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英海軍、自律無人ヘリ「プロテウス」初飛行成功

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Royal Navy

イギリス海軍は2026年1月16日、画期的な一歩として、フルサイズの自律無人ヘリコプター「Proteus(プロテウス)」の初飛行成功を発表しました。この機体は、従来のドローンとは一線を画す「有人操縦席を持たない回転翼機」として設計され、複雑性や危険性の高いミッションにおける人員リスクの極小化と、作戦効率の劇的な向上を目指す英国の防衛における最重要プロジェクトの一つです。

Proteus無人ヘリ

「プロテウス」は、英国海軍(Royal Navy)と英国防省(MOD)、そして航空宇宙・防衛大手であるLeonardo UKが共同で開発した、世界でも初級の規模となる完全自律型の無人ヘリコプターの技術実証機です。総重量は約3トン級という有人ヘリコプターに匹敵するサイズ感を持ち、その能力は既存の小型ドローンを遥かに凌駕します。乗員スペースを排し、その代わりに高度な各種センサーと強力なコンピューティングシステムを搭載することで、人間を危険にさらすことなく任務遂行を可能としています。プロテウスは、単に小型ドローンを大型化したものではなく、有人ヘリコプターと同等の機体サイズを維持しつつ、より過酷な気象条件下や、複雑なマルチタスクを自律的に遂行できるよう設計されています。従来の有人ヘリの操縦席があった場所には、ミッションシステムやAI制御コンピュータが組み込まれており、外部からの遠隔操作のみに依存せず、機体自らが周囲の状況を的確に判断し、飛行経路の決定から任務の実行までを完遂する能力を備えています。

記念すべき初飛行は、イングランド南西端に位置するコーンウォール州のプレダナック飛行場(Predannack Airfield)にて実施されました。プロテウスはこの飛行において、自律制御システムのみによって、完全な離陸、所定の巡航、そして安全な着陸の一連の動作を成功させました。飛行中、地上の試験監督チームは安全管理上の監視を行っていましたが、機体は完全に自らの制御系と事前にプログラムされた飛行パターンを実行したことが確認されています。この歴史的な成功を受けて、英国国防省の関係者は、「これは英国の防衛技術史における誇るべき飛躍であり、海洋という複雑で絶えず変化する脅威環境に対応するための自律システムを実戦投入するための道筋を明確に切り開いた」と高く評価するコメントを発表しました。

プロテウスの開発においては、単なる無人化技術を超えた、極めて先進的なアプローチが採用されています。具体的には、高度なセンサー融合システム、AIベースの制御ソフトウェア、そして「デジタルツイン」による開発手法です。デジタルツインとは、実機の物理的な挙動を仮想空間内で精密に再現したシミュレーションモデルのことで、これを用いることで、航空力学的な特性、制御ロジック、環境認識能力などの様々な要素を、実機での試験を大幅に減らしつつ、効率的かつ安全に検証・改善することが可能となりました。

AW09(Leonard Helicopters)

機体そのものは、開発パートナーであるレオナルドが過去に設計・製造した実績ある軽量ヘリコプターKopter AW09をベースとしていますが、フル自律運航システムの統合と、より厳しい運用環境に耐えうるための構造強化が施されるなど、大規模な改修が加えられています。特に、洋上での厳しい気象条件にも耐えうる設計として、5枚ブレードのローターや、安全性の高いシャルデッド・テールローターを採用しています。さらに、1トン以上のペイロード搭載能力を持つモジュール式のペイロードベイを機体下部に備えており、これにより対潜ソナーや通信機器など、多様な任務機器の柔軟な搭載を可能としています。

将来の海軍作戦における役割

プロテウスは、今後、英国海軍の戦術体系の中核的なアセットとして組み込まれることが想定されています。特にその能力が最大限に発揮されると期待されているのが、対潜水艦戦(ASW)と長距離海洋哨戒の分野です。これらの任務は、広大な海域を長期間にわたって監視する必要があり、しばしば悪天候や敵対的な脅威が存在するリスクの高いエリアでの活動を伴います。有人ヘリコプターや固定翼機の場合、こうしたエリアでの長期活動は人間乗員の生命を危険にさらす可能性がありますが、プロテウスは初期設計段階からリスク分散型の運用に特化しており、人的リスクをゼロに抑えることができます。開発責任者は、プロテウスの役割を「『dull, dirty and dangerous(退屈だが、汚く、そして危険な)』任務を確実に遂行し、その結果、有人機が本来集中すべき高付加価値かつ戦略的な任務へと注力できるようにする」と定義しています。この役割は、将来的な英国海軍の航空戦力における混成航空戦隊(ハイブリッド・エア・ウイング)構想においても、中心的な役割を担う可能性が高いことを示唆しています。

プロテウスの開発と今回の初飛行成功は、ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧米諸国で顕著になっている軍事投資の加速と、無人・自律システム開発への重点シフトという国際的な潮流の中で位置づけられます。特に、北大西洋の海域における対潜水艦戦能力や海洋監視能力の強化は、NATO全体にとって最優先の課題となっており、英国はこのプロテウス技術によって、アトランティック海域における脅威対応能力を飛躍的に向上させる戦略的な意図を明確にしています。

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同様の大型自律回転翼機としては、米国でもシコルスキー社が無人ブラックホーク「U-Hawk」の開発を進めるなど、世界的に大型無人ヘリコプター技術の開発競争が激化しています。こうした動きは、将来の空中戦や海上戦における作戦概念が、有人航空機と無人機の高度な融合によって根本的に再定義される可能性を示唆しています。

現段階のプロテウスはあくまで技術実証機であり、本格的な実戦配備に至るまでには、さらなる多岐にわたる試験と厳格な評価が必要です。特に、自律制御システムの海洋環境における安全性と運用信頼性の確立、既存の指揮統制ネットワークへのシームレスな統合など、解決すべき多数の技術的・運用上の課題が残されています。しかし、今回の初飛行成功は、これらの課題解決と今後の発展に向けた極めて明確かつ力強い前進を意味します。英国国防省は、2040年までに海軍航空戦力の自律化を段階的に実現する戦略を掲げており、プロテウスに採用された中核技術は、その戦略を実行するための土台となる可能性が高いです。英国海軍は、この先進的な自律航空システムを駆使することで、将来的な海上作戦における優位性を確固たるものにすることを目指しています。

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