

北アフリカのアルジェリアが、ロシアの最新鋭第5世代ステルス戦闘機「Su-57E」(輸出型)を正式に導入し、ロシア国外で初めて同機を運用する国となったことが明らかになりました。これは、ロシアの国防産業にとって長年の悲願であった初輸出の成功を意味するとともに、アルジェリアにとってはアフリカ諸国の中で初の第5世代ステルス戦闘機の取得という歴史的な瞬間を画するものとなりました。この動きは、北アフリカおよび地中海地域の軍事バランスに大きな変化をもたらす可能性があり、国際的な注目を集めています。


Su-57の開発・生産を担うロシアの国営軍用機メーカー「ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション(UAC)」のヴァディム・バデハCEOは、国営メディアの取材に対し、「Su-57E」の最初の2機を海外顧客に納入したことを公にしました。国名は明らかにしていませんが、北アフリカのアルジェリアと思われます。アルジェリア政府からの公式発表はまだありませんが、アルジェリア国防省および国営メディアは、今年2月の時点で「Su-57E」の初輸出先として複数機の取得計画を認め、パイロットの訓練がロシア国内で進行中であると報じていました。初期導入数は6機とされており、将来的には12機から14機規模まで拡大する可能性があるとされています。最初のバッチ(6機)は2025年中の納入が予定されており、これに合わせて部隊編成と必要なインフラ整備が着々と進められていました。
ロシアは現在、戦争下にあり、契約通りに最新鋭機であるSu-57を納入できるのかという懸念も一部で示されていましたが、まずは予定の一部である2機ではあるものの、約束通り年内に納入されました。これは、ロシアがアルジェリアを重要な同盟国として重視していること、地中海およびアフリカにおける自国の軍事的プレゼンスを維持したいという意図、そして、武器輸出市場における信頼をこれ以上損ないたくないという思惑、さらにはロシアの兵器産業が健在であることを国際社会にアピールする狙いがあると推測されます。
Su-57Eがもたらすアルジェリアの優位性
アルジェリアは旧ソ連時代からロシア製装備の主要なユーザーであり続けるロシアの同盟国です。空軍の主力戦闘機は現在もSu-30MKAやMiG-29M2が担っており、今回のSu-57導入は、その装備体系の延長線上に位置づけられます。
Su-57は、ロシア唯一の第5世代戦闘機であり、その設計思想はステルス性、高機動性、そして長距離攻撃能力を高いレベルで兼ね備えることにあります。これは、アメリカのF-35や中国のJ-20と同カテゴリーに位置付けられるものです。アルジェリアがアフリカ大陸で唯一このクラスの戦闘機を保有することは、同国が地域の軍事バランスにおいて圧倒的な優位性を確立することを意味します。輸出型であるSu-57Eは、ロシア空軍向けの仕様と比べて一部能力が調整されているとみられますが、その本質的な第5世代機の能力は維持されています。長距離射撃能力を持つ空対空ミサイル「R-77」をはじめとする各種空対空ミサイルや、対地精密攻撃兵器を運用可能であり、高いステルス性、先進的なレーダー、そしてセンサーフュージョン能力を備えています。
特に、アルジェリア空軍が不足している早期警戒管制機(AEW&C)の能力を、Su-57の優れた探知能力とデータリンク能力が補完することが期待されています。Su-57は、最大5基のアクティブ・フェーズドアレイ・レーダー(AESA)を装備することができ、最大400km先の標的を検知し、約60個の目標を同時に追尾することが可能です。この高い探知・追尾能力に、ステルス性能と強力な電子戦能力が組み合わさることで、高度に防御された空域での作戦遂行も可能となります。
周辺地域への波紋


アルジェリアがアフリカで初の第5世代戦闘機の運用国になったことは、周辺諸国に大きな波紋を広げています。特に、アルジェリアと歴史的、政治的に対立関係にある隣国モロッコにとって、この事態は深刻です。モロッコ空軍は近年、F-16Vへの近代化を進めてきましたが、Su-57の導入によって航空優勢のバランスが一気にアルジェリア側に傾きかねません。西側諸国寄りの外交政策をとるモロッコは、米国に対しF-35の取得を繰り返し打診していますが、米国は地域の安定や政治的な条件を理由に慎重な姿勢を崩していません。しかし、アルジェリアが第5世代機を保有したことで、モロッコ側からのF-35導入要求は一層強まることは確実とみられます。今後アルジェリアが順調にSu-57の数を増やした場合、周辺国との空軍戦力差は拡大し、アフリカ最強の軍事力を持つエジプトや隣国チュニジア、リビアなどの国々も、この状況を穏やかに見過ごすことはできないでしょう。
また、アルジェリアは欧州に直接敵対する関係ではないものの、地中海の戦略的な要衝にロシア製のステルス戦闘機が配備されることは、北大西洋条約機構(NATO)の南部戦略にとって、新たな不確定要素をもたらします。特に、長年にわたりアルジェリアと複雑な歴史的因果関係を持つフランスは、同国が高度な対空防御システムとステルス戦闘機を整備する動きを、静かに、しかし、注視しています。
一方で、アルジェリアのSu-57運用には複数の課題も指摘されています。最大の懸念は、機体の部品供給やメンテナンスがロシアに全面的に依存している点です。特にステルス性を維持するために不可欠な特殊なインフラやメンテナンス部品を、戦時下かつ経済制裁下にあるロシアが、アルジェリアに対して安定的に供給できるのかという点に疑問が呈されています。アルジェリアの戦闘機群が全てロシア製・旧ソ連製に偏っていることは、この課題をより深刻なものにしています。
今回、最初の2機が導入されましたが、初回バッチの残り4機が約束通り納入されるかどうかが、当面の焦点となります。もし納入に遅延が発生するようであれば、アルジェリア側の不安は増大することになるでしょう。ロシアにとっては初の輸出成功という大きな一歩である反面、今後の安定的な運用とサポート体制には課題が残ります。また、この第5世代機の導入が、北アフリカと地中海地域の安全保障に新たな緊張を生むことは間違いありません。この動きが今後、地域および国際社会にどのような影響を及ぼしていくのか、継続的な注視が必要です。
