

2月13日、アメリカのトランプ大統領は、中東地域における軍事プレゼンスを大幅に強化する方針を発表した。最新鋭の原子力空母「USS Gerald R. Ford(CVN-78)」を中心とする空母打撃群を、すでに展開中の空母「USS Abraham Lincoln(CVN-72)」に続く2隻目の空母戦力として追加派遣するという決定だ。この動きは、イランの核開発問題と地域における影響力拡大に対する米政府の軍事的・外交的圧力を一段と強める意図を鮮明に示すものである。
トランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、イランとの間で進行している核開発問題を巡る協議が「行動を伴わない表面的なもの」にとどまっていると強く批判した。大統領は、「我々は合意を求めているが、もし合意が成立しなかった場合に備える必要がある」と述べ、今回の追加派遣が外交交渉の膠着状態に対する軍事的な「保険」であることを示唆した。米軍関係筋の情報によれば、「ジェラルド・R・フォード」空母打撃群は、元々ベネズエラに対する圧力と麻薬密輸対策を目的としてカリブ海で展開中であったが、緊急の命令を受けて航路を変更し、ペルシャ湾方面へ向かっている。この巨大戦力が中東に到着するまでには数週間を要する見込みであり、その間にも外交交渉の行方が注目される。


圧力戦略としての空母展開
今回の空母追加派遣は、トランプ政権がイランに対する対話と圧力の両面戦略、特に「軍事力を背景とした圧力戦術」を強化する方針の象徴である。空母は、その高い戦力投射能力と搭載する多数の戦闘機・早期警戒機を通じて、広範囲にわたる軍事的な影響力を行使することが可能だ。米国防総省は、最新鋭の技術を結集した「ジェラルド・R・フォード」打撃群が既存の「リンカーン」打撃群に加わることで、中東地域における偵察活動、航空作戦の柔軟性、そして迅速な火力投射能力が劇的に強化されると説明している。これは、イランとその支援勢力に対する明確な抑止力として機能することを意図している。
地域情勢への影響と外交のデッドライン
現在、アメリカ政府はオマーンを仲介役としてイランとの間で核開発問題に関する協議を継続している。しかし、対話の進展は非常に限定的であり、イラン側は核濃縮の段階的制限については協議の余地を示唆しつつも、弾道ミサイル能力の制限や地域内の武装勢力支援といった、米国が重要視する問題については一切譲歩する姿勢を見せていない。この膠着状態を受け、トランプ政権は核合意成立の期限を「今後1カ月程度」と位置付けているとされる。このデッドラインまでに進展が見られなければ、外交努力に加え、経済制裁と軍事的な圧力をさらに高める構えを明確にしている。軍事的な観点から見れば、空母2隻体制の展開は、イランによるホルムズ海峡やペルシャ湾といった原油輸送の要衝における挑発行為を牽制する狙いがある。地域情勢の緊張は世界経済に直結するリスクを孕んでおり、米国は海上戦力による即応態勢を整えることで、同盟国であるイスラエルや湾岸諸国への安全保障の誓約を具体的に示している。
今回の追加派遣には、中東地域の安定化を図るうえでの政治的なメッセージも含まれている。トランプ政権は、ネタニヤフ・イスラエル首相をはじめとする地域周辺の同盟国首脳との連携を重視しており、協議の対象を「核問題だけでなく地域の暴力的勢力への対応」にまで広げるべきだと主張している。これにより、米国は単独の軍事行動に留まらず、同盟国の安全保障ニーズに応える姿勢を強調し、広範な地域の脅威に対処する意図を示している。
米海軍内部の懸念
一方で、このような大規模かつ長期にわたる空母の展開には、米海軍内部から懸念の声も上がっている。海軍高官の一部は、空母の長期派遣が乗組員や艦艇の整備・メンテナンス体制に大きな負担を強いると指摘している。通常、空母の展開期間は6〜7カ月程度が目安とされるが、「ジェラルド・R・フォード」は当初、2025年6月からの欧州作戦を予定、その後、同年11月にベネズエラでの作戦対応として急遽カリブ海へ派遣され、すでに8カ月近くにわたり海上展開を続けている。今回の延長命令は、艦艇のメンテナンススケジュールに影響を及ぼし、長期的な戦力維持に支障をきたす可能性が指摘されている。このため、海軍首脳の一部からは、コストと負担の大きい大型空母ではなく、「小型で機動的な戦力」の活用を模索すべきだとの意見も出始めている。
米国の軍事力強化に対し、イラン側も反発の姿勢を強めている。テヘランの高官は、米国がもし攻撃に踏み切った場合、地域内の米軍基地に対して即座に報復措置を取る用意があると警告しており、軍事プレゼンスの強化が逆説的にリスクを高める可能性も孕んでいる。今回の空母追加派遣は、イランとの対立が外交、経済、そして軍事の多層レベルで進行している現状を象徴している。核問題は依然として最大の焦点であり続けるが、弾道ミサイル能力や地域の代理勢力支援といった諸問題を巡る溝は深く、米国は今後も「軍事力を背景とした圧力戦術」を核とした対イラン戦略を強化していくと見られる。
