

韓国メディア『朝鮮日報』などが報じるところによると、中国が開発を進める新型艦載機「殲-35(J-35)」について、その実戦的な運用能力に関して一部の中国軍事専門家・評論家から懸念が示されています。特に注目されているのは、空母「福建」から900kmという遠距離で作戦行動を行う際の実戦的な滞空時間が「約7分」しかないという衝撃的な推計です。この指摘の根拠は、J-35に搭載されているとされるターボファン型エンジンの現段階での性能不足、特に遠距離での滞空に必要な燃費効率や高推力維持能力が不足している可能性に基づいています。
最新鋭空母「福建」とJ-35の戦略的位置づけ
中国人民海軍は昨年11月、最新鋭の003型空母「福建」を就役させました。同艦の最大の特長は、中国空母として初めて電磁式カタパルト(EMALS相当)を装備している点にあります。従来の「遼寧」や「山東」が採用していたスキージャンプ方式と異なり、電磁カタパルトは、より重い機体(燃料・兵装を多く搭載した状態)を高出力で射出することを可能にします。この能力が、第5世代ステルス戦闘機であるJ-35の艦載機としての運用を初めて実現する鍵と見られています。J-35は、J-20に続く中国の「第二のステルス機」として瀋陽航空機工業集団(SAC)が開発しており、空軍向けの陸上型に加えて、この「福建」での運用を前提とした艦載型が存在します。
J-35は、当初、その艦載型向けに開発された新型ターボファンエンジン「WS-19」を搭載する計画でした。これは、ロシア製のエンジンをベースとした「WS-21」と比較して推力や運用効率が向上し、ステルス性能と空母運用に対応する高出力・高信頼性を目指した強力なエンジンとされています。しかし、専門家の指摘によれば、中国国営メディアが今年公開した福建から発艦するJ-35の映像には、旧式のWS-21が搭載されている可能性が指摘されており、これが「空母から900kmの距離ではわずか7分しか活動できない」という極端な滞空時間の短さの直接的な根拠となっています
「滞空時間」の短さが示唆する実戦上の制約
J-35の公表されている戦闘半径は内部燃料のみで1,250kmとされているため、「航続距離が極端に短い」という話ではありません。問題の核心は、「滞空時間」にあります。すなわち、900km先の目標空域に到達した時点で、燃料の残量が少なく、そこで戦闘待機(CAP:Combat Air Patrol)や索敵、交戦といった戦闘行動を継続できる時間が極端に短い、という点です。米海軍の艦載ステルス機F-35Cの戦闘半径は1200kmとさほど変わりませんが、標準的なミッションの対空時間は1~2時間とされています。
艦載機の運用においては、発艦後、目標空域へ向かい、一定時間の待機、交戦を行い、その後、母艦への帰投と着艦を行う一連の流れで、燃料の余裕が極めて重要です。特に空母運用では、天候や他の航空機の状況により着艦復行や待機指示が頻繁に発生するため、陸上基地機以上に燃料に余裕が求められます。したがって、単に「最大航続距離」が長くても、実戦における価値は「戦闘行動半径」と、その戦闘行動半径の地点で「何分間、戦闘を継続できるか」という滞空時間によって決定されます。7分という時間は、本格的な戦闘行動や十分な待機を行うには著しく不足していると言わざるを得ません。
中国製エンジンの開発遅延と技術的課題
中国の航空機エンジン国産化は、長年にわたる国家的な悲願です。最初の第5世代ステルス戦闘機J-20も、初期のロシア製エンジン(AL-31FN)から国産のWS-10Cへ、そして次世代のWS-15へと換装の道を辿ってきました。J-35向けのWS-19も2023年に開発完了が宣言されましたが、中国の戦闘機用エンジンは長年にわたり「高推力は出せても、燃費や寿命、信頼性、安定性が課題」と指摘されてきた歴史があります。もし、最新のWS-19が予定通りに搭載できていない、あるいはWS-21の段階で燃費性能や高推力維持能力が十分に確保できていない場合、長距離進出時の燃料消費が増大し、結果として戦闘空域での待機時間が大幅に削られるという結果を招きます。しかし、このエンジンの課題だけで中国の空母航空団の脅威を過小評価するのは危険です。現代の艦載機の運用は、単機で完結するものではなく、空中給油機、早期警戒機、データリンク、艦隊防空といった要素と組み合わされることで、その戦闘力は大きく向上します。特に、空母「福建」が備える電磁カタパルトは、従来のスキージャンプ方式では運用が極めて困難であったKJ-600艦載早期警戒機の本格的な運用を可能にすると見られています。KJ-600の運用が実現すれば、空母航空団の索敵能力と戦闘管理能力は劇的に向上します。
たとえJ-35の個別の滞空時間が短かったとしても、早期警戒機が広範囲の状況を的確に把握し、必要なタイミングと場所に対してJ-35をピンポイントで投入する「ネットワーク中心の戦い(NCW)」が可能となります。この場合、J-35は長時間の空中哨戒ではなく、ステルス性を生かした「先制的な制空」「艦隊への対艦ミサイル攻撃の護衛」「敵の防空網への侵入」など、短時間でも決定的効果を狙う運用が想定されます。
エンジンの問題は時間とともに解決に向かう可能性が高く、中国の航空機エンジン技術の進展を考慮すれば、いずれWS-19やその後継エンジンが搭載されるでしょう。むしろ真に注目すべきは、中国が空母「福建」を核として、「艦載ステルス機+艦載早期警戒機+ネットワーク戦」という、高度に統合された新世代の空母航空団をいかにして早期に成立させようとしているかという、その戦略的な意図と実行力です。
