

2025年11月、トランプ大統領が表明したサウジアラビアへのF-35ライトニングII売却方針。その計画が新たな段階に入った。米国務省は2026年9月17日、サウジアラビアに対するF-35Aの「可能な売却(Foreign Military Sale)」を承認。最大48機のF-35Aと関連装備を含む、総額約243億ドル(約3.6兆円)の大型軍事パッケージが議会審査に付されることになった。今回の承認には、F-35A最大48機に加え、プラット・アンド・ホイットニー製F135エンジン49基、通信・暗号関連装備、スペアパーツ、支援機材、訓練、兵站・整備支援などが含まれる。F-35Aは通常離着陸型で、サウジアラビアが導入すれば、同国空軍にとって初めての第5世代ステルス戦闘機となる。


参考・引用:Kingdom of Saudi Arabia – F-35 Lightning II Joint Strike Fighter Aircraft
「売却意向」から正式な政府承認へ
今回の動きは、2025年11月の発表から大きく前進したものだ。当時は、トランプ大統領がサウジへのF-35売却意向を表明したものの、具体的な機数や価格、米議会への正式通知などは明らかになっていなかった。また、イスラエルが長年維持してきた中東における「質的軍事優位(QME)」への影響や、サウジと中国との軍事・技術関係なども、売却をめぐる大きな懸念となっていた。それから約10カ月。今回、米国務省が具体的な機数と金額を伴うFMS案件を承認したことで、F-35のサウジ輸出は構想段階から実際の手続きへ移ったことになる。ただし、現時点で「サウジへのF-35納入が確定した」とするのは早い。今回の承認はあくまで「売却可能」に対するもので、今後は米議会による審査が行われる。議会には売却を阻止する権限もあり、最終的な契約金額や機数などは交渉によって変動する可能性がある。
最大の焦点はイスラエルの「質的軍事優位」
今回のF-35売却で特に注目されるのが、イスラエルとの関係だ。現在、中東でF-35を運用しているのはイスラエルのみであり、同国はF-35Aを独自仕様の「F-35I アディール」として運用している。米国は中東への武器輸出に際して、イスラエルが地域内で軍事的・技術的な優位性を維持できるよう「質的軍事優位(QME)」を考慮する政策を取ってきた。そのため、サウジへのF-35供与は単なる戦闘機の輸出ではなく、米国がどのようにQMEを維持するのかという問題にも直結する。もっとも、今回の米国側の説明では、今回の売却によって「地域の軍事バランスは変化しない」とされている。つまり米国政府としては、サウジにF-35Aを供与しても、イスラエルの軍事的優位性を損なうことはないと判断している。
サウジ空軍にとって大きな能力向上
サウジアラビア空軍は現在、F-15SAやユーロファイター・タイフーンなどを主要戦闘機として運用している。ここにF-35Aが加われば、単純に「新型戦闘機が48機増える」以上の意味を持つ。F-35はステルス性能に加え、各種センサーから得た情報を統合するセンサーフュージョン能力や、ネットワークを介した情報共有能力を特徴とする。敵の防空網に対して自ら接近して攻撃するだけでなく、戦場の情報を収集し、他の航空機へ共有する「情報ノード」としての役割も期待される。大型で兵器搭載量に優れるF-15SAと、F-35Aを組み合わせれば、サウジ空軍の航空作戦能力は従来とは異なる構成になる可能性がある。
中国への技術流出も懸念材料
一方、今回の売却には別の問題も存在する。F-35はステルス技術、センサー、電子戦システム、通信、ソフトウェアなど高度な機密技術を集約した航空機だ。サウジアラビアは米国の重要なパートナーである一方、中国との経済・軍事関係も深めてきた。今回の売却をめぐっては、米情報機関がF-35の機密技術が中国にアクセスされる可能性について警告していたと報じられており、米議会でも安全保障上の懸念が浮上している。さらに、サウジへのF-35供与は、中東における米国の安全保障戦略そのものにも関係する。サウジを米国製兵器体系により深く組み込むことで、米国との軍事的相互運用性を高める狙いもあるとみられる。今回、米国務省はF-35売却について、サウジの防衛能力を強化し、米軍や他の地域・NATO諸国との相互運用性を向上させるものと説明している。
