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ロシア中距離ミサイルの開発配備に関する制限を完全撤廃!量産化と配備加速

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ロシア外務省は8月4日、中距離核戦力全廃条約(INF条約)の履行を停止し、中距離ミサイルの開発・配備に関する制限を撤廃すると発表した。この発表は、2019年に事実上失効していた米露間のINF条約が、両国関係の悪化、特にウクライナ侵攻後の地政学的緊張の高まりの中で、完全にその効力を失ったことを公式に確認するものだ。ロシアの公式発表は、米露間の更なる関係悪化、核兵器配備の加速と国際的な安全保障環境の更なる悪化を懸念させる。

ロシア外務省は、米国が欧州とアジアに中距離ミサイルシステムを配備していることを主要な理由として挙げ、事実上失効したINF条約にロシアはもはや拘束されないと主張した。この声明は、元ロシア大統領で現ロシア連邦安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は自身のX(旧Twitter)で「外務省の声明は、NATO諸国の反ロシア政策の結果である。これは我々のすべての対抗者が直面しなければならない新たな現実である。今後のさらなる措置を期待せよ。」と述べ、ロシアが更なる対抗措置を講じることを示唆した。これは、NATOの東方拡大とミサイル防衛システムの配備に対抗し、ロシアの戦略的優位性を確保するためとされる。

INF条約の成立と形骸化の経緯

INF条約は、冷戦末期の1987年、米国のロナルド・レーガン大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長によって締結された。この画期的な条約は、核弾頭および通常弾頭を搭載した射程500kmから5500kmの地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発、生産、配備、そして保有を全面的に禁止し、廃棄を義務付けるものであった。条約の目的は、欧州における核の脅威を低減し、米ソ間の軍拡競争に歯止めをかけることにあった。

しかし、2000年代に入ると、条約の履行を巡る米露間の相互不信が表面化し始めた。米国は2008年頃から、ロシアが「9M729(NATO名:SSC-8)」地上発射型巡航ミサイルを開発・配備しており、INF条約に違反していると主張し始めた。特に2014年以降、米政府は「9M729の射程が500kmを超えておりINF条約に明確に違反している」と断定し、実際の射程は2,000kmから2,500kmに達すると予測した。これに対し、ロシアは9M729の射程が「条約範囲外(射程480km)」であると主張し、米国の指摘を否定した。

さらに、ロシアが2011年に生産を開始したRS-26弾道ミサイルも、INF条約の対象外と見なされ、その運用方法には疑念が呈された。RS-26の最大射程は5800kmとされ、これはINF条約が定める5500kmをわずかに超える長距離弾道ミサイル(ICBM)に分類される。しかし、米国は、ロシアが意図的に5500km以上の距離でテストを行い、実際の用途は5500km未満の中距離弾道ミサイル(IRBM)であると批判した。これは、条約の抜け穴を利用して、事実上の中距離ミサイルを開発しているのではないかという米国の懸念を増大させた。

一方、ロシアも米国に対する反論を展開した。ロシアは、米国がルーマニアやポーランドに設置したイージス弾道ミサイル防衛システムの地上型「イージス・アショア」が、トマホーク巡航ミサイルの発射能力を持つことを指摘し、「潜在的なINF違反」であると主張した。これは、ミサイル防衛システムが攻撃能力も有しているというロシアの認識を示すものであり、相互の不信感は深まるばかりであった。

このような背景から、2014年にはオバマ政権がロシアのINF違反を初めて公式に認定した。そして、2019年のトランプ一次政権において、米国はロシアのINF不履行を理由にINF条約からの離脱を宣言した。数年前から形骸化していた同条約は、米国の離脱によって完全に無効化され、これを受けてロシア連邦も条約の定める義務履行を停止し、INF条約は完全にその効力を失った。

ウクライナ侵攻と「オレシュニク」の登場

INF条約が完全に無効化された後、ロシアは米国が同様のミサイルシステムの配備を控える限り、モスクワも条約対象ミサイルの製造・配備を控えると述べていた。しかし、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、この状況は一変した。NATOとの対立が深まり、ウクライナで苦戦するロシアは、新たな軍事的な動きを見せ始めた。

2024年11月21日、ロシアはウクライナ東部の主要都市ドニプロのインフラ施設に向けて複数のミサイルを発射した。この攻撃には、ロシア南部アストラハン州から発射された新型の中距離弾道ミサイル(IRBM)「Oreshnik(オレシュニク)」が含まれていたことが確認された。このミサイルの攻撃成功を受け、ロシアのプーチン大統領はロシア国防省や軍需企業の幹部らとの会議で、同ミサイルの量産体制を整えることを決定したと述べた。

そして、2025年8月1日には、プーチン大統領がオレシュニクの「量産化完了」と「軍への正式配備」を正式に宣言した。さらに、ロシアはベラルーシにも年末までにこのミサイルを配備する計画を明らかにしている。これは、欧州NATOに新たな核ミサイルの脅威をもたらす可能性があり、地域の緊張を一層高めることになるだろう。

今回のロシア外務省による中距離核戦力全廃条約(INF条約)の履行の停止と、短距離・中距離ミサイルの開発・配備に関する制限の撤廃の発表は、こうした一連の軍事的・地政学的動きの集大成である。INF条約の完全な崩壊は、国際的な軍備管理体制の弱体化を象徴し、核軍拡競争のリスクを増大させるものとして、国際社会に深刻な懸念を投げかけている。

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