

中国人民解放軍空軍(PLAAF)の主力戦闘機の一つとして長年運用されてきたJ-11(殲11)戦闘機の初期型の一部が、第一線部隊での任務を終え、地上整備(機務)訓練用として転用されていることが、中国国内メディアの報道を通じて明らかになりました。J-11は、ロシアのスホーイ設計局が開発した傑作機Su-27SKを中国がライセンス生産した機体であり、Su-27ファミリーはロシアをはじめ、依然として多くの国で現役の戦闘機として活躍しています。今回のJ-11Aの転用は、中国空軍における戦闘機戦力の世代交代の加速と、それに伴う専門的な教育・訓練体制の変化を象徴するものとして、大きな注目を集めています。
中国国営メディアCCTVの報道によると、1990年代後半に配備が開始された初期型のJ-11A戦闘機の一部が、既に前線部隊から引き揚げられ、航空大学や技術教育機関へと移管されています。これらの機体は、もはや実戦任務に就くことはありませんが、新たな形で空軍の戦力維持に貢献しています。具体的には、これらの機体は地上整備要員を育成するための「生きた教材」として活用されており、学生たちは実機を用いて高度な訓練を行っています。報道では、空軍工兵大学などの学生が、実機のJ-11Aに対して、PL-12といった空対空ミサイルの搭載手順を実演したり、機体の主要コンポーネントの分解・整備・故障診断といった実践的な教育が行われている様子が紹介されています。「退役した戦闘機が別の形で空軍に貢献している」という肯定的な論調で伝えられており、これは空軍全体の技術レベルの底上げを図るための、現実的かつ効率的な教育資源の再利用策として評価されています。
J-11戦闘機とは


J-11は、中国がロシアのSu-27SK制空戦闘機をライセンス生産する形で誕生した、大型の双発戦闘機です。1996年に中国とロシアの間で契約が締結され、中国の沈陽飛機工業公司が生産を担当しました。1998年頃から中国空軍への配備が始まりましたが、初期型のJ-11およびJ-11Aは、エンジン、レーダー、火器管制システムなど、主要な構成要素の多くをロシアからの輸入に依存していました。しかし、その後中国は航空技術の国産化を強力に推進し、J-11シリーズも独自に進化を遂げました。その成果として、国産アビオニクスやレーダーを搭載したJ-11B、さらに近代的なAESAレーダーを搭載するなど大幅な改良が施されたJ-11BGといった派生型が開発・配備されています。
ベースとなったSu-27「フランカー」は、旧ソ連のスホーイ設計局が、アメリカのF-15に対抗するために開発した大型・長距離型の制空戦闘機です。その高い機動性と長大な航続距離は世界的に知られており、現在もロシア・ウクライナ戦争におけるウクライナ空軍の主力機の一つとして、また多くの国々で現役の主力戦闘機として運用されています。J-11シリーズ全体では、これまで約250機が生産されたと推定されています。今回の退役・転用報道の対象は、主に初期型のJ-11Aに限定されており、後期型や派生型は現在も中国空軍・海軍航空隊で第一線での運用が継続されています。
J-11A退役の背景
初期型J-11Aが退役の対象となった最大の理由は、機体の老朽化と、中国空軍が進める戦闘機戦力の急速な世代交代にあります。J-11Aは製造から既に25年以上が経過しており、機体の疲労寿命の問題に加え、搭載されている電子機器の陳腐化、最新の空対空ミサイルや高度なネットワーク中心の戦闘(NCW)への対応能力の不足といった、運用上の課題が顕在化していました。


このJ-11Aの退役と訓練機への転用は、中国空軍が現在、大規模な近代化政策を推し進めていることの明確な表れでもあります。近年、中国は高性能な新世代戦闘機の生産と配備を急速に進めており、作戦の主軸は明確にこれらの新世代機へと移行しています。特に、ロシアのSu-30MK2をベースとした強力な多用途戦闘機であるJ-16の配備は目覚ましく、2025年時点までに既に400機以上が生産され、現在も年間約100機以上のペースで生産が続けられていると見られています。さらに、第5世代ステルス戦闘機であるJ-20も、配備数が300機を超えたとされており、これは第5世代戦闘機としてはアメリカのF-35に次ぐ世界第2位の規模です。J-20も年間100機以上というF-35に匹敵するペースで生産されており、中国空軍の質的な優位性を高めています。更に2機種目の第5世代ステルス戦闘機J-35の量産化も間近とされます。
中国空軍ではこうした新世代機の大量配備の結果、旧型戦闘機の退役が加速しています。一例として、かつて1000機近くを擁していた旧式のJ-7戦闘機は、2023年中に全機が退役を完了したとされています。そして今回、J-11Aもその流れに乗り、最前線での戦闘任務を終え、後方支援と教育・訓練用途という新たな役割へと回されることになったと分析されています。これは、中国空軍が量的な維持から質的な向上へと軸足を移していることを示唆しており、中国空軍な驚異的なスピードの近代化は引き続き注視する必要があります。
