

アメリカ中央軍(CENTCOM)は7月13日、イラン南部・ホルムズ海峡に面したバンダル・アッバス海軍基地に対し、自爆型無人水上艇(USV)「Corsair(コルセア)」を使用した攻撃を実施したと発表した。標的となったのは港湾内にある潜水艦および艦艇の整備施設。米軍は今回の作戦について「米軍史上初となる海上ドローンによる実戦攻撃」であると説明している。
ウクライナでの教訓取り入れる米軍
— ミリレポ (@sabatech_pr) July 13, 2026
アメリカ中央軍はコルセア自爆無人艇を使用してイラン南部、ホルムズ海峡に面したBandar Abbas(バンダル・アッバス)海軍基地の港内にある潜水艦・艦艇整備施設を攻撃した pic.twitter.com/TgEHvgtdwH
今回の攻撃は、単なる新兵器の実験的な実戦投入ではない。ロシア・ウクライナ戦争でその有効性が証明された「自爆無人艇による港湾攻撃」という最先端の非対称戦術を、世界最大の海軍力を持つアメリカ軍が正式に採用し、実戦で牙を剥いたことを意味している。
なぜバンダル・アッバス海軍基地が狙われたのか?
攻撃対象となったバンダル・アッバス海軍基地は、イラン海軍および革命防衛隊海軍(IRGCN)の中枢拠点だ。ホルムズ海峡の北岸という地政学的な要衝に位置し、イラン海軍の主力であるキロ級潜水艦やガディール級潜水艦、高速攻撃艇、ミサイル艇などがひしめき合っている。さらに港内には、潜水艦ドックや艦艇修理施設、兵站施設なども集約されている。いわば、ホルムズ海峡におけるイランの軍事作戦を根底から支える最重要拠点であり、ここが機能不全に陥れば、イラン海軍の継戦能力は致命的な打撃を受けることになる。CENTCOMの発表によると、今回の作戦では3隻のCorsair無人艇が港内への侵入に成功。潜水艦および艦艇整備施設に対して突入を敢行した。公開された映像には、自律航行する無人艇が防備をすり抜けて港内施設へ突入し、激しい大爆発を引き起こす生々しい様子が捉えられている。
米海軍のドクトリンを変える無人艇「Corsair(コルセア)」


今回最大の注目点は、これまで「盾(監視・防御)」として使われてきた無人水上艇を、米軍が初めて「矛(攻撃兵器)」として実戦投入したことにある。これまで米海軍におけるUSVの役割は、情報収集や監視、哨戒、機雷掃海、通信中継といった補助的な任務に限定されていた。爆薬を搭載した「一方通行の攻撃(いわゆる自爆攻撃)」に投入したのは今回が初であり、CENTCOMも「海上ドローンを打撃兵器として実戦使用した初の事例」と言明している。今回使用された「Corsair」は、アメリカの気鋭の防衛スタートアップ「Saronic Technologies」が開発した大型無人水上艇だ。その基本スペックは以下の通りである。
- 全長:約7.3メートル
- 航続距離:1,000海里(約1,850km)以上
- ペイロード(積載量):最大約450kg
- 操縦システム:遠隔操作に加え、GPSや各種センサーによる完全自律航行に対応
もともとCorsairは、情報・監視・偵察(ISR)や港湾警備、機雷対策、さらには物資補給や捜索救難など、多角的な運用を想定して開発されたマルチプラットフォームだ。実際、2026年6月にはアラビア海で墜落した米陸軍AH-64アパッチ攻撃ヘリの乗員救助任務にも投入され、その高い汎用性を証明したばかりだった。しかし米軍は今回、この万能艇のモジュールを「爆薬」へと差し替え、そのまま目標へ突入させる贅沢な打撃兵器としてコンバートしたのだ。


ウクライナが切り開いた「海戦の革命」を米軍がローカライズ
今回の作戦は、ウクライナ戦争で確立された新たな海戦の概念を、米軍が独自の解釈で取り入れたことを示している。ウクライナ軍は2023年以降、「MAGURA V5」や「Sea Baby」といった自爆無人艇を駆使し、ロシア海軍の黒海艦隊を文字通り震撼させてきた。高価な大型軍艦を危険海域へ送り込むことなく、低コストな無人艇で敵の軍港や艦艇に致命傷を与える戦術は、世界の海軍戦略を根底から覆した。ただし、米軍のCorsairはウクライナの無人艇とは設計思想が異なる。ウクライナの「MAGURA V5」が最初から使い捨ての攻撃専用として開発されたのに対し、Corsairは多用途運用を前提とした高級なプラットフォームだ。そのため、コスト面にはやや議論が残る。
【自爆無人艇のコスト比較(推定)】
- ウクライナ軍「MAGURA V5」:1隻あたり30万ドル以下(約4,500万円)
- 米軍「Corsair(攻撃型転用)」:1隻あたり100万ドル以下(約1億5,000万円)
使い捨て兵器としては高価に見えるが、数百万ドルから数千万ドル規模の巡航ミサイルや航空機運用コスト、あるいは作戦に伴う人的リスクと比較すれば、100万ドル以下の無人艇による攻撃は極めて「コストパフォーマンスが高い」と言える。
敵の艦艇ではなく「港湾インフラ」を狙うという恐怖
もう一つの重要なポイントは、米軍が艦艇そのものだけでなく、「潜水艦や艦艇の整備施設」というインフラを重点的に狙った点にある。現代の戦争において、目に見える敵の兵器を破壊するだけでは不十分だ。修理や補給の能力を元絶ちし、戦力の再生そのものを不可能にする「継戦能力への攻撃」こそが、最も効果的な戦略とされる。小型で探知されにくい無人艇で港湾の心臓部に侵入し、インフラをピンポイントで破壊する今回の手法は、今後の軍事作戦のスタンダードになる可能性を秘めている。
海軍戦の常識が変わる、歴史的転換点へ
今回のCENTCOMによるバンダル・アッバス攻撃は、単なる一作戦の成功という枠に収まらない。米軍はこれまで、圧倒的な空軍力による航空優勢や、巨大な空母打撃群を中心としたハイエンドな戦力投射をドクトリンの根幹としてきた。しかし今回、自爆無人艇という「比較的安価で、消耗を前提とした兵器」を正式に実戦投入したことで、米軍自らが海軍戦術のパラダイムシフトを宣言したことになる。ウクライナ戦争で芽吹いた「数十万ドルの無人艇が数十億ドルの巨艦を脅かす」という非対称戦の構図を、世界最強の軍事大国であるアメリカが自らの戦術としてアップデートしたのだ。今後、無人水上艇は巡航ミサイルやステルス攻撃機と並ぶ、主要な打撃手段として世界各国の海軍へ急速に普及していくだろう。
