

ロシア海軍が、ウクライナによる無人機(ドローン)攻撃から艦艇を守るため、艦艇の船体を「建物」に見せかけるという異例の偽装を施していることが確認された。ドローン戦争がもたらした現代の海戦における、新たな防御戦術の実態に迫る。
「艦艇」を「港の施設」に偽装する前代未聞の迷彩
2026年8月22日に撮影された写真から、サンクトペテルブルク近郊のクロンシュタット(レニングラード海軍基地)に停泊するロシア海軍艦艇に、奇妙な塗装が施されていることが判明した。写真を公開したOSINT(公開情報調査)アナリストのMassimo Frantarelli氏によれば、この艦艇はプロジェクト1331M型小型対潜艦(NATOコード:Parchim II級)であり、「ゼレノドリスク」あるいは「カザネツ」のいずれかと推測されている。
その船体には、通常の軍艦の塗装とはかけ離れた長方形の模様が描かれており、まるで岸壁にある建物の窓や外壁のように見えるデザインが採用されている。さらに、船体の一部をあえて黒く塗ることで艦艇本来のシルエットを分断しているほか、甲板上にはドローンの突入を物理的に防ぐためのネット(ケージ)も設置されていた。
狙いは「AIと画像認識の欺瞞」
この偽装で注目すべきは、周囲の海や空に色を溶け込ませる従来型の迷彩とは発想が根本的に異なる点だ。港湾に停泊する艦艇は、上空から見ると非常に特徴的な形状をしている。今回のように建物風の模様を描き、シルエットを黒塗りで崩す狙いは、ウクライナ側の攻撃型ドローンによる目標識別を困難にすることにある。近年の自爆型ドローンは、操縦者による低解像度のカメラ映像での確認だけでなく、AI(人工知能)やコンピュータビジョンを用いた自動目標認識アルゴリズムに依存して突入するケースが増えている。つまり、単に「見えなくする」のではなく、「カメラには映っているが、AIや操縦者が『軍艦である』と認識しにくい状態を作る」ことが目的なのだ。実戦においてこの塗装がAIのロックオンをどの程度妨害できるのか、明確なデータは公開されていないものの、光学的な識別を遅らせるための総合的な欺瞞策であることは間違いない。
背景にあるバルト艦隊への深刻なドローン攻撃
ロシア海軍がこうした原始的ともいえる対策を急ぐ背景には、サンクトペテルブルク地域に展開するバルト艦隊への相次ぐドローン攻撃がある。
- 「プルガ」の沈没(2026年3月)サンクトペテルブルク近郊ヴィボルグの造船所で、建造・艤装中だったプロジェクト23550型北極圏哨戒艦(砕氷艦)「プルガ」がウクライナのドローン攻撃を受け、重度の損傷を負い横転・沈下した。
- 「ボイキー」の火災(2026年6月)クロンシュタット海軍基地の乾ドックで修理中だったステレグシュチイ級コルベット「ボイキー」が、ウクライナ無人システム部隊(FPVドローン等を使用)の攻撃を受け、火災により上部構造物に深刻なダメージを受けた。
これらの事態は、ロシア海軍にとって「もはやサンクトペテルブルク近郊の海軍基地すら安全な後方ではない」という厳しい現実を突きつけている。
復活する「ダズル迷彩」と変化する防御思想


今回の建物風塗装は、ロシア海軍が近年導入している一連の偽装策の一つに過ぎない。クロンシュタットでは、プロジェクト22800「カラクルト」級コルベットの「ミティシチ」や「ブリャ」などにも、第一次・第二次世界大戦期を彷彿とさせるゼブラ柄の「ダズル迷彩(幻惑迷彩)」に近い塗装が施されていることが、軍事アナリストのH.I. Sutton氏らによって確認されている。これまで軍艦の防御といえば、ミサイルや機関砲(CIWS)、電子戦システムなどを用いて「接近してくる脅威を撃ち落とす」ことが基本だった。しかし現在では、それに加えて「そもそも敵のセンサーに艦艇として認識させない」というアプローチが不可欠になっている。
もちろん、塗装だけでドローン攻撃を完全に防げるわけではない。しかし、攻撃側が目標を発見し、識別し、攻撃判断を下すまでの過程で「数秒」でも余計な時間を消費させられれば、防空火器や対ドローンネットによる迎撃の猶予が生まれる。ウクライナ戦争は、軍艦にとって「敵のセンサーやAIの目にどう映るか」そのものが生存性を左右する時代になったことを証明した。ロシア海軍が施した一風変わった「建物迷彩」は、ドローンによって激変する現代海戦の象徴的な光景といえるだろう。
