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中国海軍、原子力潜水艦数でロシアを逆転 海中戦力“世界第2位”へ

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最新の各国海軍戦力分析は、世界の海洋におけるパワーバランスの劇的な変化を示唆している。特に注目すべきは、「中国人民解放軍海軍(PLAN)が保有する原子力潜水艦の総数が、長年の第2位であったロシア海軍を上回った」という評価の広がりである。新たな推定によれば、中国は現在、32隻もの現役原子力潜水艦を配備しており、これはロシア海軍の25隻から28隻という推定隻数を上回っている。この数字は、中国が米海軍の71隻に次ぐ、世界第2位の核動力潜水艦保有国となった可能性が高いことを意味する。

かつては「沿岸防衛海軍」としてその活動範囲が限定されていた中国海軍は、今や外洋で長期間にわたり作戦を遂行できる強大な水中戦力を手に入れた。この戦力増強は、広大なインド太平洋地域における戦略バランスを根本的に変えつつある。

原子力潜水艦の戦略的意義

原子力潜水艦は、その名の通り、艦内に搭載された原子炉を動力源とする。このため、燃料補給なしで事実上無限の航続距離と、数ヶ月にわたる長期潜航能力を持つ。通常動力型潜水艦(ディーゼル潜水艦)と比較して、はるかに高速で広範囲を移動可能であり、深海を含む外洋での作戦に最適化されている。

原子力潜水艦は、その任務によって大きく二つの種類に分けられる。

  1. 弾道ミサイル搭載原子力潜水艦 (SSBN: Ship Submersible Ballistic Nuclear):
    核弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射できるプラットフォームであり、敵の核攻撃を生き延び、海中から報復攻撃を行う「第二撃能力」の主力を担う。これは、核保有国の核抑止戦略の中核であり、国家の安全保障の「究極の保険」とも称される。
  2. 攻撃型原子力潜水艦 (SSN: Ship Submersible Nuclear) および巡航ミサイル搭載型原子力潜水艦 (SSGN: Ship Submersible Guided Missile Nuclear):
    敵艦隊の追跡・撃破、通商破壊、情報収集・監視、特殊部隊の輸送、そして巡航ミサイルによる対地攻撃など、幅広い多用途任務を遂行する。

現代の海軍にとって、この「戦略核抑止」能力と「多用途攻撃能力」を両立させた水中戦力を保持することが、海軍力の要諦となっている。

中国の原子力潜水艦戦力の構成

094型

中国の原子力潜水艦戦力は、以下の主要な艦級で構成されている。その合計隻数が、ロシアを上回る要因となっている。

1. 戦略弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)

  • 094型「晋級(Jin class)」
    現在の中国海軍における海中核抑止力の主力であり、中国が本格的な核抑止哨戒を実現するための基盤となっている。最新型のJL-3潜水艦発射弾道ミサイルや、旧型のJL-2ミサイルを搭載している。推定9隻から10隻前後が稼働中とされ、これにより中国は複数隻のSSBNを常時哨戒させる体制を整えつつあると見られている。
  • 092型(Xia級)
    中国初のSSBNとして建造された初期型。現在も1隻が運用中とされるが、その役割は実質的に訓練や技術試験に限定されており、第一線からは退いている。

2. 攻撃型原子力潜水艦(SSN / SSGN)

  • 091型(漢級)
    中国初の原子力攻撃潜水艦として1970年代から1990年代にかけて運用された。推定3隻が依然として運用されているが、静粛性の問題などから退役が進んでいる。中国の原潜技術開発の出発点となった歴史的な艦級である。
  • 093型「商級(Shang class)」
    現在の中国海軍の主力攻撃原潜である。基本型のType 093に加え、改良型の093A型が存在する。さらに、垂直発射装置(VLS)を備えることで巡航ミサイルによる対地・対艦打撃能力を大幅に強化したとされる093B型が登場した。093/093A型が約9~10隻、最新鋭の093B型が推定14隻稼働中とされ、この093シリーズが攻撃原潜の数を押し上げている。

3. 次世代潜水艦(開発・建造中)

  • 096型(次世代型SSBN)
    現在建造が進められている次世代戦略弾道ミサイル原潜。Type 094よりも大型化され、特に静粛性の大幅な向上が図られていると見られている。2020年代後半からの本格的な就役が予想されており、中国の海中核抑止能力を質・量ともに一段と引き上げることになる。
  • 095型(次世代SSN)
    開発中の新型攻撃型原子力潜水艦。静粛性、高性能センサー、およびより多くの兵装搭載量を目指して設計されている。将来的には、米海軍が誇るバージニア級攻撃原潜に近い水準の能力を持つことを目標としていると推測される。

隻数を超えた評価と米露との差

前述の艦級を合計すると35隻から37隻という数字になるが、この中には海上試験中や予備役に近い艦も含まれる可能性がある。軍事情報を公にしない中国軍の特異性から、正確な現役数は不明である。しかし、2026年時点の最も有力な推定では、中国の原子力潜水艦は30隻前後に達し、ロシア海軍の25隻から28隻規模を明確に上回ったとされる。この事実は、中国が過去15年間にわたり、国家の総力を挙げて原子力潜水艦の建造をほぼ途切れることなく継続してきた成果に他ならない。対照的に、ロシアは冷戦期に築いた巨大な潜水艦隊の更新に苦慮しており、老朽艦の延命と、限定的な数の新型艦建造に留まっている。ウクライナ戦争による財政・産業への負担も、ロシア海軍の近代化計画に影を落としている。一方、中国は国内造船産業の驚異的な急成長と、国家主導の巨額な軍備近代化投資を背景に、原子力潜水艦の量産体制を確立した。

ただし、潜水艦戦力は単純な「隻数」の比較だけでは、その実力を正確に測ることはできない。真の戦力優位性を決定づける要素は、以下の点である。

  • 静粛性(Stealth): 敵のソナー(水中音波探知機)に探知されにくいか。
  • センサー・通信能力: 敵を発見し、味方と連携する能力。
  • 乗員の練度: 複雑な潜水艦を効果的に運用する乗員の訓練水準。
  • 長期哨戒の運用経験: 外洋での持続的な作戦遂行とトラブル対応の経験。

この点で、中国の原子力潜水艦の「実力」はまだ不透明である。米海軍とロシア海軍は、長年にわたる運用実績と技術開発により、依然として静粛性や作戦経験で圧倒的な優位を保っていると評価されている。中国は現段階では「数で追いつき、質で追い上げている段階」と評価するのが現実的である。

海洋戦略バランスへの影響

中国の原子力潜水艦の増勢が、世界の海洋戦略にもたらす最大の変化は、その「外洋での持続的な水中プレゼンス」である。この水中戦力の強化は、以下の戦略的効果を生み出す。

  1. 南シナ海・東シナ海での制海権強化: 紛争海域での中国の水中における優位性を確立する。
  2. 台湾有事における米軍介入阻止能力の向上(A2/AD戦略の深化): 台湾海峡およびその周辺海域に接近する米空母戦闘群や揚陸艦隊を水中で脅威に晒すことで、米軍の介入を困難にする。
  3. 第二撃核抑止の安定化: SSBNの常時哨戒体制が確立することで、核ミサイルを海中に隠匿し、敵の先制攻撃による核戦力全滅を防ぎ、中国の核抑止力を安定させる。

特に、SSBNの常時哨戒体制の確立は、中国が本格的な「三位一体核戦力(陸上の固定・移動式ミサイル、戦略爆撃機からの発射、そして海中のSSBN)」を完成させることを意味する。

中国が原子力潜水艦の保有数でロシア海軍を上回ったという事実は、中国海軍が「地域海軍」から「大洋海軍」へと転換をほぼ完了しつつあることの象徴的な出来事である。水上艦艇の数では既に中国海軍が米海軍を上回っている中で、水中戦力でもこの「大洋海軍化」が顕著に進んでいる。これにより、世界の水中戦力の三極構造、すなわち「米・中・露」の均衡は、徐々に「米・中の二強構造」へと移行しつつある。今後10年間で、中国が096型や095型といった次世代原潜を本格的に配備し、その性能が米海軍に迫る水準に達すれば、インド太平洋の海中戦略バランスはさらに大きく、不可逆的に塗り替えられるだろう。世界の海軍力競争は、新たな局面を迎えている。

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