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デンマークは米国製のパトリオットを拒否し、欧州製のSAMP/T防空ミサイルシステムを選択

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デンマークが、長距離防空システムの調達において、NATO加盟国の多くが採用するアメリカ製のパトリオットシステムではなく、ヨーロッパ製のSAMP/T防空ミサイルシステムを選択したことは、国際的な軍事調達における重要な転換点とみなされています。この決定は、単なる兵器の選択にとどまらず、調達の迅速性、特定の国への軍事依存度の軽減、そして欧州域内の防衛協力の強化という、多角的な戦略的考慮に基づいて下されました。

デンマーク国防省は、総額約580億クローネ(約91億ドル)を投じ、合計8基の長距離・中距離防空システムを調達すると12日に発表しました。長距離防空システムについては、アメリカのレイセオン社が開発製造するMIM-104パトリオットPAC-3と、フランスとイタリアが共同開発するSAMP/Tの間で検討が行われましたが、最終的にSAMP/Tが選ばれました。さらに、中距離防空システムには、ノルウェーのコングスベルグ社製NASAMS、ドイツのディール・ディフェンス社製IRIS-T、そしてMBDAフランスのVL MICAが選択されました。これにより、デンマークの多層防空網は全てヨーロッパ製で構成されることになり、国防省は「これらのシステムは運用面、経済面、戦略面の要素を総合的に評価して選定された」と説明しています。

パトリオットシステムは、世界で最も実績があり、信頼性の高い防空ミサイルシステムとして知られています。湾岸戦争以来、その性能を証明し続け、現在では20カ国以上が採用。NATO加盟国ではドイツ、ポーランド、スペイン、スウェーデン、ギリシャ、ルーマニアが配備しています。一方、SAMP/Tはフランスとイタリアが2000年代に共同開発し、2011年頃から実戦配備が開始された比較的新しいシステムです。ウクライナで初めて戦果を挙げたものの、パトリオットと比較するとその実績はまだ限定的です。デンマークが実績の少ないSAMP/Tを選んだ背景には、主に二つの重要な理由が指摘されています。

SAMP/T選択の二つの主要な理由

1. 調達の緊急性と生産体制の逼迫

パトリオットシステムは、ロシア・ウクライナ戦争においてロシアの極超音速ミサイルや複数の戦闘機を撃墜するなど、その有効性を改めて証明し、評価を大きく高めました。最近ではカタール軍のパトリオットがイランの弾道ミサイルを撃墜した事例もあります。これらの成功により、パトリオットの需要は急増し、生産ラインが逼迫しています。

現在、パトリオットの生産は、ウクライナへの供与分や、ウクライナにパトリオットを供与したドイツ、ロシアの無人機飛来により防空ミサイルの増強が急務なポーランド向けが優先されています。このため、デンマークが今パトリオットを発注しても、納入は数年後になると予測されています。ロシアの侵略を抑止するために欧州全体で緊急の再軍備が急速に進められる中、この長いリードタイムは致命的であり、より納入までのタイムラインが短いSAMP/Tが選択される要因となりました。

さらに、SAMP/Tはパトリオットよりも費用対効果が高いと評価されており、欧州製である点が欧州の防空ネットワークに統合しやすく、欧州内での自律的な防空能力確保や欧州防衛協力の強化という戦略的な側面も重視されました。また、パトリオットよりも機動性や展開の柔軟性に優れるという評価も、選択を後押ししました。SAMP/Tの欧州輸出は今回が初です。

2. デンマークと米国の関係性および欧州防衛協力の推進

もう一つの大きな理由は、デンマークとアメリカの最近の関係性の変化です。トランプ大統領が今年1月にデンマーク自治領であるグリーンランドの取得意向を再び表明した際、軍事力による奪取の可能性を否定しなかったことは、デンマークを含むNATO加盟国からの強い反発を招きました。このようなアメリカに対する不信感が、パトリオットを選択しなかった理由の一つとして挙げられています。

デンマーク空軍の主要な航空機はF-35AとF-16であり、防空能力はこれまでアメリカ製に大きく依存してきました。防空分野でヨーロッパ製システムを採用することで、アメリカへの依存度を減らし、欧州域内での軍事バランスを調整する狙いがあるとされています。これは、欧州の防衛産業に寄与し、域内の技術力と生産能力を強化する意図も含まれています。

NATO加盟国はアメリカの要求もあり、今年6月、今後10年間で中核防衛費をGDPの3.5%まで増額することを約束しました。アメリカは、この増額された防衛費でアメリカ製兵器の購入を期待していましたが、NATO加盟国間ではアメリカ製兵器からの「脱却」が進んでいる現状があります。

SAMP/Tとは

SAMP/Tは、フランスのタレス社と、欧州の多国籍ミサイルメーカーであるMBDAの合弁企業であるイタリアのユーロサムによって2000年代に開発された地上配備型防空ミサイルシステムです。航空機、巡航ミサイル、弾道ミサイルの迎撃を目的としており、アスター30中距離対空ミサイルを搭載しています。その射程は、弾道ミサイルで25km、航空機で120kmに及び、最大交戦高度は20kmです。レーダーは350km以上の探知範囲を持ち、脅威を早期に探知・追尾することが可能です。車載式で比較的コンパクトな設計であり、展開が迅速であるため、パトリオットよりも高い機動性と展開力を有しています。また、ミサイル一発当たりの価格も、パトリオットのPAC-3 MSEミサイルが1発で約4億〜5億円以上するのに対し、アスター30 Block 1は2億〜3億円とされ、経済的な優位性も持ち合わせています。

デンマークのSAMP/T選択は、単なる兵器調達の事例としてだけでなく、欧州の安全保障環境の変化、サプライチェーンの多様化、そして特定の国への過度な依存を避け、域内の防衛協力と自律性を強化しようとする欧州各国の姿勢を象徴する出来事と言えるでしょう。これは、今後の国際的な軍事調達のトレンドにも大きな影響を与える可能性があります。

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