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戦闘機は損失以上に補充…RUSIが示すロシア空軍の現実

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英王立統合軍事防衛安全保障研究所(RUSI)が2026年1月に公表したレポートは、ロシア航空宇宙軍(VKS)の戦力状況に関する従来の認識を覆すものであり、ロシアの空軍力がウクライナ侵攻開始前の2020年から2022年頃と比較して、質的・量的に実質的な強化を遂げている可能性を指摘しています。この強化は、前線での損失を被りつつも、それを上回る規模での戦術機の補充・増強、長期にわたる実戦を通じた運用環境への適応、そして長距離攻撃能力の劇的な向上という三つの側面から分析されています。

The Evolution of Russian and Chinese Air Power Threats

航空機の生産と損失のバランス

オープンソース「Oryx」の調べによれば、ウクライナ侵攻開始以降、ロシア航空宇宙軍は約140機の戦闘機を、ウクライナ国内やウクライナによるロシア国内の前線空軍基地への攻撃によって失ったとされています。しかし、特筆すべきは、同時期にロシアの航空宇宙産業が約160機もの新造戦闘機を空軍に納入したという点です。RUSIの分析によれば、空軍機の損失は発生しているものの、生産・配備された機体数が損失を上回る傾向が明確に観測されており、これが戦力維持・強化の基盤となっています。

主要機種の戦力推移(侵攻前と2025~26年頃の比較)

特に以下の機種において、戦力維持・増加の傾向が顕著です。

機種侵攻前(〜22年頃)2025〜26年頃(推計)備考
Su-34 戦闘爆撃機約120〜130機約125〜機長距離飛行可能な爆撃機の需要は高く、約50機が新造
Su-35S 戦闘機約90〜120機約120機程度侵攻後も継続的に新造・補充が行われ、VKSの主力制空戦闘機としての稼働体制を維持。
Su-30SM/SM2約120機台約120機台戦術支援任務において重要な役割を担い、機体の維持・補充が継続的に実施。
Su-57 第5世代機数機〜1桁台約20機量産は限定的であるものの、配備が進んでおり、ステルス・多機能性の面で戦力の一部を構成。

Su-34については、多数の損失が報じられながらも、新造機の継続的な納入により、侵攻前よりも運用可能な機数が多い水準を維持している可能性が指摘されています。また、Su-35やSu-30についても、生産ラインが損失機を補う形で稼働し続けており、戦力全体としての崩壊は回避されています。むしろ、戦力は単に維持されただけでなく、その構成要素が最新鋭機で補充されることで、戦力全体が近代化されているという評価がなされています。

パイロットの熟練度向上と戦術運用

機体数の増加と並行して、パイロットの実戦経験の質的な向上も重要な要素として挙げられています。RUSIの報告書は、機体の損失率に比べ、パイロットの生存率が相対的に高いことに着目しています。ウクライナ国内で撃墜された一部のパイロットも捕虜交換を通じて戦線に復帰しており、彼らの実戦経験がVKS全体の戦術的熟練度向上に寄与している可能性が示唆されています。2022年以前は、NATO標準と比較してロシア人パイロットの年間飛行時間は相対的に低いとされていましたが、4年にも及ぶ長期の実戦投入により、経験と技術の底上げが図られています。特に、敵防空網や統合防空システムとの戦術的インタラクションに慣れた運用能力が蓄積されつつあると評価されており、これが今後の戦術的優位性に繋がる可能性があります。ロシア空軍は機体よりもパイロット不足に悩まされており、実戦経験を豊富に積んだ彼らの経験がパイロットの生存率を高める事に寄与しています。

スタンドオフ戦術の多用と生存性の向上

侵攻初期には、ウクライナ軍の防空網を過小評価し、近接航空支援(CAS)で多数の機体が撃墜されるケースが散見されました。これに対し、VKSは戦術を適応させ、戦術爆撃機Su-34やマルチロール戦闘機Su-35などで、長距離に対応した航空兵器や精密誘導爆弾の活用頻度を高める戦術に移行しました。具体的には、直接的な対空圏内に入らずに攻撃を行う「スタンドオフ戦術」を多用する傾向が強くなっています。

  • Su-35やSu-30SM2:対空戦においては、射程300km以上を誇る長距離空対空ミサイルR-37Mを主装備とし、敵機を安全圏から攻撃します。
  • Su-34 戦闘爆撃機:射程60kmから最大130kmの精密誘導爆弾UPMK/UPMB滑空爆弾を主装備として運用を進めており、これにより、航空機自身が危険な近接位置まで行く必要性が低下し、機体の生存性が相対的に向上していると分析されています。

RUSIの分析は、単に航空機の数を比較するだけでなく、ロシア空軍力が示す戦術的な適応能力と運用成熟度を強調しています。この報告は、「ロシアの航空戦力は2020年時点と比べ、欧米の空軍に対する脅威が増大している」という見方を提示しており、NATO加盟国に対し、現在の防空・制空戦略の再検討を促すものとなっています。ロシアが戦争を通じて実戦経験を積み、戦力を近代化・適応させている事実は、西側諸国にとって長期的な安全保障上の課題を突きつけていると言えます。

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