

デンマークで2026年8月3日、兵役期間を大幅に延長し女性も対象に加えた新たな徴兵制度が施行された。制度の根拠となる法案は2025年6月にデンマーク議会で可決されており、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧州の安全保障環境が大きく変化するなか、軍の人的基盤を強化する狙いがある。
兵役期間は3倍、女性も対象
最大の特徴は、兵役期間を従来の約4か月から11か月へと約3倍に延長したことと、18歳以上の女性も男性と同じ条件で徴兵対象になったことだ。デンマークではこれまで男性にのみ兵役義務があり、女性は志願制だったが、今回の改正で男女共通の制度に移行した。ただし実際の人員確保は志願者が優先され、不足する場合に抽選で徴兵される仕組みは維持されている。8月3日に入隊した約1,600人の新兵のうち、約20%を女性が占めた。
新制度で徴集された男女は、最初の3〜5か月間で射撃、応急処置、体力錬成といった基礎的な軍事訓練を受け、その後は実際の部隊に配属され、より実戦的な任務に従事する。従来の短期基礎訓練中心の制度から、徴集兵を実戦力として運用する制度への転換といえる。
入隊者の中には、デンマーク王位継承順位2位のイサベラ王女(19)の姿もあった。フレデリック10世国王とメアリー王妃の次女である王女は、スラーエルセのアントボルスコフ兵舎にある近衛驃騎兵連隊に徴集兵として加わり、無報酬で11か月間服務する予定だ。継承順位1位の兄クリスチャン皇太子はすでに徴集兵としての兵役を終え、昨年から陸軍少尉の養成課程に進んでいる。
デンマーク西部のオクスブル基地を訪れたミカエル・ビルムセン大佐はAFPの取材に対し、「東を見てほしい。これ以上言う必要があるだろうか」と述べ、ロシア側から見た安全保障情勢を踏まえ、「NATOは対策を進めており、これに対するデンマークの貢献は、徴兵制を通じて即応態勢を迅速に強化することだ」と説明した。
政府は徴兵規模も拡大する方針で、現在の年間約5,000人から2033年までに年間7,500人規模へ増員する計画だ。人口約600万人のデンマークにとって、軍の人的基盤を大きく拡充する措置となる。背景には、ウクライナ戦争で明らかになった「長期戦における兵員確保」の重要性がある。高度な戦闘機やミサイルだけでなく、前線を維持し損耗を補い、部隊を長期間運用するには十分な人的資源が不可欠だ。
さらにデンマークにとっては、北極圏とグリーンランドの安全保障も重要な課題となっている。ロシアや中国が北極圏への関与を強める一方、トランプ米大統領がグリーンランド領有への強い関心を繰り返し表明しており、デンマーク王国として自国領域の防衛能力を強化する必要性が増している。新制度ではドローン運用など新たな専門分野も設けられる予定で、現代戦に対応した人材育成も進められる。
デンマークの徴兵制度改革は、単なる女性徴兵の導入にとどまらない。短期の基礎訓練型から、長期間にわたって部隊運用を担える人的戦力を育成する制度への転換だ。ロシアとの対立を背景に欧州各国が国防力の増強を進めるなか、人口規模の小さいデンマークもまた、徴兵制度を活用して「戦える軍隊」を支える人的基盤の再構築に乗り出している。


出典・参考:Young Danes start extended military service-AFP
