

ウクライナのゼレンスキー大統領は7月22日、大統領令第630/2026号を発令し、オレクサンドル・シルスキー大将をウクライナ軍最高司令官から解任。新たな最高司令官としてミハイロ・ドラパティー少将(43)を指名しました。2024年2月にワレリー・ザルジニー前最高司令官が解任されて以来、最大規模となるこの軍首脳人事。戦争が5年目に突入し、前線が長期の消耗戦に陥るなかで断行された背景には、単なる人事異動を超えた「作戦思想の根底からの変革」と「軍の構造改革」という強い政治的・軍事的大方針が存在します。今回のトップ交代は、ウクライナ軍における「旧世代」から「新世代」へのドクトリン(作戦思想)の転換を鮮明に示しています。両者の背景や指揮スタイルの違いを詳しく見ると、軍の方向性がどう変わるのかがよく分かります。
「バフムートの将軍」シルスキー退陣の背景——功績と限界


60歳のシルスキー大将は、ソ連軍の軍事教育を受けた最後の世代の指揮官であり、ロシア軍の思考パターンや古典的戦術を熟知した老錬な将軍でした。2022年春のキーウ防衛戦や同年秋のハルキウ電撃反攻など、ウクライナ存亡の危機を救った歴史的功績は高く評価されています。しかしその反面、2023年から2024年にかけたバフムート攻防戦や東部ドネツク州での防衛戦において、大量の歩兵を投入する消耗戦を継続したことから、「兵員の命を軽視するソ連式指揮官」との批判が軍内部や市民社会から強まっていました。電子戦やドローンが飛び交う現代のハイテク戦場において、旧来の陣地死守や歩兵主体の作戦指導は限界を迎えており、前線の兵士疲弊や志願兵不足の深刻化も相まって、司令官交代を求める世論が限界に達していたのです。
新最高司令官ミハイロ・ドラパティー少将とは何者か


後任に抜擢されたミハイロ・ドラパティー少将は現在43歳。2014年のロシアによる侵略開始以来、現場の最前線でたたき上げられてきた「新世代ウクライナ軍指揮官」の象徴的存在です。
- 2014年(マリウポリ): 装甲車で敵のバリケードを突破した強攻策で一躍有名に。
- 2022〜2023年: ドネツク方面や南部戦線で柔軟な防衛・反撃作戦を直接指揮。
- 2024年: ハルキウ方面でのロシア軍再侵攻を阻止し、同年に史上最年少で陸軍司令官に就任。
- 2025年: 統合軍司令官を歴任し、前線の信頼と現場の支持を確実に獲得。
陸軍司令官、統合軍司令官として組織改革を着実に進めてきた実績から、前線の現場や若手兵士から絶大な信頼を獲得していますドラパティー氏は一貫して「兵士の命の保全」と「現場主導による迅速な決断」を最優先するスタイルを貫いており、硬直化した軍組織の機動力を取り戻すキーマンとして国内外から強い期待を集めています。
ドローン・AI主導型戦術への「パラダイムシフト」
今回の人事で最も大きな意味を持つのは、ウクライナ軍の「戦い方の根本的な転換」です。FPV(一人称視点)ドローン、自爆型無人機、AIによるリアルタイム目標識別、自律型ロボット兵器が主役となった現代戦場において、兵力規模で勝るロシアに対抗するには、技術的優位性の確立が不可欠です。ドラパティー新最高司令官は、これまで以下の改革を強力に推進してきました。
- 前線部隊への大胆な指揮権限の委譲(NATO型ミッション・コマンドの徹底)
- AI・無人システム・電子戦(EW)を組み合わせた自律型作戦の導入
- データ駆動型の迅速な意思決定プロセスの確立
- 現場のニーズに即した柔軟な兵員訓練と募集制度の刷新
シルスキー体制下でも2024年に「無人システム軍」が設立されましたが、それはあくまで「従来の陸軍戦術を補完する補助的手段」という扱いでした。対してドラパティー体制では、「無人システムとAIを戦術の中心に据え、人間の損耗を最小限に抑える作戦展開」へと完全にシフトすることになります。
政治的背景:「フェドロフ路線」の継承と政権の決意


今回の軍首脳刷新は、先日解任されたミハイロ・フェドロフ前国防大臣が推し進めていた「防衛改革路線」との連携という点でも極めて重要です。民間IT企業の参入促進、ドローンの大量調達、軍事デジタルトランスフォーメーション(DX)を主導したフェドロフ氏と、保守的な指揮に固執するシルスキー氏の間には深い溝があったと報じられています。政権に対してテクノロジー主導の改革を求める世論が高まるなか、ゼレンスキー大統領は軍の現場トップに改革派のドラパティー氏を配することで、民間の技術革新と軍の現場運用を結びつける体制を整えたと言えます。
6. 新旧最高司令官の比較
| 比較項目 | オレクサンドル・シルスキー(前職) | ミハイロ・ドラパティー(新職) |
| 年齢 / 背景 | 60歳 / ソ連軍教育を受けた最後世代 | 43歳 / 2014年以降の実戦で育った新世代 |
| 指揮スタイル | 中央集権・歩兵死守を辞さない厳格さ | 現場への権限委譲・機動的かつ柔軟な防衛 |
| 技術の位置づけ | 既存戦術を補完する「補助兵器」 | 作戦の中心となる「コア・テクノロジー」 |
| 主な実績 | キーウ防衛戦、ハルキウ反攻作戦 | マリウポリ戦、ハルキウ防衛、陸軍改革 |
7. おわりに:ウクライナ軍が目指す「テクノロジー主導型軍隊」


ドラパティー新最高司令官は就任決定後、「反攻作戦の再構築と、最新技術を投じた新たな作戦を開始する」と強い決意を表明しました。また、エフゲニー・フマラ国防相代行と早速会談し、ウクライナ軍にロシアの敵に対する技術的優位性を与え、技術革新を通じてできるだけ多くの命を救う方針で合意。ウクライナは、既に効果が実証されている解決策、すなわち長距離攻撃と中距離攻撃、無人地上車両(UGV)、そして兵士の命を救い、敵をより効果的に撃破するのに役立つその他の技術を拡大する必要があるという共通ビジョンについて認識をすり合わせました。双方の資源が枯渇しつつある消耗戦を打ち破る唯一の鍵は、先端技術による効率的な打撃と組織の刷新です。ウクライナ軍が「旧ソ連型軍隊」から「テクノロジー主導型軍隊」へ完全に脱皮できるか。ドラパティー新体制の舵取りに、世界が大きな関心を寄せています。
