

アメリカ議会調査局(CRS)による最新の報告書が、米軍がイランに対する軍事作戦「Operation Epic Fury」において、少なくとも42機の航空機を喪失、または大破させたという衝撃的な事実を明らかにした。この損耗規模は、ベトナム戦争以降の米軍航空戦力における最大級の損失と見られており、長らく米軍の基盤であった「航空優勢神話」に深刻な亀裂を入れるものとなった。この42機という数字には、イラン軍の攻撃により撃墜された機体だけでなく、地上攻撃で破壊された機体、飛行中の事故による損失、そして味方による破壊処分(自爆処分)された機体も含まれている。CRSは現在も詳細な精査を続けており、今後、この数字が修正される可能性も示唆しているが、現時点での損害規模だけでも、米軍にとって極めて深刻な事態であることは明白だ。
U.S. Aircraft Combat Losses in Operation Epic Fury: Considerations for Congress
無人機戦力の大量喪失


最も大きな損失を出したのは、近年、米軍が急速に依存度を高めてきた無人機戦力であった。報告書によれば、MQ-9Aリーパー無人攻撃機が24機も喪失したと記録されている。イラン側は、開戦初期から、高度な電子戦システムと多層的な防空網を巧妙に組み合わせた「ドローン狩り」戦術を展開。米軍の長時間滞空型ISR(情報・監視・偵察)の主軸であったリーパーに対して壊滅的な打撃を与えた。


さらに注目すべきは、MQ-4Cトライトン高高度偵察機1機の喪失である。このトライトンは製造数が極めて少なく(約20機)、1機あたりの調達コストが約2億4000万ドル(日本円で約380億円)に上る、極めて希少かつ高価な戦略アセットである。その喪失は、単なる数以上の、米軍にとって財政的・戦略的に大きな痛手となった。
この大量喪失は、米軍が「無人機も、高密度防空環境下においては極めて脆弱である」という冷厳な現実を浮き彫りにした。無人機はパイロットの人的損失がないため、危険度の高い空域への投入が許容される一方で、本質的に低速で回避行動能力が低く、対空兵器に対して脆弱であることが改めて証明された。実際、イエメンではフーシ派によってMQ-9が既に10機以上撃墜されている実績があり、その脆弱性は以前から指摘されていた。
“友軍誤射”によるF-15Eの同時喪失


今回の作戦で最も衝撃的な事件の一つとして、3月2日に発生したF-15Eストライクイーグル3機の同時喪失事件が挙げられる。CRS報告書によると、この事件は、イラン軍によるミサイル・ドローン攻撃が激化する中、クウェート空軍のF/A-18戦闘機が、米空軍のF-15Eを友軍機と誤認できず、撃墜したというものである。乗員6名は全員脱出し、人命の損失は免れたものの、これは米軍にとってアフガニスタン戦争以降で最悪クラスの単日航空損失となり、作戦の指揮系統と連携における深刻な問題を示唆した。
さらに4月3日には、別のF-15Eがイラン上空で携帯式地対空ミサイル(MANPADS)によって撃墜される事件が発生。米軍は直ちに大規模な戦闘捜索救難(CSAR)作戦を発動したが、この「救出作戦」が、さらなる航空機の損失を拡大させる結果となった。
「救出作戦」が招いたさらなる二次的損害


撃墜されたF-15E搭乗員を救出するため、米軍は推定155機規模ともいわれる大規模な航空作戦を敢行した。しかし、このCSAR作戦は予期せぬ大きな犠牲を伴うことになった。報告された二次的損害は以下の通りである。
- A-10攻撃機 1機撃墜
- MC-130J特殊作戦機 2機を自爆処分(敵の手に渡るのを防ぐため、乗員により意図的に破壊)
- HH-60W ジョリーグリーンIIヘリが損傷
パイロット1人の救出という人道的な目標を達成するために、米軍がこれほどまでの航空資産を犠牲にしなければならなかった事実は、極めて深刻だ。
ステルス機F-35Aも被弾


米軍の航空優勢を象徴する最新鋭のステルス戦闘機、F-35Aも無傷では済まなかったという点が特に注目されている。CRSは、3月19日にF-35Aがイランの防空網からの攻撃を受け、機体が損傷したと記述している。機体自体は基地に帰還したとされているが、この事実は、「ステルス技術をもってしても、高度に発達した敵の防空網に対する絶対的な安全性は担保されない」という認識を、米軍関係者と世界に改めて突きつけるものとなった。
支援機への深刻な被害
戦闘機や無人機だけでなく、作戦遂行に不可欠な支援機への被害も深刻である。3月12日には、KC-135空中給油機2機がイラク上空で事故を起こし、そのうち1機が墜落。乗員6名全員が死亡するという悲劇に見舞われた。さらに、イラン軍のミサイル攻撃は、サウジアラビアのプリンス・スルタン基地という後方拠点をも襲い、KC-135が5機損傷した。加えて、E-3 AWACS早期警戒管制機も被害を受けた。空中給油機やAWACSといった支援機は、戦闘機以上に代替が難しく、生産数も限られているため、その損害は米軍の長距離航空作戦能力そのものに深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。後方基地の安全性が脅かされた事実は、米軍の作戦計画全体を見直す必要性を示している。
今回の42機という損失は、単なる機体数の問題に留まらない。イランは、ロシア製の防空システム、自国開発の防空兵器、分散型ミサイル網、高度な電子戦能力、そして大量の安価なドローンを組み合わせた「複合的な領域拒否(A2/AD)戦略」を展開した。この戦略の核心は、「高価な米軍航空戦力を、安価な手段で効率的に消耗させる」という非対称的な戦い方である。無人機を除けば、空中で敵の攻撃を受け撃墜・損傷したのはF-15E、A-10、F-35の計3機のみだが、最も深刻な被害は、駐機中に攻撃を受けたKC-135やE-3 AWACSといった高価値の支援機に対して発生した件だ。
イランは、精密誘導ミサイルと長距離自爆無人機を併用して攻撃を実施。これにより、前線から数百キロメートル離れた後方基地ですら安全ではないという事実が、ロシア・ウクライナ戦争と同様に、世界最強の米軍に対しても露呈した。米軍が、こうした新しい戦術に対処しきれていない現実が、今回のイラン戦争によって浮き彫りとなった。一部の専門家からは、今回のOperation Epic Furyで露呈した問題は、米軍が将来的に直面する可能性のある対中国戦、特に西太平洋の広大な領域におけるA2/AD環境での戦闘を先取りしているとの指摘も出ている。
CRS報告では、Operation Epic Furyによる空軍の損害総額が約290億ドル規模に達する可能性があるとも試算されており、アメリカ国内では「この戦争は、これだけの犠牲を払って、本当に成功だったと言えるのか」という、戦略的な是非を問う大きな議論が既に巻き起こっている。今回の事態は、米軍の将来的な戦力構成、ドクトリン、そして世界戦略に根本的な再考を迫るものとなっている。
