

米国防省と米海軍は12月22日、トランプ大統領、ヘグセス戦争長官、そしてジョン・C・フェラン海軍長官らが出席する中で、新型戦艦の建造計画を正式に発表した。この計画は、米海軍の海上戦力を根本から見直し、強化することを目的としたトランプ政権が推進する「ゴールデン・フリート(Golden Fleet)」構想の中心を担うものである。
TRUMP CLASS BATTLESHIPS ⚓️🇺🇸
— The White House (@WhiteHouse) December 22, 2025
President Trump announces Trump Class Battleships, manufactured in the USA, the new class ships will be the fastest, biggest and most lethal ships ever constructed. pic.twitter.com/pWj6IiQEEc
公式プレスリリースによれば、新設計の戦艦は「トランプ級戦艦(Trump-class battleships)」と命名され、そのネームシップ(一番艦)として USS Defiant(BBG-1) が計画されている。この新たな艦級は、大統領が公約として掲げる「世界最強の海軍力再構築」の象徴として位置づけられる。海軍は、最初に2隻のトランプ級戦艦を建造し、最終的には20隻から25隻を建造する計画だと述べている。
トランプ級戦艦の設計思想と能力


海軍広報の声明によると、トランプ級戦艦は、米海軍がこれまでに建造・運用してきたどの水上戦闘艦をも凌駕する、圧倒的な戦力を持つ見込みである。従来の駆逐艦や巡洋艦の能力を遥かに上回る戦闘力により、米海軍は今後の「制海・制空・抑止」戦略における決定的な優位性を確保することを目指す。
主要な艦艇諸元と特徴
- 排水量と規模: 新戦艦は排水量が3万〜4万トン級とされ、現行の米海軍の主力戦闘艦であるアーレイ・バーク級駆逐艦(約9,000トン)の3倍以上という巨大なサイズとなる。これは、第二次世界大戦で活躍した戦艦アイオワ級(5万トン)には及ばないものの、戦後建造された水上戦闘艦としては極めて異例の規模であり、従来の水上戦闘艦を大きく凌駕する排水量と搭載能力を持つことが示唆されている。全長は250~270mとアメリカ級、ワスプ級といった強襲揚陸艦と同等。乗員は650~850名とアーレイバーク級の倍だ。
- 兵装と新技術: 巨大な排水量と搭載力により、従来型のVLS(垂直発射システム)に加え、大容量のミサイル・兵装を多数搭載することが可能となる。トランプ大統領は、この新型戦艦がかつて海軍が運用したアイオワ級戦艦の「100倍の威力」を持つと豪語。具体的な搭載技術として、以下の先進兵器システムが挙げられている。
- 極超音速兵器: 最新のConventional Prompt Strike(CPS)型極超音速ミサイルの発射能力を保有する。
- 電磁レールガン: 開発中の技術として搭載が言及されているが、米海軍は2021年に開発を中止しており、実現性は不透明である。
- 高出力レーザー: 既にアーレイ・バーク級駆逐艦に試験的に搭載が始まっている高出力レーザー兵器システム。
- 核兵器搭載能力: 海上発射型巡航ミサイルの核搭載バージョン(Surface Launch Cruise Missile-Nuclear: SLCM-N)を含む能力を発揮し、艦隊単独での戦略的な深度打撃(戦略目標への攻撃)ポテンシャルを有するとされる。
VLSは128セルのMk41と12セルのCPSが計画されている。
多機能と役割の拡大
トランプ級戦艦は、単なる攻撃艦に留まらない多機能艦としての役割が期待されている。公式声明では、統合防空・ミサイル防衛(IAMD)、海上戦闘、対潜戦、そして航空機運用支援など、広範な任務に対応可能と説明されている。
特筆すべきは、「1隻で戦闘群を統率するコマンド・ノード機能」を持たせる計画である。これは、従来の戦艦には見られなかった高度な情報処理能力と統合戦闘システムの搭載を示しており、単なる打撃艦としてではなく、「艦隊司令艦としての役割」まで担うという、海軍戦略における新たな発想が盛り込まれている。海軍広報は、トランプ級が「現存するどの海軍にも匹敵し得る戦力」であり、単独での作戦遂行、または戦隊の中心として機能できることを強調している。
ゴールデン・フリート構想
トランプ級戦艦の計画は、大統領が推進する「ゴールデン・フリート(Golden Fleet)」構想の中核を成す、より大きな海軍力強化戦略の一部である。この構想は、海軍艦艇の総数と多様性を拡大し、現代的な海上戦力を再編・強化することを目的としている。具体的には、新型戦艦に加えて、軽量・高性能のフリゲート艦、無人海上プラットフォーム、補給・支援船など、複数の艦種を組み合わせることで、従来の艦隊構成を刷新する狙いが示唆されている。すでに同構想の一部として、今月19日には新型フリゲート艦「FF(X)」の導入も発表されており、これは2028年の就役を見据えた計画で、米海軍の戦力基盤を拡充する一翼を担う予定だ。
建造計画と今後の課題
今回の発表は、米国の海軍力を巡る議論が国家安全保障の中心テーマとなる中でなされた。トランプ大統領はメディア声明で「米海軍は旧態依然としている」と批判し、「世界最強の海軍力を再構築する」と強調したが、その一方で、専門家や軍事アナリストからは慎重な評価も出ている。この種の大型艦艇は建造・運用コストが極めて高い。トランプ級戦艦の建造費用は公式には明かされていないものの、これだけの大型艦では1隻あたりの建造費が100億ドル(約1.5兆円)を優に超す可能性が高いと推測されている。米国の造船能力や財政負担とのバランスをどう取るかが喫緊の課題である。同じ予算で、駆逐艦や潜水艦、無人戦力を多数整備した方が、中国海軍の艦艇数増加に対抗するという実戦的な観点から優位であるという指摘も根強い。
また、現代の海戦においては、制空権・情報優勢・長距離精密打撃が勝敗を決し、巨大な水上艦はむしろ高性能なミサイルやドローン攻撃の「格好の標的になりやすい」という構造的な脆弱性が指摘されている。これまでの海軍戦略における空母機動部隊や潜水艦戦力との整合性をどう保ち、トランプ級戦艦を効果的に運用するのかという点も、今後の戦略において問われることになる。
トランプ級戦艦の具体的な配備時期、建造予算、実戦運用シナリオなど、詳細については未だ明らかになっていない。関係者の一部報道では2030年代初頭の建造開始が想定されるとの指摘もあるが、確定的な公式声明は出されていない。
