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台湾のF-16V戦闘機導入が遅れ 防空体制に影響、米ロッキード社に補償請求も

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F-16V(©Lockheed martin)

台湾が米国から調達しているF-16V(ブロック70)戦闘機の納入が大幅に遅れており、台湾の防空能力近代化計画に深刻な影響を及ぼしている。これに対し、台湾政府は米国側に補償を求める姿勢を見せており、この問題は台湾海峡の緊張が続く中で、台湾の抑止力に暗い影を落とす事態となっている。米国防衛産業における需要の急増と世界的なサプライチェーンの混乱が遅延の主要因とみられている。

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F-16V契約の概要

台湾は2019年、ロッキード・マーティン社とF-16V(Block 70)戦闘機66機の購入契約を締結した。この大規模な計画は、既存のF-16A/BのV仕様への改修計画と並行して進められ、最新鋭の新造機を導入することで台湾の防空体制を抜本的に刷新することを目的としていた。当初の計画では、2026年末までに全機を受領する予定であった。しかし、台湾国防部は最近の報告書で、この納期遵守が「非常に難しい」状況にあることを認め、事実上の遅延を公表した。2023年5月にはF-16の納入が1年延期され、2024年後半に開始されると発表されたものの、2025年6月には米国から再度納入延期の通告があり、事態はさらに悪化している。

遅延の現状と製造状況

メーカーの生産ラインでは、部品供給の遅れや組立工程の再編が継続しており、生産は計画を下回る進捗となっている。ロッキード社は「20時間体制、2交代制で生産を加速している」と台湾国防部に説明しているが、その効果は限定的である。今年3月には初号機が納入されたものの、現状で納入された機体はこれのみであり、当初2025年までに10機を受領するという見通しは実現不可能となった。台湾側は「年内に初号機数機を受領できる可能性」に言及しているが、66機すべての納入完了は数年先にずれ込む見通しであり、防空力強化のタイムラインは大きく狂い始めている。

遅延の複合的要因

今回のF-16V納入遅延は、単一の要因ではなく、複数の複合的な問題によって引き起こされている。

  1. 世界的なサプライチェーンの混乱: 最も大きな要因の一つは、電子部品、複合材、アビオニクス関連の供給が不安定であることだ。特にF-16Vに搭載される最新型レーダー「AN/APG-83 AESA(アクティブ電子走査アレイ)」の生産にも大きな影響が出ているとされている。パンデミック以降、グローバルな物流網の混乱は継続しており、防衛産業もその影響を免れていない。
  2. 技術的課題と品質確保の優先: 航電システムの統合試験やソフトウェア検証に想定外の時間を要していることも、遅延の要因として挙げられる。米側は、品質確保を最優先した結果、出荷が遅れていると説明しているが、これは新技術の導入に伴う避けられない調整期間とも解釈できる。
  3. 米防衛産業の優先順位の変化: ウクライナや中東情勢の緊迫化により、米国防衛産業界ではこれらの地域への支援案件が急増している。結果として、台湾向け機材の優先順位が相対的に低下しているとの指摘もある。この背景には、国際的な紛争が多発する中で、限られた生産能力をどこに振り向けるかという米国の戦略的な判断が働いている可能性も否定できない。

台湾への影響

F-16Vは、台湾空軍の老朽化したF-16A/B、ミラージュ2000、そして既に退役したF-5を補完し、その多くを代替する存在として期待されていた。AESAレーダーや新世代電子戦装備を備えることで、人民解放軍の最新鋭戦闘機J-16やJ-20への対抗を意図しており、台湾の防空能力の中核を担うはずであった。しかし、納入の遅れは、台湾空軍が目指していた「戦力構成の世代交代」を大きく後ろ倒しにする形となり、防空網の更新に「空白期間」を生み出している。特に、中国側が台湾周辺での空軍・海軍活動を活発化させる中で、台湾の戦力更新遅れは「抑止の隙」と映る可能性があり、台湾の安全保障上の懸念は一層高まっている。台湾軍関係者からは、「老朽機の維持コストが増し、訓練や稼働率にも影響が出ている」との危機感が示されており、実運用面でも既に悪影響が出始めている。

この米国製機材の納入遅延は、単に台湾の防衛計画を狂わせるだけでなく、米国への依存構造そのものに対する国内の不安を増大させている。台湾側では、支払いスケジュールを納入進捗に連動させ、前倒し支払いを避ける方針に転換するなど、経済的リスクの軽減を図っている。

台湾国防部は、納入の遅れに関して米側やメーカーへの補償請求を検討しており、「契約上の義務不履行に対して適切な交渉を行う」としている。ロッキード・マーティン社は「生産遅延の最小化に全力を挙げている」と声明を出しているが、台湾世論では「米国の台湾支援が形だけになりつつある」との批判が強まっており、信頼関係に亀裂が生じかねない状況だ。一方で、米政府も事態を重視し、台湾向け兵器供与全体を見直し、納期短縮に向けた調整を進めているとされる。米空軍当局者は「台湾案件は最優先事項の一つ」と説明しており、生産ラインの増強や輸送手段の迅速化が検討されている段階にある。

台湾政府は、F-16Vの遅延リスクを踏まえ、短中期的には防空ミサイル、無人機、潜水艦など、他の防衛装備の強化を通じて戦力の穴を埋める方針を固めている。これは、F-16Vへの過度な依存を避け、多様な防衛手段を確保しようとする現実的な対応と言える。しかし、F-16Vの配備が長期化すれば、空軍の作戦運用や訓練体系の再構築が不可避となり、そのための時間的・資源的コストは膨大なものとなるだろう。

今回の納期遅延問題は、台湾と米国の防衛協力全体に対する信頼性を問う問題にも発展しかねない。台北の軍事専門家は「抑止力とは単なる戦力の数ではなく、供給国の信頼性そのものでもある」と指摘しており、米国の信頼性維持が喫緊の課題となっている。F-16Vは台湾の空を守る「次世代の盾」として大きな期待を背負っていたが、その到着が遅れることで、台湾の防空体制はかつてない試練の時を迎えている。この状況が台湾海峡の安定にどのような影響を及ぼすか、国際社会の注目が集まっている。

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