑とイスラエルへの影響

パキスタンは、核兵器を保有する唯一のイスラム教国家である。中東でも有数の軍事力を誇るが、産油国ではないため、厳しい経済状況に直面している。また、隣国インドとは長年の領有問題を抱え、数々の軍事衝突を経験してきた。今年5月にも4日間にわたる軍事衝突が発生している。インドは近年、著しい経済成長を遂げ、それに伴い軍事力も拡大している。こうした状況において、サウジアラビアとの同盟は、インドを牽制する狙いがあるとも言われる。

しかし、現在のパキスタン軍は大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有していない。最も射程が長いミサイルはシャヒーン3で2750kmだが、イスラエルまでの直線距離は約3300kmと届かない。そもそも、パキスタンの核戦略は隣国のインドのみを標的としており、長射程ミサイルの必要性は低かった。だが、パキスタンがアメリカ本土をも射程に収めるICBMを開発しているとの情報もあり、米国は2024年12月に4つの関連団体に制裁を課している。パキスタンは、パレスチナを積極的に支援する国の一つであり、イスラエルとの関係は良好とは言えない。イスラエルは、長年にわたりパキスタンの核兵器保有に懸念を抱いてきた。もし、パキスタンの核兵器が将来的にイスラエルにも向けられるようになれば、イスラエルがイランの核施設を攻撃したように、パキスタンに対して同様の行動に出る可能性も否定できない。

このサウジアラビアとパキスタンの協定は、中東の安全保障地図を大きく塗り替える潜在力を秘めている。核の傘の拡大は、地域の軍拡競争を激化させ、新たな紛争の火種となる可能性もはらんでいる。今後の動向が国際社会の注目を集めることは間違いないだろう。

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