

米国の防衛テック企業、Anduril Industries(アンドゥリル)は2025年12月3日、日本法人「Anduril Industries Japan合同会社」の設立を発表し、日本の防衛産業と安全保障戦略に大きな波紋を投じました。2017年に米カリフォルニアで創業した同社は、従来の兵器メーカーとは一線を画し、ソフトウェア、AI(人工知能)、自律システム、ロボティクスを核とする「テック企業型」の防衛アプローチで急成長を遂げています。米国防総省をはじめとする主要な防衛機関との契約を重ねる中で、その技術は陸・海・空・サイバーを横断するセンサー、指揮統制(C2)、無人機、監視ネットワークを統合し、脅威の探知から迎撃までをソフトウェア主導で最適化する能力を持っています。Andurilが掲げる「スケーラブルで量産可能な防衛力」は、現代の戦争環境で求められる“即応性の高い防衛システム”への回答であり、設立8年足らずでその存在感を世界で急速に強めています。
日本進出の狙いと戦略的優先事項
Andurilがこのタイミングで日本法人を設立した背景には、日本の戦略的な重要性と、同社のテクノロジーが日本の防衛ニーズと完全に一致しているという認識があります。この進出は、主に以下の三つの戦略的狙いがあるとみられます。戦略的狙い
- 日本・インド太平洋地域の不安定化への対応:
中国の軍備拡張、台湾有事の懸念、北朝鮮のミサイル開発など、インド太平洋地域の緊張はかつてないほど高まっています。米国にとって日本は最重要拠点であり、Andurilの進出は、AIと自律システムを活用した同地域の防衛ネットワーク強化に直結するものです。 - 日本の高い製造業基盤との連携:
Andurilは米国で「Arsenal-1」などの大規模自動化工場を建設し、無人機やセンサーの量産体制を強化しています。日本進出は、日本の精密部品メーカー、電子産業、ロボティクス技術と連携し、「自律型無人システムの国産化」を見据えた動きと考えられます。既に日本企業との技術協力や部品調達で覚書を締結しており、将来的には国内製造ラインの構築構想も浮上しています。これは、日本が追求する防衛装備品のサプライチェーン強靱化にも貢献します。 - 日本防衛省との本格的な接点構築:
日本は現在、防衛費をGDP比2%に引き上げ、無人機、センサー、ミサイル防衛などの分野を急速に拡充しています。Andurilの技術はこれらの重点分野と完全に一致しており、将来的に離島防衛、ドローン迎撃、ミサイル探知ネットワーク、AI指揮統制といった領域で日本の装備体系に組み込まれる可能性が高く、直接的なビジネスチャネル構築が不可欠です。
Anduril Japanの4つの重点分野
これらの狙いを具体化するため、Anduril Japanは、日本の戦略的優先事項を考慮し、以下の4つの分野に注力していくと発表しました。
- 統合防空ミサイル防衛(IAMD):
高速化、多様化、複雑化する航空機やミサイルの脅威に対し、日本が求める**「ソフトウェア定義型の指揮統制アーキテクチャ」**を提供します。センサー、迎撃手段、オペレーターを一体化させ、「システム・オブ・システムズ」として機能させることで、分散型かつ多層的な防衛を実現する新しいモデル構築を支援します。 - 低コスト、スケーラブル、大量生産可能な能力:
拡張性とコスト効率に優れ、マルチドメインで協調運用できるネットワーク化された打撃システムを提供します。これは、日本の弾薬保有量拡充や「分散型運用コンセプト」追求への関心と完全に一致しています。迅速かつ大規模な生産を可能にする商用技術とモジュール設計を重視し、防衛能力をより低コストで戦力化します。 - 海洋自律システムと水中システム:
広大なインド太平洋における水上・水中の継続的な状況把握は共通の課題です。大型無人システムからAIを活用したセンシングネットワークまで、抑止力強化に貢献する自律型海洋技術を探求します。特にオーストラリアでの知見も活用し、スケーラビリティと大量生産性を重視した設計で、効率的かつ実効的な規模での展開を目指します。 - ヒューマン・マシン・チーミングと高度な自律性:
次世代の作戦において、人間と自律システムの**信頼に基づく協働(Human-Machine Teaming)**は不可欠です。AI、自律システム、デジタル基盤への取り組みを通じて、オペレーターが大規模かつ高度に適応性の高い戦力構造を指揮するための基盤を築きます。
Andurilが提供する「総合防衛エコシステム」
Andurilの事業は「単一の兵器を売る会社」ではなく、センサー+無人機+指揮統制+AIソフトウェアを統合し、自律型で運用できる**“総合防衛エコシステム”**を提供する企業である点が最大の特徴です。主な事業領域と代表的なシステムは以下の通りです。主要事業領域
- センサー・監視ネットワーク: 地上・海上・空中の広範囲センサーを統合し、AIで脅威を解析・識別します。
- 無人機(UAV)・自律ロボット: 小型ドローンから長距離巡航型、戦闘支援ドローンまで、多様な任務に対応する無人機群を開発しています。
- Counter-UAS(対ドローンシステム): 急増するUAVの脅威に対抗するための迎撃用ドローンなど、自律型の迎撃ソリューションを強みとします。
- 指揮統制(C2)プラットフォーム「Lattice」: Anduril製品群の中核となる統合ソフトウェアです。センサーからの情報収集、AI分析、指揮統制、そして迎撃や監視といった対応までを一元管理し、多領域作戦(MDO)に最適化されています。
- 量産・スケーラブルな製造: 自動化技術と商用部品を活用することで、従来の防衛産業では不可能だった迅速な大量供給とコスト効率を実現しています。
Andurilの主な製品






日本の安全保障に与える長期的影響
米Andurilの日本法人設立は、単なる外国企業の進出以上の意味を持ちます。これは、「AI × 自律システム × 量産」という、世界で最も先端的な新しい防衛モデルが、日本の安全保障戦略に本格的に組み込まれることを意味します。
自衛隊の装備体系は、長年の伝統的な有人システムから、AIと無人システムを融合させた**「スマート防衛」**へと急速にシフトを迫られることになります。また、日本の防衛産業も、自律型無人システムの国産化を目指すAndurilとの連携を通じて、従来の重工業中心の構造から、ソフトウェア・AI・テックを中心とする新たな産業構造への変革を求められる可能性があります。今後、離島防衛、対ドローン戦、広域監視網整備など、日本の防衛戦略における喫緊の課題とされてきた分野で、Andurilの提供するスケーラブルで即応性の高い製品群がどのように採用され、日本の安全保障に貢献していくかが、国内外から最も注目されるポイントとなるでしょう。
