

米軍は、2026年3月のイランへの軍事作戦において、次世代地上発射型ミサイル「Precision Strike Missile (PrSM)」を初めて実戦投入しました。これは、従来の長距離精密打撃能力を劇的に進化させた兵器システムとして、世界中の軍事関係者から大きな注目を集めています。今回のイラン戦争における投入は、この「次世代地上打撃兵器」にとっての歴史的な「実戦デビュー」となり、今後の戦争のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
PrSMの登場は、地上部隊による遠距離精密攻撃能力を飛躍的に高めることを意味します。これまで、数百キロメートル先の敵深部への攻撃は、主に航空機や海軍の巡航ミサイルに依存していましたが、PrSMはこれを地上部隊単独で、迅速かつ高精度に実行可能としました。
次世代精密ミサイル PrSM


PrSMは、米陸軍が長年使用してきた戦術ミサイルATACMS (Army Tactical Missile System)の後継として開発された、最新鋭の弾道ミサイルです。開発は、世界的な防衛大手であるロッキード・マーティン社が担当しました。近年、各国で長射程の精密打撃能力の重要性が高まる中、特に中国やロシアといった「大国間競争」を念頭に、射程と火力の劇的な向上を目指して設計されました。
主な性能諸元
| 項目 | 詳細 |
| 種別 | 地上発射型弾道ミサイル |
| 射程 | 500km以上(当初型。将来的に700~1000kmへ延伸予定) |
| 誘導方式 | GPS(全地球測位システム)+慣性誘導 |
| 発射プラットフォーム | M142 HIMARS (High Mobility Artillery Rocket System)、M270 MLRS (Multiple Launch Rocket System) |
| 搭載能力 | 1つの発射ポッドに2発搭載可能(旧型ATACMSは1ポッド1発) |
特に重要な特徴は、同じ発射機を使用しながら、旧型ATACMSと比較して「倍のミサイル」を搭載できる点です。これにより、ロケット部隊全体の火力密度が飛躍的に向上しました。
イラン攻撃で示された戦略的価値
In a historic first, long-range Precision Strike Missiles (PrSMs) were used in combat during Operation Epic Fury, providing an unrivaled deep strike capability.
— U.S. Central Command (@CENTCOM) March 4, 2026
“I just could not be prouder of our men and women in uniform leveraging innovation to create dilemmas for the enemy.”… pic.twitter.com/bydvIv5Tn5
米軍中央軍(CENTCOM)は、2026年3月の対イラン軍事作戦において、PrSMが初めて実戦使用されたことを正式に認めています。PrSMが使用された主な目標は、イラン軍の高価値軍事目標(High-Value Military Targets)とされています。具体的には、防空ミサイル、レーダー施設を初期段階で攻撃、防空システムを無力化。指揮統制施設(C2)を破壊し、部隊連携の中枢を麻痺させ、弾薬庫を破壊し、継戦能力を低下させ、滑走路を使用不能にし、航空戦力の運用を阻害する攻撃などに使用されたとされます。これらの深部攻撃は、従来、航空機や高価な巡航ミサイルに依存していましたが、PrSMの登場により、地上部隊単独で数百キロ先の戦略的標的を攻撃する能力が現実のものとなりました。攻撃は、イランの隣国に展開していたクウェートからの発射によって行われました。
戦争の初動を変える兵器
PrSMは単なる新型ミサイルという枠を超え、「戦争の初動と性格そのものを変える兵器」として極めて高く評価されています。その理由は、3つの革新的な特性にあります。
① 射程の大幅な延伸による生存性の向上
- 射程の比較: 旧型ATACMSの最大射程が約300kmであったのに対し、PrSMは初期型で500km以上を達成しました。
- 戦略的意味: この長射程化により、発射部隊は敵の標準的な砲兵やロケットの射程圏外から安全に攻撃を実行できます。仮に探知されたとしても、退避に十分な時間があるため、発射部隊の生存性は飛躍的に向上します。また、作戦可能な戦線(エリア)が大幅に拡大することを意味します。
② 同一発射機での火力倍増
- 搭載数の革命: ATACMSは1つの発射ポッドに1発しか搭載できませんでしたが、PrSMは1ポッドに2発を格納可能です。
- 攻撃能力の向上: HIMARS発射機の場合、ATACMSでは最大2発しか搭載できませんでしたが、PrSMでは最大4発の搭載が可能となります。これにより、同じ車両数、同じ時間、同じコストで、攻撃能力がほぼ倍増します。これは、敵の防空網を一気に打ち破る飽和攻撃や、大規模な同時多発攻撃において、極めて重要な要素となります。
③ 航空機に依存しない遠距離打撃能力の確立
- 初期段階での優位性: 戦争の初期段階では、まだ制空権が確立されておらず、敵の強力な防空網が残存している状況が一般的です。このような高脅威環境下では、高価な有人機を敵の深部に送り込むリスクが高すぎます。
- 地上部隊の役割変化: PrSMは、そのような状況下でも地上部隊だけで、敵の重要インフラや防空システムを迅速に叩く「深部攻撃(Deep Strike)」を可能にします。これにより、航空戦力のリスクを軽減しつつ、戦争初期の主導権争いで決定的な影響を与えることができると見られています。
将来型はさらに強力へ:対艦ミサイルへの進化
今回実戦投入されたのは初期型のPrSMですが、米陸軍とLockheed Martinは、さらなる能力向上を計画しています。
- 射程の延伸: 目標射程は700km〜1000km級への延伸が予定されており、これにより、さらに広範囲の戦略目標が射程内に入ります。
- 移動目標攻撃能力: 従来の固定目標に加え、走行中の車両やミサイル発射機などの移動目標を攻撃する能力が追加されます。
- 対艦型(Naval Strike Missile)の搭載: 最も注目される進化の一つが、艦艇攻撃能力の付与です。これが実現すれば、PrSMは単なる陸上攻撃兵器ではなく、地上発射型の強力な「対艦ミサイル」としても機能し、特にインド太平洋地域における海軍力のバランスに大きな影響を与える可能性があります。
PrSMの実戦投入は、単なる最新兵器の利用という技術的な意味合いに留まらず、戦略的にも極めて大きな意味を持ちます。冷戦終結後の戦争では、航空機、巡航ミサイルを中心とした遠距離攻撃が主流でした。しかし現代の戦争、特に大国間競争においては、ミサイル、無人機(ドローン)、ロケット砲を組み合わせた「多層型長距離精密攻撃」が主流となりつつあります。PrSMは、この多層的な攻撃ネットワークの中核を担う存在として位置づけられています。軍事関係者の間では、PrSMはしばしば「HIMARSを戦略兵器に変えたミサイル」と称されます。HIMARSを運用するロケット部隊は、従来は戦術レベルの火力支援部隊と見なされていました。しかしPrSMの射程と精密性により、この部隊が数百キロ先の敵の戦略目標(国家の中枢、大規模インフラなど)を攻撃できるようになったことは、戦争の性格そのものを一変させたと評価されています。この長距離精密攻撃の重要性は、ロシア・ウクライナ戦争でも実証されています。アメリカから供与されたHIMARSとATACMSは、ロシアの重要拠点、補給線、防空システムを長距離から精密に破壊し、戦況に決定的な影響を与えました。PrSMは、その能力をさらに高いレベルへと引き上げる存在となります。
