

米海軍は11月下旬、最新型フリゲート艦「コンステレーション級(FFG-62)」の建造計画を大幅に縮小し、すでに着手済みの2隻を除く 複数の発注分をキャンセル すると発表した。当初20隻規模とされていた中核艦隊構想は実質的に白紙へと戻り、米海軍の水上戦力整備戦略そのものに影響を与える重大な決定となった。
破綻していた設計計画
During Seafuture 2025, we presented our Fremm Evo.
— Fincantieri (@Fincantieri) October 7, 2025
An evolution of our Fremm series – which has already accomplished more than 150 operations – equipped with the most advanced military technology. A cutting-edge ship, capable of utilizing unmanned systems to operate above and… pic.twitter.com/RHjp5HZQGp
コンステレーション級は、イタリア・フランス共同開発のFREMM級フリゲートを基礎とすることで、構造リスクを低減し、迅速な建造を目指し、建設・維持費は排水量1万トンのアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦よりも安いこともあり、大量生産も計画していた。米海軍は近年、沿海域戦闘艦(LCS)やフォード級空母など複数の大型艦プロジェクトで遅延・コスト超過を経験しており、本級は「実績ある設計を活かした堅実なフリゲート」として期待されていた。
しかし実際には、米海軍の求める生存性向上、電子戦能力の強化、将来の近代化余地など、数百項目に及ぶ追加要求が重なり、設計は大幅に複雑化。結果としてFREMM級との共通性は当初見込みの約80%から15%以下に低下したと複数の監査報告で指摘されている。さらに、設計完了前に建造を開始してしまったことで、途中で設計が修正されるたびに現場の作業がやり直しとなる「手戻り」が多発。1番艦USS Constellationは、着工から数年が経過した2025年時点でも進捗が1割前後にとどまる異常事態となっていた。増え続ける手戻りは造艦コストを押し上げ、監査機関GAOの報告では1隻あたり10億ドル超 に達する可能性が示されていた。また、初期配備は2026〜2027年とされていたが、実際の納入は 2029年以降 にずれ込む公算が高まっていた。米議会からも「“低リスク・短納期”という当初の目的を完全に逸脱している」と批判が相次ぎ、海軍内部でも“計画の根本見直し”の声が強まっていた。
今回のキャンセル判断の背景には、米海軍が掲げる新たな艦隊構想がある。国防総省や海軍高官は近年、対中戦略を念頭に 「小型艦艇・無人艦・迅速量産モデルへの転換」 を明確に打ち出しており、複雑化が進む従来型の高性能有人艦だけでは、急速に拡大する中国海軍に対抗できないという危機感が強まっていた。このため、海軍はコンステレーション級に投入される予定だった予算の一部を、新型小型水上戦闘艦(次世代フリゲート構想)や大型無人水上艦(LUSV)などに振り向ける方針を示している。
コンステレーション級ミサイルフリゲート艦
計画が頓挫したとはいえ、コンステレーション級は設計段階で高い性能を持ち合わせている。排水量は約7,000トン級で現代のフリゲートとしては大型で、駆逐艦に近い安定性を確保。排水量1万トン級のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦と、排水量3500トンの沿海域戦闘艦の間を埋める艦艇と位置付けられていた。推進方式にはディーゼル・電気・ガスタービン併用のCODOGを採用。これは静粛性と長距離航行性能を両立した新方式になる。艦にはレイセオン社製のエンタープライズ対空捜索レーダー(EASR:AN/SPY-6)、SM-2、ESSMなど多様なミサイル発射能力を持つMk.41垂直発射システム(VLS)、ボーフォス57mm艦載砲Mk3を搭載、完全に独立した防空、対艦、海上制御を実行できる。また最新バージョンのイージス戦闘システム「ベースライン10(BL10)」を搭載するため、イージス艦としての役割も果たす。艦載ソナー・可変深度ソナー・ヘリ格納庫も備え、空海一体の対潜ハンターとしての役割を想定。将来の統合戦闘システム(NIFC-CA)とも連携可能とされた。
コンステレーション級は、アーレイ・バーク級より安価で運用でき、かつ単なるLCSより遥かに高い作戦能力を備える「中間戦力」の中核として期待されていた。しかし、その理想は米海軍の過剰要求と造船プロセスの混乱によって形になる前に失われる形となった。
米海軍は現在、コンステレーション級の代替として「より迅速に建造できる艦」「小型/無人艦艇」「量産性の高い設計」へシフトするとの方針が明示されており、今回キャンセルされた予算・契約分は再配分され、他の艦艇(とくに小型艦や無人艦)に振り向けられる見通しだ。コンステレーション級の建造ストップは、単なる艦種キャンセルではなく、米海軍が抱える要求過多・設計混乱・調達遅延 といった構造的な問題が表面化した象徴的な出来事となった。同時に、急速に力を伸ばす中国海軍に対抗するため、米海軍が“より多く、より早く戦力を揃える”方向に舵を切ったことを示す決定でもある。しかし、結果的に数年間を無駄にした事になり、中国海軍との戦力差は広がるばかりだ。中国海軍は毎年8隻のフリゲート・駆逐艦を就役させているが、米海軍は2隻に過ぎない。
