

米海軍の原子力空母「USSロナルド・レーガン(CVN-76)」が、約17か月に及ぶ大規模改修(DPIA)を終え、2026年8月末にも造船所(ワシントン州ブレマートン、母港はキトサップ海軍基地)を離れる見通しとなった。ただし米海軍関係者によれば、艦がすぐに実戦投入できるわけではなく、出渠後の海上公試や乗員・航空団の訓練を経て、実際に展開ローテーションへ復帰するのは2027年初め頃になる見込みである。
米海軍は現在11隻の原子力空母を保有しており、3隻体制の中国海軍を圧倒する規模を誇っている。だが、その実態は楽観視できるものではない。真の焦点は「実際に何隻が即応可能なのか」という運用能力の限界にあり、対イラン等の中東情勢に伴う「エピック・フューリー作戦」が艦隊に過度な負担を強めている。長期にわたる洋上展開が続く一方で、整備や燃料交換などの改修サイクルも重なり、米空母の運用状況はかつてないほど逼迫しているのが現状だ。
中東は「リンカーン」と「ブッシュ」、太平洋の空母はゼロに
現在、最も大きな負担を背負っているのがUSSエイブラハム・リンカーン(CVN-72)である。2025年11月21日にサンディエゴを出港した当初は太平洋での通常任務であったが、2026年1月、開戦直前に中東へ進路変更された。8月17日時点で洋上約270日、寄港なしの連続日数は200日超に達し、現代の空母では2020年にドワイト・D・アイゼンハワーが記録した206日間を上回る記録となっている。ただし「総展開日数」の記録では、2025〜26年にかけてUSSジェラルド・R・フォードが記録した約326日間(2026年5月16日帰還、ベトナム戦争後最長)が別に存在し、両者は異なる指標である点に注意が必要だ。海軍長官代行フン・カオ氏は8月14日、リンカーンは計画されたローテーションの一環で間もなく帰還すると表明している。
アラビア海にはUSSジョージ・H・W・ブッシュ(CVN-77、母港ノーフォーク)も、4月23日に中東へ到着して以来展開を続けている。
日本の横須賀を母港とするUSSジョージ・ワシントン(CVN-73)は5月に今年初の哨戒に出港、8月上旬にベトナム・ダナンへ寄港した後、8月13日朝にはシンガポール海峡を西進しているのが確認された。リンカーンと交代するため中東へ向かっている動きで、これにより太平洋(第7艦隊管轄海域)から米空母が事実上いなくなる事態が現実のものとなった。中国・北朝鮮に対する抑止力の観点から小さくない問題だと米メディアも指摘している。
セオドア・ルーズベルトの行き先は「アジアか中東か」
サンディエゴを母港とするUSSセオドア・ルーズベルト(CVN-71)は、RIMPAC2026参加後にサンディエゴへ戻り、8月上旬には家族向けの「タイガークルーズ」も実施した。しかし8月17日時点でもまだ出港しておらず、次の展開先は非公表となっている。太平洋の空母不在という事情から、中東でリンカーンと交代するか、西太平洋でジョージ・ワシントンを補完するか、いずれの可能性もあると報じられている。


なお、同艦は2026年3月、米海軍で初めて無人給油機MQ-25「スティングレイ」を実運用できる状態の無人航空戦センター(UAWC)を完成させていたことが、4月21日付の国防総省文書を通じて8月に判明した。最初にUAWCの試験搭載を受けたのはUSSジョージ・H・W・ブッシュ(2024年8月)であるが、「完全運用可能」の水準に達したのはルーズベルトが初めてで、レーガンも8月末までに同様の状態に達する見通しだという。
カール・ヴィンソンとアイゼンハワーも準備段階
USSカール・ヴィンソン(CVN-70)は2025年11月から約9か月続いた計画整備(PIA、35万9千時間以上の作業)を6月12日に完了した。8月10日にはサンディエゴを出港したことが目撃情報で確認されたが、これは本格展開というより訓練・準備段階とみられ、次の本格展開は2026年末から2027年初め頃になりそうだ。
USSドワイト・D・アイゼンハワー(CVN-69)は2026年4月にノーフォークで計画整備を完了した。7月には弾薬搭載訓練も行い、年内の展開に向けて準備を進めている。
ニミッツは「最後の航海」を終え、退役へのカウントダウン
USSニミッツ(CVN-68)は2025年12月16日、中東・アジア(第3・5・7艦隊)を巡る9か月間の実任務展開を終えて帰還した後、2026年3月7日にブレマートンを出港した。今回は戦闘任務ではなく、南米を周航する「サザン・シーズ2026」訓練・親善航海で、ニューヨークでの国際観艦式にも参加し、7月9日、最終母港となるノーフォークへ到着している。退役は当初2026年春の予定であったが、後継のジョン・F・ケネディの就役遅延に伴い法定11隻維持のため2027年3月まで延期されており、それまでの1~2年は訓練艦としてノーフォークに留まる。
ステニスとトルーマン、2隻同時の大規模改修
USSジョン・C・ステニス(CVN-74)は2021年から続く原子炉燃料交換を伴う大規模改修(RCOH)が65%超まで進み、2026年10月の艦隊への引き渡しを目指しているが、当初予定(2025年8月)から14か月超の遅延となっている。引き渡し後も海上公試や訓練が必要で、実際に展開可能となるのは2027年春から夏ごろの見込みだ。
USSハリー・S・トルーマン(CVN-75)は2026年2月18日、8か月の展開(2025年の衝突事故で船体が損傷)から帰還し、6月からRCOHが本格化した。完了予定は2031年1月で、約4年半に及ぶ。ステニスとトルーマンが同時に長期改修に入ることにより、艦隊の逼迫はさらに強まっている。
ジェラルド・R・フォードは帰還済み、次の焦点は艦の状態
USSジェラルド・R・フォード(CVN-78)は2026年3月12日、紅海での作戦中に後部洗濯室で火災が発生し(約200人が煙を吸い込む被害、寝台100台以上が損傷)、ギリシャ・クレタ島のスーダ湾基地で応急修理を受けた後も任務を継続した。11か月・約320日を超える展開を経て、2026年5月16日にノーフォークへ帰還し、ベトナム戦争後最長の空母展開記録を樹立している。現在は同基地の造船所で、火災被害の修復を含む計画整備(PIA)を受けている段階であり、2027年春から夏頃の復帰が見込まれている。
ジョン・F・ケネディは就役目前
同型2番艦の将来USSジョン・F・ケネディ(CVN-79)は、2026年1月の建造者海上公試、6月26日のEMALS(電磁式カタパルト)試験を経て、8月12日から受領海上公試を実施し15日に完了、17日に完了が発表された。先進兵器用エレベーター11基中7基が完成済みで、就役は2027年3月を予定している。
11隻あっても「余裕がない」現状(2026年8月17日時点)


展開中:リンカーン(中東)/ブッシュ(中東)/ジョージ・ワシントン(中東へ移動中、太平洋は空白に) 次期展開準備:セオドア・ルーズベルト(行き先未定)/カール・ヴィンソン(訓練段階)/アイゼンハワー(年内展開へ準備) 大規模改修・整備:ロナルド・レーガン(8月末DPIA完了、実戦復帰は2027年初め)/ジョン・C・ステニス(10月引き渡し、実戦化は2027年春以降)/ハリー・S・トルーマン(RCOH中、2031年1月完了予定)/ジェラルド・R・フォード(帰還後のPIA中) 退役プロセス:ニミッツ(2027年3月退役、それまで訓練艦)
レーガンの復帰は艦隊ローテーションに一定のプラスとなるが、即座に不足を解消するわけではない。ニミッツが事実上戦力外となり、ステニスとトルーマンが長期改修に入る一方、太平洋の空母不在という新たな課題も生じている。次の焦点は、ルーズベルトの展開先(アジアか中東か)、10月に予定されるステニスの引き渡し、そして空になった太平洋にいつ空母が戻るかであろう。
参考:USNI News、TWZ(The War Zone)、Stars and Stripes、Navy Times、Forbes、19FortyFive、National Interest、DVIDS、米海軍発表資料(2026年3〜8月)
