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イタリアが空母を無償譲渡 なぜインドネシアは艦載機なしで空母を得るのか

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イタリア政府は、退役した軽空母「ジュゼッペ・ガリバルディ(Giuseppe Garibaldi, C 551)」をインドネシアへ無償譲渡する方針を固めました。イタリアメディアの報道によると、すでにイタリア議会の承認も得ており、友好関係の強化を名目とする防衛協力の一環として供与される見通しです。

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「ジュゼッペ・ガリバルディ」は、1985年にイタリア海軍に就役した同国初の本格的な空母であり、長きにわたりイタリア海軍艦隊の中核を担ってきた功績ある艦艇です。しかし、近年は老朽化が著しく進行し、2024年12月に最新鋭の強襲揚陸艦「トリエステ」(Trieste L9890)が就役したことを受け、同年10月に退役しました。退役後間もないことから保存状態は良好とされており、海洋作戦能力の強化を目指すインドネシア側も、かねてより購入を検討していました。老朽化しているとはいえ、近年まで現役で稼働していた同艦の資産価値は、5,400万ユーロ(日本円で約100億円)と見積もられています。この価値を持つ大型艦艇を「無償譲渡」するという異例の決定の裏には、イタリア側の現実的な合理性が存在します。

退役した大型艦艇は、その維持・保管・解体に多額の費用と手間がかかります。第三国へ供与することで、イタリア政府はこの膨大なコスト負担を回避することができます。さらに、譲渡後には、近代化改修、補修・保守といった分野で、イタリア企業が関与する「二次ビジネス」を創出する可能性も秘めています。加えて、防衛装備品の供与は、単なる経済的な取引に留まらず、外交関係の強化や、将来的なより大きな装備ビジネスへと繋がる重要な「布石」となり得ます。実際、目覚ましい経済成長を遂げているインドネシアは、近年、防衛力の近代化を急ピッチで進めており、欧州製の装備品の導入に積極的です。特にフランス製のラファール戦闘機をはじめとする大型調達が知られています。今回の艦艇供与は、イタリアにとって、成長著しい東南アジアの防衛市場、特にインドネシアへの確固たる足掛かりを強化する、戦略的な意味合いを持つものとみられています。

インドネシアが描く運用構想

一方、供与を受けるインドネシア側の意図もまた、単純ではありません。約1万7,000もの島々から成る世界最大の群島国家であるインドネシアにとって、広大な排他的経済水域(EEZ)と領海をカバーするための機動的な航空運用能力は、喫緊の課題です。しかし、「ジュゼッペ・ガリバルディ」の運用は、従来の本格的な空母運用とは一線を画します。同艦はカタパルトを備えない軽空母であり、運用できる航空機は短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機に限定されます。イタリア海軍はかつてSTOVL機であるAV-8B ハリアーを運用していましたが、世界的に退役が進んでおり、これを新たに導入するのは現実的ではありません。また、STOVL機の代表格である最新鋭のF-35Bは、極めて高価であり、導入・運用コストの面でインドネシアにとってハードルが非常に高いのが現状です。本格的な固定翼戦闘機を運用する「空母」としての運用は、現実的ではないと言えます。

有力視される「無人機母艦」構想とその戦略的価値

©Baykar

こうした制約の中で、最も有力視されているのが、無人航空機(UAV)を艦載機として運用する「無人機母艦」構想です。インドネシアはすでにトルコ製の無人機の導入を進めており、その経験とインフラの延長線上で、艦載型無人機の運用が有力な選択肢として浮上しています。特に注目されているのが、トルコのバイラクタル社が開発した艦載型無人攻撃機「バイラクタルTB3」です。同機は短距離離陸能力と折りたたみ翼を備えており、軽空母や強襲揚陸艦での運用を前提に設計されています。大型の戦闘機に比べてTB3のような無人機は大幅に低コストで調達・運用が可能であり、多数機を同時に運用することで、広範囲の監視・偵察任務や、対地・対水上への攻撃任務を効率的に行うことが可能となります。この「無人機母艦」構想が実現した場合、「ジュゼッペ・ガリバルディ」は、従来の艦載戦闘機を運用する空母ではなく、ドローンを多数搭載・運用する「無人機母艦」として、インドネシア海軍の新たな戦力となる可能性が高いです。

新たな海上戦力モデルの試金石

無人機を中心とした運用には、制空能力が限定的であることや、通信妨害などの電子戦環境への依存度が高いことなど、いくつかの課題が残ります。また、艦自体の防御力や、護衛艦との連携も不可欠です。しかし、インドネシアにとっての喫緊の脅威は、南シナ海などの国家間の紛争リスクに加え、国内のパプア地域における独立を求める武装グループや、イスラム国(IS)などの過激派組織による脅威も含まれます。これらの脅威に対しては、偵察・監視、そしてピンポイントの航空支援用途として、無人機は非常に有効な手段となり得ます。この「無人機母艦」構想は、従来の高価な有人戦闘機に依存する空母運用とは一線を画すものです。比較的安価な無人機を多数運用することで、コストを抑えつつ、広大な海域をカバーするための一定の航空戦力を確保するという、新たな海上戦力モデルの試みとして注目されます。

今回のイタリアからの無償譲渡は、単なる退役装備の移転に留まるものではありません。インドネシアがこの旧式空母をどのように活用し、新たな「無人機母艦」としての運用モデルを確立できるか否かは、今後の世界の海上戦力の方向性を占う上で、極めて重要な試金石となるでしょう。

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