

在日米空軍横田基地(東京都福生市など)に所属し、約50年にわたり日本の空と地域社会に貢献してきた多用途ヘリコプター、UH-1N「ツインヒューイ」が、2025年12月3日をもってその運用に終止符を打ちました。最後の機体は米本土への輸送のため、大型輸送機C-5Mに搭載され基地を後にしました。この退役により、1980年の横田配備開始以来、災害救助、要人輸送、医療搬送など多岐にわたる任務に従事してきたUH-1Nの歴史は幕を閉じ、太平洋空域における米空軍のUH-1N運用も正式に終了しました。
UH-1Nヒューイ


UH-1Nは、米空軍において1970年代から導入された多用途ユーティリティヘリコプターであり、ベトナム戦争で名を馳せた伝説的な「ヒューイ」系列、特にUH-1Hを双発化した機体です。正式名称にある「UH」(Utility Helicopter)が示す通り、その設計思想は極めて多用途性に富んでいます。兵員や物資の輸送、捜索救助(SAR)、医療搬送(MEDEVAC)、偵察、警戒、そして戦闘支援に至るまで、幅広いミッションに対応可能です。
UH-1Nの最も特筆すべき特徴は、その高い安全性に寄与するエンジンシステムにあります。搭載されているのは、プラット・アンド・ホイットニー・カナダ製の「T400-CP-400(PT6T)」というターボシャフトエンジンです。これは2つのタービンエンジンを1つのギアボックスに結合させた、いわゆる「ツインパック」方式を採用しており、万が一、片方のエンジンが飛行中に停止しても、残りの1基のエンジンで安全に飛行を継続できる冗長性を確保しています。この双発エンジンによる信頼性の高さこそが、単発機ではリスクが高いと判断される洋上飛行や夜間作戦、そして厳格な安全基準が求められる要人輸送任務など、横田基地における重要な任務遂行を可能にしてきました。
横田基地にUH-1Nが配備されたのは1980年。以降、在日米軍の回転翼任務の中核として、その活動範囲は多岐にわたりました。基地周辺地域における緊急の医療搬送(ホイストによる救助活動を含む)、行方不明者の捜索救難活動、在日米軍関係者や来日する重要人物の輸送、さらには離島支援や日米共同訓練への参加など、民生と軍事の両側面から地域社会に深く根差した運用が続けられてきました。特に、2011年3月11日に発生した東日本大震災に際しては、「トモダチ作戦」の一翼を担い、その存在感を強く示しました。福島第一原発事故に伴う放射線量の測定飛行、被災地への緊急物資輸送、そして被害状況の偵察など、過酷な環境下で重要な役割を果たし、日本側にもその貢献は広く記憶されています。
UH-1Nの乗組員は、こうした重要任務に対応するため、年間を通じて24時間体制で待機していました。出動要請から1時間以内に離陸可能な態勢を常時維持し、最も必要とされる局面で確実な任務遂行能力を発揮しました。直近では、2023年に負傷者搬送任務が再開されて以降、2023年12月28日の初出動から2025年8月21日の最終出動までの間に、合計15件の緊急患者搬送を実施し、人命救助に貢献しました。
退役の背景と後継機への移行
横田基地の広報の説明によれば、今回のUH-1N退役は、米空軍全体で推進されている回転翼航空戦力近代化方針の一環です。1970年代から運用され続けてきたUH-1Nは、時間の経過とともに老朽化が進行し、現代の任務環境で求められる性能(速力、航続距離、搭載量など)を十分に満たせなくなっていました。また、機体の性能的な限界に加え、維持整備コストの増大や安全性確保の問題も大きな課題となっていました。構造的な制約から、運用を続けること自体が困難になりつつあったのです。


米空軍は、UH-1Nの後継機として、ボーイングとレオナルド社が共同開発したMH-139A「グレイウルフ」の量産と導入を進めています。MH-139Aは、UH-1Nの双発という高い安全性を引き継ぎつつ、速度、航続距離、そしてアビオニクス(航空電子機器)において大幅な向上が図られており、特に核施設警備や輸送任務などで順次配備が開始されています。UH-1Nが抱えていた脆弱性を補う次世代機として、大きな期待が寄せられています。しかしながら、現時点において、横田基地へのMH-139Aを含む後継ヘリコプターの具体的な配備計画は発表されていません。今回のUH-1Nの退役により、現在、横田基地に駐留する米空軍のヘリコプターはゼロとなり、「ヘリコプター空白期間」が発生することが明らかとなりました。
東京都および周辺自治体に対する米側の説明では、「当面は地上輸送などの代替手段を活用する」とされています。これにより、本来UH-1Nが担っていた、回転翼機でなければ対応が極めて難しい救難活動や緊急医療搬送といった任務への影響が懸念されています。米軍側は「任務体制は維持される」と説明していますが、有事や大規模災害が発生し、日米共同で即応体制をとる必要が生じた際、回転翼機による対応の負担が自衛隊に偏る可能性も指摘されています。
