

米軍が対イラン戦争で主力の無人偵察・攻撃機MQ-9「リーパー」を大量に失っていたことが明らかになりました。米紙ワシントン・ポストは8月13日、複数の米政府当局者の話として、開戦後に少なくとも45機のMQ-9が失われ、これは開戦前に保有していた機数のおよそ4分の1に相当すると報じました。損失額は13億ドル規模にのぼるといいます。
この戦争は、2026年2月28日に米国とイスラエルが共同で開始した「オペレーション・エピック・フューリー」を指します。最高指導者ハメネイ師の殺害や核・軍事施設への攻撃から始まり、4月にいったん停戦が発表されたものの、その後もホルムズ海峡の航行権をめぐる衝突が散発し、完全な終結には至っていません。MQ-9はこの間、同海峡周辺で集中的に運用されていました。開戦時点で米軍が保有していたMQ-9は空軍165機・海兵隊20機の計約185機です。7月時点でのイランによる撃墜数は約30機とされていましたが、その後1カ月余りでさらに数を増やしました。当局者の一人は、失われた機体のすべてが撃墜されたわけではなく、一部は運用者との通信が途絶えて墜落したものだと説明しています。
イラン防空網の壊滅、制空権確保していた筈が…
WATCH: Iran claims it shot down a U.S. MQ-9 Reaper drone over the Persian Gulf amid rising regional tensions. pic.twitter.com/V9I5xHtEav
— Breaking911 (@Breaking911) May 26, 2026
米軍はこの戦争で、イランの防空システムやレーダー、ミサイル発射機などに開戦直後から大規模な攻撃を加え、作戦目的を「達成した」との評価を繰り返し強調してきました。しかし「防空網に大きな打撃を与えた」ことと、「防空能力を完全に消滅させた」こととは同じではありません。複数の防空システムを分散配置し、レーダーの使用を限定するだけでも、残存部隊は低速で長時間同じ空域を飛び続けるMQ-9のような大型無人機を十分に脅かせます。ステルス機ではなく速度も遅いMQ-9は、敵防空網が完全に一掃されない限り格好の標的になりやすいのです。


この脆弱性は今回の戦争で突然表面化したわけではありません。ワシントン・ポストは、イエメンのフーシ派(アンサール・アッラー)に対する2024〜2025年の作戦だけで、米軍が20機超のMQ-9を失っていたことも明らかにしました。比較的低コストな勢力の防空システムによって高価な大型無人機が繰り返し撃墜される構図は、イラン戦争以前から存在していたことになります。今回の戦争では米軍だけでなく、イスラエルのヘルメス900無人機も複数失われたほか、クウェートの基地では地上待機中だったイタリア軍のMQ-9が破壊されたことも報告されています。
「安価な消耗品」ではないMQ-9A


MQ-9Aの機体単価は3000万〜5000万ドルです。第5世代戦闘機よりは安いですが、ほぼ第4世代戦闘機並みの価格であり、地上管制システムなどを含めた調達コストはさらに膨らみます。米空軍参謀総長は今年の議会証言で、この作戦における最大の功労者の一つは無人機のMQ-9だったと述べており、米軍がMQ-9に大きく依存していたこと自体は間違いありません。だからこそ大量喪失は看過できない問題です。しかも米空軍はMQ-9Aの新規調達をすでに終えており、製造元のジェネラル・アトミクスは575機を生産した段階でMQ-9A向けの生産ラインを閉鎖しています。今回失われた機体を単純な追加発注で埋め合わせることはできません。
一方で「MQ-9はもう生産されていない」という理解は正確ではありません。同社は輸出やISR向けの次世代型MQ-9B(スカイガーディアン/シーガーディアン)の生産・開発を継続しており、2026年7月にはノルウェーのコングスベルグ社と共同で、長射程巡航ミサイルJSMの搭載に向けた設計審査完了を発表するなど、攻撃能力の強化も進めています。米空軍の従来型MQ-9Aと、輸出を含む次世代型のMQ-9Bは、区別して捉える必要があります。
日本も導入MQ-9B
MQ-9Aの大量喪失は日本にとっても無関係ではありません。防衛省は2024年11月、海上自衛隊の滞空型無人機としてMQ-9Bシーガーディアンの採用を決定し、2028年から約10年かけて計23機を取得する計画を示しています。2026年度予算の概算要求では、4機と地上管制装置などの取得費用として約770億円が計上されました。海上保安庁もすでに同型機を運用しており、2026年度中に9機体制へ拡充する見通しです。
もっとも日本の導入目的は、イラン戦争で米軍のMQ-9Aが担ったような敵防空網下での攻撃任務ではなく、広大な海域の警戒監視にあります。とはいえ、敵の防空能力が残る空域に大型無人機を単独で長時間投入するリスクは、今回の45機喪失が改めて突きつけた教訓です。日本にとっても、MQ-9Bを戦闘機や艦艇、衛星、電子戦部隊などと組み合わせ、脅威圏から適切なスタンドオフ距離を確保する運用が、今後より重要になるでしょう。
45機という数字は、MQ-9そのものの価値を否定するものではありません。むしろ米軍がそれだけの機体を投入し続けたこと自体が、ISR・攻撃任務におけるMQ-9の重要性を裏づけています。問題は、その価値の高さゆえに敵から狙われやすいという点にあります。今後の無人機運用は、大型・高価な機体を防空網の残る空域に長時間さらすのではなく、小型無人機の大量投入やステルス化、電子戦、有人機との協調、スタンドオフ攻撃へと重心を移していく可能性が高いでしょう。今回のイラン戦争は、その転換点を象徴する一戦として記憶されるかもしれません。
