

アメリカ空軍は、新型戦闘機F-15EX Eagle IIの調達計画を大幅に見直し、最終的な調達数を従来の計画から倍増に近い約267機規模へと拡大する方針を具体的に検討している。これは、当初予定されていた約129機という数字から大きく上振れするものであり、米空軍の戦闘機戦力構成における戦略的な転換点となる可能性が高い。この劇的な計画変更の背景には、喫緊の課題となっている既存戦闘機の急速な老朽化と退役加速、そして将来的な戦力不足に対する深刻な懸念が存在する。
老朽化するF-15Eの更新が最大の要因
当初、F-15EXは主として冷戦時代に開発された旧式の制空戦闘機F-15C/D Eagleの後継機としての役割が期待されていた。しかし、近年ではその役割が拡大し、より重要性の高いF-15E Strike Eagle戦闘爆撃機の更新任務を担う可能性が極めて高くなっている。F-15Eは1980年代に開発・配備された長距離打撃機であり、湾岸戦争以降、中東やアフガニスタンといった紛争地域で長期にわたり酷使されてきた。直近のイラン戦争においても主力攻撃機として投入され、イラン領内での撃墜と大規模なパイロット救出作戦が実施された事例も記憶に新しい。
しかし、長期間の高負荷運用によって機体の疲労、特に構造的な老朽化が深刻に進行しており、今後2030年代に向けて、現役のF-15Eの多くが大規模に退役することが避けられない状況となっている。現在、米空軍は約218機のF-15Eを運用しているが、既に2027会計年度では20機もの退役が申請されており、この流れは加速する見通しだ。F-15EXの大幅な追加調達は、このF-15Eの退役によって生じる広範な戦力空白を埋めるための、最も現実的かつ迅速な手段として位置づけられている。
深刻化する米空軍の戦闘機不足問題
米空軍は現在、同軍が必要と見なす理想的な戦闘機数を満たしておらず、内部評価では、想定される戦力規模と比較して数百機単位の戦力不足が生じている可能性が指摘されている。この戦力不足の背景には、主に以下の三つの複合的な要因が存在する。
- 老朽機の退役ペースが、当初の予測を上回って加速している。
- 新型機(主にF-35A)の調達速度や生産体制が、老朽機の退役ペースに追いついていない。
- 中国との大国間競争の激化に伴い、要求される航空戦力の総量自体が増大している。
特に近年、中国空軍(PLAAF)はJ-20をはじめとする第5世代ステルス戦闘機の増勢を急速に進めており、その近代化のスピードが米軍の戦力計画に直接的な影響を与えている。
F-35単独では補えない「ハイ・ロー・ミックス」の現実
米空軍の将来戦力の柱は、高性能ステルス戦闘機F-35A Lightning IIであることに変わりはない。しかし、F-35Aは極めて高い能力を持つ一方で、調達コストおよび機体の維持費が高額である点が大きな課題として残る。さらに、複雑な生産体制や整備体制の制約から、短期間で要求される数を大量に配備することが構造的に困難である。この現実を踏まえ、米空軍はステルス機のみで構成する戦力構成ではなく、以下の要素を組み合わせる「ハイ・ロー・ミックス」戦略を重視している。
- ハイエンド(High-end): 高度なステルス性能とネットワーク戦闘能力を持つF-35A/F-22などの機体。
- ローエンド(Low-end): 大量搭載能力と高い稼働率を持つ非ステルス機。
この「ローエンド」の役割を担う中核こそがF-15EXであり、特に大量のミサイルを搭載可能な「弾薬運搬機(ミサイルトラック)」としての役割が強く期待されている。実際に、同年度の予算案ではF-35Aの調達数を従来の計画から半減(48機から24機へ)させる案が浮上しており、これは、ハイエンドなステルス機への偏重を抑え、戦闘機戦力の量的な機体数(マスの維持)を確保しようとする米空軍の現実的な姿勢を明確に示している。
F-15EXの最大の強み
F-15EXが選ばれる最大の理由は、その並外れた兵装搭載能力と既存のインフラを活用できる即時性にある。
1. 大量兵装運用能力


F-15EXは、最大23箇所もの兵装ステーションに最大約13.3トンという驚異的な兵装を搭載できる。これにより、最大で20発以上の空対空ミサイルを搭載可能とされており、長距離空対空戦闘において、圧倒的なミサイルの「数」で優位性を確保する能力を有する。また、将来的に開発される大型の兵装や、極超音速兵器の搭載プラットフォームとしても期待されている。世界最速級の最高速度(マッハ2.5)と約4,800km以上の長大なフェリー航続距離を持ち、最大ペイロード時でも約1,270km以上の高い戦闘行動半径を誇るこの能力は、特に中国との大規模な航空戦が想定される西太平洋地域において極めて重要視されている。同地域では作戦距離が長く、限られた数の航空戦力で最大限の兵装を運用する必要があるためだ。
2. 即時増勢可能な「現実的選択」
F-15EXのもう一つの決定的な利点は、比較的短期間で増産・配備が可能な点にある。F-15EXは、既に生産・運用実績のあるF-15シリーズの最新型であるため、既存の生産ラインを活用して迅速な生産が可能である。さらに、既存のF-15の運用基盤(パイロットの訓練体系、整備設備、サプライチェーン)をそのまま流用できるため、全く新しい機種を導入するよりもはるかに迅速に部隊を近代化でき、戦力空白期間を最小限に抑えることができる。この「すぐ増やせる戦闘機」という側面こそが、深刻な戦力不足に直面している米空軍にとって、現在の状況を打開するための極めて重要な要素となっている。
ステルス偏重の修正と戦略の転換点
今回のF-15EX増勢計画は、米空軍の戦闘機調達戦略における重要な転換点となる可能性が高い。かつては、F-22やF-35といったステルス機中心の戦力構成が最優先事項とされていたが、近年では以下の様な現実的要素が再評価されている。
- 数量(Mass):一定の任務を遂行するために必要な機体の総数。
- 維持性(Sustainment):高い稼働率と低コストでの運用維持能力。
- 兵装搭載量(Payload):一回の出撃で運搬できる兵器の総量。
F-15EXの調達倍増は、単なる老朽機の単純な置き換えに留まらず、米空軍が直面する「戦闘機不足」という構造的な問題に対する、極めて現実的かつ迅速な対応を象徴する動きといえる。
今後の焦点は、実際にどの程度の規模までF-15EXの調達が拡大するかにある。老朽機の退役ペースのさらなる加速や、将来戦闘機計画(NGADなど)の進展状況によっては、この数字がさらに増加する可能性も否定できない。F-15EXの増勢は、単なる装備の更新ではなく、米空軍が直面する戦力の量的不足という根深い課題への対応策として、今後も国際的な注目を集めることになるだろう。
