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F-35Bへ世代交代 米海兵隊「AV-8BハリアーII」ついに引退

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USMC

アメリカ海兵隊(USMC)の航空史に、極めて大きな一ページが刻まれました。2026年6月3日、ノースカロライナ州に位置するチェリーポイント海兵航空基地。初夏の青空が広がるなか、5機の攻撃機がその特異な爆音を響かせて着陸しました。機体の名はAV-8B「ハリアーII」。これが、米海兵隊におけるハリアー最後の飛行となりました。

最後の運用飛行隊となった第223海兵攻撃飛行隊(VMA-223)、通称“ブルドッグス(Bulldogs)”が執り行った歴史的な「サンダウン・セレモニー(退役式典)」をもって、40年以上にわたり世界の紛争地を飛び続けた名機が、ついに現役を退きました。冷戦期に産声を上げ、湾岸の砂漠を駆け抜け、最後は意外な“前線”でキャリアを終えた「伝説の垂直離着陸機」の足跡と、海兵隊が急ぐ次世代戦略への移行を深掘りします。

冷戦、湾岸、対テロ戦―海兵隊を支えた「ジャンプジェット」の栄光

AV-8BハリアーIIは、イギリスのホーカー・シドレー社が開発した世界初の実用垂直離着陸機「ハリアー」をベースに、米国のマクドネル・ダグラス社(現ボーイング)が大幅な近代化改修を施した名機です。最大の武器は、機体中央に配されたロールス・ロイス製「ペガサス」推力偏向ターボファンエンジンです。4つの可変ノズルを真下に向けることで、滑走路のない場所から浮き上がる短距離離陸・垂直着陸(STOVL)能力を実現。この唯一無二の特徴こそが、大型の空軍基地や海軍の超大型空母に依存できない米海兵隊にとって、理想的な「殴り込み部隊の相棒」となりました。

【AV-8B ハリアーII 主要スペック】

■ 最大速度:1,085 km/h(マッハ0.9)
■ 航続距離:2,250 km
■ 固定武装:25mm GAU-12 ガトリング機関砲(ポッド式)
■ 兵装搭載量:最大 約4,200 kg(6箇所のハードポイント)
■ 運用思想:前線部隊への迅速な近接航空支援(CAS)

1985年の実戦配備以来、ハリアーIIの真価が発揮されたのが1991年の湾岸戦争でした。舗装された滑走路がなくとも、ハリアーは強襲揚陸艦や前線の急造滑走路(FARP)から即座に発艦。地上部隊の目と鼻の先から飛び立ち、イラク軍の機甲部隊に対して精密誘導爆弾やマベリック空対地ミサイルを雨あられと降らせました。その後も、2000年代のイラク戦争、アフガニスタン戦争、そして対ISIS(イスラム国)作戦にいたるまで、常に最前線の兵士たちが上空を見上げたとき、そこにはハリアーの姿がありました。

 栄光のラストミッションは「対麻薬カルテル戦争」

40年におよぶ輝かしいキャリアの締めくくりとして、ハリアーが最後に就いた任務は、かつての国家間戦争とは全く異なるものでした。最後のハリアー飛行隊となったVMA-223「ブルドッグス」は、完全退役を迎える直前、米南方軍(SOUTHCOM)の管轄地域である中南米・カリブ海地域へ展開していました。そこでの任務は、国際的な麻薬組織や密輸カルテルが張り巡らせる「違法薬物密輸ルートの監視・海上警戒」だったのです。かつてはソ連軍との全面戦争を想定して開発され、湾岸戦争では国家の正規軍と戦った高性能攻撃機が、その最晩年には、暗躍する密輸高速ボート(半潜水艇)やゲリラ組織を監視する「非対称戦争」の最前線に立っていた。この事実は、米軍が過去40年間に直面してきた世界の脅威の移り変わりを雄弁に物語っています。ハリアーの持つ「低空での優れた操縦性」と「艦載運用能力」は、カリブ海の荒波を進む強襲揚陸艦を拠点とした密輸監視において、最後の最後まで極めて有用な資産であり続けました。

前倒しされた退役

ハリアーIIの退役ロードマップは、実は何度も書き換えられてきました。当初の計画では2029年まで現役を続行する予定でしたが、その後2027年へと変更され、最終的に今年2026年へとさらに1年前倒しされました。この急ピッチな退役の背景には、2つの大きな要因があります。

 ① 機体の寿命と維持コストの限界

1980年代から酷使されてきた機体は、構造的な寿命(飛行時間の上限)を迎えていました。さらに、独自の推力偏向システムを持つペガサスエンジンはメンテナンスが極めて煩雑であり、部品供給の先細りも相まって、これ以上退役を先延ばしにすることは運用コスト・安全面の両面から不可能と判断されたのです。

② 第5世代ステルス機「F-35B」の調達加速

海兵隊が進める「戦術航空機移行計画(TACAIR Transition Plan)」が軌道に乗ったことが最大の理由です。後継機であるF-35B「ライトニングII」の配備が順調に進んでおり、すでに米海兵隊には200機以上のF-35Bがデリバリーされています。旧式機の維持に予算を割くよりも、最新鋭機への一本化を一刻も早く完了させる方が、対中国を見据えた現在の安全保障環境において合理的であるという決断です。

後継機F-35BとEABO

ハリアーが米海兵隊に残した最大の遺産は、垂直に離着陸できるというメカニズムそのものではありません。それによって確立された「大規模な基地がなくても、どこからでも戦う」という、海兵隊独自の遠征航空思想(Expeditionary Aviation)です。現在、米海兵隊は西太平洋(第一列島線)において中国軍のミサイル網に対抗するため、「遠征前進基地作戦(EABO)」という新たなドクトリンを猛烈な勢いで推進しています。これは、敵のミサイル標的になりやすい大型基地を避け、小規模な島々へ部隊を分散展開させて戦う戦略です。ハリアーが培ったこの遺伝子は、今、完全な形でF-35Bへと受け継がれています。

海兵隊は今後、ハリアーだけでなく、もう一つの主軸であった旧式のF/A-18レガシーホーネットも段階的に退役させ、強襲揚陸艦や急造滑走路用の「F-35B」と、大型空母用の「F-35C」の2翼体制へと航空戦力を完全に刷新します。最終的なF-35Bの配備数は280機に達する計画です。VMA-223「ブルドッグス」も、これからハリアーをF-35Bへと乗り換え、次世代の部隊へと生まれ変わります。

滑走路に頼らず、前線の兵士たちと苦楽を共にしてきた「伝説のジャンプジェット」ハリアーII。その翼は退役を迎えましたが、彼らが40年かけて証明し続けた「どこからでも飛び立ち、牙を剥く」という戦い方は、形を変えてこれからの未来の戦場を支配することになるでしょう。

ハセガワ 1/72 アメリカ海兵隊 AV-8B ハリアー II プラモデル D19

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