

トルコの先進的な軍需企業Baykar社は2025年11月30日、同社が開発した無人戦闘機(UCAV)Bayraktar KIZILELMA(クズルエルマ)が、黒海沿岸のシノプ沖射撃場において、画期的な空対空ミサイル発射試験に成功したと発表した。この試験は、国産のレーダーとミサイルを用い、ジェット機動を行う標的機を探知、追尾し、視界外(BVR: Beyond Visual Range)から発射した空対空ミサイルで見事に撃破するという、航空・軍事史における「世界初、ジェット動力標的に対する無人機によるBVR空対空キル」**を達成した重要なマイルストーンとして位置づけられている。
完全国産技術による「キルチェーン」の実証
Dünyada ilk kez bir insansız savaş uçağı, görüş ötesi havadan havaya füze ile hedefini vurdu.
— BAYKAR (@BaykarTech) November 30, 2025
For the first time in the world, an unmanned combat aircraft struck its target with a BVR air-to-air missile.
Bayraktar #KIZILELMA ✈️🚀🍎
✅ GÖKDOĞAN Füzesi Atış Testi
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今回の成功は、単なる機体性能の証明に留まらず、レーダー、ミサイル、機体設計、運用システムまで、すべてをトルコ国内の技術で統合した「完全国産チェーン」による空対空戦闘能力の実現を意味する。
- 標的の捕捉・追尾: KIZILELMAに搭載されたトルコ製のアクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダー、Aselsan社の「MURAD」が、高速で飛行するジェット動力の標的機を正確に捕捉し、追尾を継続した。
- ミサイル発射と撃破: 補足・追尾が確立された後、機体に搭載された同じくトルコ国産の短・中距離空対空ミサイル「Gökdoğan」(ギョクドアン)が発射された。ミサイルは正確に標的に命中し、これを破壊。無人機がBVRで空中目標を撃破する能力を実証した。
有人・無人混成編隊(MUM-T)
この試験のさらなる重要点は、 KIZILELMA単独での能力実証に留まらず、有人機との連携を強く意識した運用を伴ったことにある。
- 混成編隊飛行: トルコ空軍のF-16戦闘機5機がメルズィフォン基地から離陸し、Kızilelmaと編隊飛行を実施した。これは、**「manned-unmanned teaming (MUM-T)」、すなわち有人機と無人機が同時に飛び、任務を分担・補完する「ロイヤル・ウィングマン」という未来の空戦コンセプトを現実のものとする一歩である。
- 試験の記録と監視: また、Baykar社の大型無人偵察攻撃機Bayraktar AKINCIも試験に同行し、空撮による記録とライブ監視を行った。これにより、試験の全プロセスが綿密に記録され、運用データの収集に役立てられた。
無人戦闘機KIZILELMA
Bayraktar #KIZILELMA ✈️🚀🍎
— BAYKAR (@BaykarTech) November 24, 2025
✅ Performance Test Flight#NationalTechnologyInitiative 🌍🇹🇷 pic.twitter.com/O82ENpcBmJ
Kızilelmaは、2013年に概念研究が開始され、2021年7月から本格的な開発が進められた新しい概念の無人戦闘機である。2022年12月に初飛行を成功させている。
最大の特徴は、Bayraktar TB2やAkıncıなどの従来の同社製ドローンや、米空軍のMQ-9リーパーなどが採用するプロペラ推進ではなく、シングルジェットエンジンを搭載している点である。最初のプロトタイプにはウクライナのIvchenko-Progress社製AI-25TLTエンジンが搭載され、最高速度はマッハ0.6(約735km/h)を予定。これはTB2の約3倍、Akıncıの約2倍以上の速度に達する。次期プロトタイプでは、アフターバーナーを搭載したAI-322Fエンジンが搭載される予定であり、これにより超音速飛行が可能となり、有人戦闘機と遜色ない速度性能を持つことが期待されている。最大1.5トンのペイロードを持ち、対地・対空双方の攻撃能力を有する。武装は翼のハードポイントの他、機体内部のウェポンベイにも収納され、レーダー反射断面積(RCS)を低減した、いわゆるステルス機としての設計が採用されている。
航空戦のパラダイムシフトがもたらす影響
無人戦闘機Kızilelmaによる今回の試験成功は、単なる技術的成果を超え、世界の航空戦ドクトリンに根本的な変化をもたらす可能性を秘めている。
- 有人戦闘機の代替または補完: 無人機。ドローンが発展した今でも、空対空戦闘は有人戦闘機の役割であった。しかし、無人機が有人機と同等の「キル能力」を持つことを実証したことで、人的リスクを伴わずに、よりコスト効率の良い方法で制空権の確保が可能となる。これは、有人機の代替または危険度の高い任務における補完戦力としての無人機の役割を確立する。
- 混成編隊(MUM-T)の本格運用: F-16との編隊飛行の実証は、将来的に無人機が有人機を支援し、センサー、射程、兵器の優位性を高める「ロイヤル・ウィングマン」的運用の実現を大きく前進させた。これにより、戦術的な柔軟性と戦場での生存性が飛躍的に向上する。
- 防衛産業の自立と競争力の強化: プラットフォーム、レーダー、ミサイル、運用システム全てをトルコ国内で開発・統合したことは、トルコの防衛産業の成熟と技術的自立を象徴している。高性能兵器分野における米欧依存からの脱却は、トルコの戦略的選択肢を広げ、国際的な輸出競争力も強化する。
- 航空戦の新たな時代の幕開け: 「有人機でなければ不可能」とされてきた空対空戦闘の領域に無人機が深く入り込んだことで、防空網、抑止力、戦略的優位の構造が根底から見直される契機となる。無人航空戦力の時代が「理論」から「現実」へと本格的に移行したことを示す歴史的な出来事である。
Bayraktar KIZILELMAによるジェット推進標的の視界外空対空ミサイルでの撃墜成功は、航空戦の常識を覆し、軍事技術の未来図を塗り替える可能性を秘めた、まさに歴史的な一歩であると言える。
