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約30年ぶりに海へ戻ったナヒーモフ、修理断念が浮上したピョートル・ヴェリーキイ ロシア最大級の原子力巡洋艦を襲った明暗

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ロシア海軍が保有する世界最大級の水上戦闘艦、キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦で、対照的な運命をたどる2隻が注目されている。約30年にわたって造船所に係留され、長期の修理・近代化改修を受けてきた「アドミラル・ナヒーモフ」は、2025年8月に約28年ぶりに自力航行を再開。2026年9月には海上試験の完了が報じられ、年内の北方艦隊復帰を目指している。一方、同型艦の「ピョートル・ヴェリーキイ」には、老朽化を理由に修理・近代化改修を断念するとの報道が浮上した。かつて米空母機動部隊に対抗するために建造された巨大巡洋艦は、なぜこれほど異なる状況に置かれることになったのか。

米空母機動部隊に対抗するために建造されたキーロフ級

Wikipedia

キーロフ級は、ソ連が開発したプロジェクト1144「オルラン」と呼ばれる原子力ミサイル巡洋艦である。全長約251m、満載排水量は約2万6000~2万8000トンに達し、原子力推進を採用した世界最大級の水上戦闘艦として知られる。開発の目的は、米海軍の空母機動部隊への対抗だった。多数の対艦ミサイルと強力な防空システムを搭載し、単艦でも高い攻撃能力と防空能力を発揮できるよう設計された。
建造されたのは、アドミラル・ウシャコフ、アドミラル・ラザレフ、アドミラル・ナヒーモフ、ピョートル・ヴェリーキイの4隻。ソ連崩壊後の財政難によって維持が困難になり、最初の2隻は退役し、解体処分の対象となった。現在、その将来が注目されているのが、3番艦のナヒーモフと4番艦のピョートル・ヴェリーキイである。

約28年ぶりに自力航行したアドミラル・ナヒーモフ

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アドミラル・ナヒーモフは1988年に「カリーニン」として就役した。1992年に現在の艦名へ変更されたが、1997年には運用を停止し、セヴェロドヴィンスクのセヴマシュ造船所で長期係留されることになった。近代化改修の契約が正式に始まったのは2013年12月。当初は2018年の艦隊復帰を予定していたが、作業は大幅に遅れた。そして2025年8月18日、ナヒーモフは海上試験を開始。約28年ぶりに自力で航行する姿を見せた。2026年6月には試験の最終段階に入り、同年9月には海上試験の完了が報じられた。ロシア海軍総司令官アレクサンドル・モイセーエフ提督によれば、2026年末までに北方艦隊へ復帰する予定だという。
今回の改修は、艦の戦闘能力を大幅に引き上げるものだ。最も大きな変更はミサイル発射システムである。従来のP-700グラニート対艦ミサイル20発を撤去し、UKSKと呼ばれる汎用垂直発射システムを10基、合計80セル搭載する。これによって、カリブル巡航ミサイル、P-800オーニクス対艦ミサイル、3M22ツィルコン極超音速ミサイルなどを運用できるようになる。対艦攻撃だけでなく、陸上目標への攻撃にも対応できる柔軟な兵装構成となった。防空システムやレーダー、射撃管制装置なども更新された。ただし、防空ミサイルの具体的な搭載構成については、公開情報では確定していない。改修費用については、2023年8月にTASSが海軍に近い匿名情報源の話として、2000億ルーブルを超えたと報じている。ロシア側による公式確認はないものの、極めて大規模な事業となったことがうかがえる。

ピョートル・ヴェリーキイは修理を断念されるのか

一方、ピョートル・ヴェリーキイは1986年に起工され、1998年に就役したキーロフ級の最終建造艦だ。長年にわたって北方艦隊の旗艦を務め、地中海への展開や各種演習に参加してきた。ナヒーモフが長期修理に入っていた時期には、ロシア海軍を代表する大型水上戦闘艦として活動していた。もともとロシア海軍は、ナヒーモフの改修が終わった後、ピョートル・ヴェリーキイにも同様の大規模近代化改修を施す計画を持っていた。

しかし、ナヒーモフの工事が長期化したことで、ピョートル・ヴェリーキイの改修開始も先送りされた。さらに、長年の運用による艦艇の消耗も問題となっていたとみられる。2023年には、ナヒーモフの改修が長期化したことなどを背景に、ピョートル・ヴェリーキイの退役が検討されているとの報道も出ていた。そして2026年10月30日、再び同艦の将来をめぐる報道が飛び出した。TASSによると、全ロシア艦隊支援運動の代表ウラジーミル・マルツェフ氏は、特別委員会がピョートル・ヴェリーキイの修理・近代化改修を実施することは不適切との予備判断を下したと説明した。艦艇の消耗が進み、復元は困難との見解を示したのである。ところが、その数時間後、マルツェフ氏はRIAノーボスチに対し、委員会は予備判断を含めて何も決定していないと説明。修理断念の報道を否定した。このため、2026年11月2日時点で、ピョートル・ヴェリーキイの修理中止や退役、解体が正式決定したとはいえない。ただし、同艦の近代化計画が難しい状況にあることは以前から指摘されており、今後の判断が注目される。

2隻の運命を分けた改修費用と時間

ナヒーモフとピョートル・ヴェリーキイの状況を分けた背景には、改修に必要な膨大な費用と時間、そして艦艇の老朽化がある。ナヒーモフは1997年から造船所に係留され、2013年末に始まった本格的な近代化改修が海上試験に到達するまで、さらに10年以上を要した。当初2018年だった復帰予定は、2026年末まで後ろ倒しになっている。その間、ピョートル・ヴェリーキイの改修は先送りされ、同艦も長年の運用によって消耗が進んだと考えられる。さらに、ナヒーモフの改修だけでも2000億ルーブルを超える費用が報じられている。同程度の大規模改修をもう1隻に実施する場合、ロシア海軍には相当な予算負担が生じる。加えて、キーロフ級のような原子力大型水上艦を扱える造船所や技術者は限られる。セヴマシュ造船所は原子力潜水艦の建造・修理も担っており、巨大巡洋艦の改修に長期間、設備と人員を割くことは容易ではない。こうした事情から、仮にピョートル・ヴェリーキイの修理断念が正式に決まるなら、ナヒーモフに続いて巨額の費用を投じるよりも、他の艦艇の建造・維持に資源を振り向ける判断が背景にある可能性がある。

キーロフ級の時代は終わりに向かうのか

ナヒーモフが年内に北方艦隊へ復帰すれば、ロシア海軍にとって重要な大型水上戦闘艦が再び加わることになる。80セルの汎用発射システムを備える同艦は、対艦攻撃や対地攻撃、艦隊防空などで大きな役割を担うとみられる。しかし、今回の一連の動きは、ソ連時代の巨大な水上戦闘艦を維持することの難しさも示している。約30年ぶりに航行能力を取り戻したナヒーモフ。その一方で、姉妹艦のピョートル・ヴェリーキイは、老朽化と改修コストの問題に直面し、将来が不透明になっている。

かつて米空母機動部隊に対抗するために建造されたキーロフ級は、冷戦時代の海軍力を象徴する存在だった。しかし、その巨大な艦体と強力な兵装を維持するには、膨大な費用と時間が必要となる。ナヒーモフの復活がロシア海軍の大型水上艦戦力の再建につながるのか。そしてピョートル・ヴェリーキイは再び海に戻ることができるのか。2隻の今後は、ロシア海軍が旧ソ連時代の艦隊構成をどこまで維持できるかを占う材料となりそうだ。

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