

オーストリア空軍が2026年5月、米軍機に対して2日連続で緊急発進(スクランブル)を実施したことが波紋を広げている。対象となったのは米空軍の小型特殊作戦機とみられ、オーストリア側は「飛行許可と実際の飛行内容を確認する必要があった」と説明している。
オーストリア国防省によれば、5月10日、米軍のPC-12系航空機2機がオーストリア領空へ接近。これに対し、オーストリア空軍はユーロファイター戦闘機を緊急発進させた。米軍機はその後進路を変更し、ドイツ方面へ引き返したとされる。当初は「無許可領空侵犯」と報じられたが、その後オーストリア側は「領空侵入前に方向転換した」と説明を修正した。翌11日にも同型機2機が飛行。こちらは飛行許可申請自体は提出されていたものの、オーストリア空軍は再びスクランブルを実施した。国防省は「申請された飛行内容と実際の任務が一致しているか確認した」としている。注目されているのは、対象機が米空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)の「U-28A Draco」である可能性が高い点だ。この機体は民間用PC-12をベースにしたターボプロップ機だが、実際にはISR(情報・監視・偵察)やSIGINT(電子情報収集)、特殊部隊支援などを担う特殊作戦機として運用されている。
今回の件の背景には、オーストリアの「永世中立」がある。オーストリアはNATO加盟国ではなく、1955年以来、中立政策を国家方針として維持してきた。特に軍事作戦に関与する外国軍機の領空通過には慎重で、2026年4月には対イラン軍事作戦に従事する米軍機の領空通過要請を拒否していたことが明らかになっている。そのため、今回の米特殊作戦機飛行に対しても、オーストリア側が強い警戒感を抱いた可能性が高い。オーストリア国防省報道官は、「自分の目で確認しなければならないこともある」と発言しており、単なる事務的確認以上の意味合いをにじませている。
また、この問題には過去の経緯も影を落としている。2002年、米空軍はKC-10空中給油機の陰にF-117ステルス機を隠す形でオーストリア上空を通過させようとしたとされ、当時のオーストリア空軍がこれを発見して外交問題化した経緯がある。今回のスクランブルは、単なる領空管理というよりも、「中立国オーストリアが、対イラン作戦を含む米軍活動への巻き込まれを警戒した事例」として見るべきだろう。欧州の安全保障環境が緊張を増す中、中立国と米軍の関係が改めて注目されている。
