

イエメンの武装組織フーシ派とサウジアラビアの戦闘が激化するなか、エジプト、トルコ、パキスタンの軍事関与が拡大している。アフリカ最大級の軍事力を持つエジプトは、サウジアラビアを防衛するための軍事支援を議会が承認。トルコは防空・情報面などの支援を進め、パキスタンも軍事装備の提供やサウジアラビアの防衛に関与している。これまでサウジアラビアとイエメン国内の政府側勢力を中心に展開してきた戦闘は、周辺の軍事大国を巻き込む様相を強めている。ただし、3か国がそろってイエメン領内で直接戦闘を開始したわけではなく、それぞれの関与の形態は異なる。
アフリカ最強の軍事大国が動く
ロイター通信によると、エジプト議会は2026年10月26日、シシ大統領に対し、サウジアラビアの防衛を支援するための必要な措置を取ることを承認した。議会は非公開で採決し、少なくとも3分の2の議員が賛成した。米国の軍事情報サイト、Global Firepowerが公表した2026年版の軍事力ランキングでは、エジプトは世界19位に位置付けられているが、アフリカ1位、地域においてはトルコ、イスラエル、イランに次ぐ軍事大国として知られている。米国製F-16やフランス製ラファールなど約500機の戦闘機からなる空軍、米国製のM1A1エイブラムスとM60パットンなど約4000両に及ぶ戦車からなる大規模な陸軍、フリゲートなどを保有する海軍を擁し、幅広い軍事作戦に対応できる戦力を備えている。なによりサウジアラビアとは陸続きであり、支援が容易だ。
ただし、今回の承認はサウジアラビアの防衛を目的としたものであり、イエメンへの空爆や地上侵攻を決定したわけではない。ロイター通信によれば、承認時点で正式な派兵要請は公表されておらず、具体的な派遣部隊や任務も明らかになっていない。エジプトは2015年にもサウジアラビア主導の連合軍に参加し、主に紅海の海上交通を守るために海軍戦力を投入したほか、約800人の地上部隊も派遣した実績がある。1960年代にもイエメン内戦に派兵したが、その時は甚大な被害を出した。今回の決定は、同国が再びイエメン紛争に深く関与する可能性を示している。
トルコは防空・情報面で支援 議会手続きも進展
世界9位の軍事力を持ち、中東地域では1位のトルコもサウジアラビアの防衛を支える重要な国の一つだ。サウジアラビア、トルコ、パキスタンの3か国は2026年8月7日、メッカで相互防衛協定に署名した。この協定は、3か国のいずれかが武力攻撃を受けた場合、他の締約国も自国への攻撃とみなして対応することを柱としている。10月5日には、3か国の閣僚級会合で集団防衛の取り組みを具体化し、サウジアラビアに必要な部隊や軍事能力を速やかに展開するための措置を取ることで合意した。ロイター通信が10月7日に報じたところでは、トルコは軍事装備、防空システム、情報共有、無人機の運用支援、作戦計画や兵站など、防御を中心とした軍事支援を進めている。もっとも、協定に基づく新たなトルコ軍部隊の派遣は、同報道の時点では確認されていなかった。また、10月28日にはトルコ議会の外交委員会が協定を承認し、本会議での審議・採決に進むことになった。ただし、10月29日時点では本会議での批准は完了していない。トルコ側は、協定は防衛目的であり、イエメンに部隊を派遣してフーシ派を攻撃することを意味しないと説明している。したがって、現段階でのトルコの役割は、イエメン国内での直接戦闘というよりも、サウジアラビアの防空能力や作戦支援能力を高めることにある。
パキスタンは軍事装備を提供 空爆参加は否定
世界14位の軍事力を持つパキスタンもサウジアラビアの防衛を支援している。サウジアラビアとパキスタンは、2025年9月に首都リヤドで「戦略的相互防衛協定」を締結し、正式な同盟関係を結び、サウジは核兵器を保有するパキスタンの核の傘の下に入ったとされている。ロイター通信が10月2日に報じたところでは、パキスタン政府当局者は、9月に防空システム、軽砲、無人機、対無人機システムなどを積んだ輸送機4機が、イエメンの国際承認政府側の拠点であるアデンに到着したと説明した。また、パキスタン軍の顧問らがサウジ側と協力し、イエメン政府側勢力を支援しているとも報じられている。


一方、パキスタン軍の戦闘機がイエメン国内のフーシ派拠点を空爆しているとの報道については、パキスタン政府が否定している。10月8日、同国の情報・放送省は関連報道を「虚偽」と批判し、軍の運用について推測に基づく報道をしないよう求めた。パキスタン外務省も10月9日、メッカ協定について防衛を目的とする枠組みだと説明し、駐留するパキスタン軍がフーシ派を攻撃するためにサウジアラビアからイエメンへ越境することはないとしている。したがって、パキスタンについては、サウジアラビアの防衛やイエメン政府側への軍事支援が確認されている一方、フーシ派への直接的な空爆参加は確認された事実として扱えない。
紅海の要衝をめぐる攻防 各国が関与を強める理由
3か国がサウジアラビアの防衛に協力する背景には、紅海の安全保障と国際物流への危機感がある。イエメン西岸沖のバブ・エル・マンデブ海峡は、紅海とアデン湾を結ぶ重要な海上交通の要衝だ。紅海からスエズ運河を経由する航路はアジアと欧州を結ぶ主要ルートであり、フーシ派が同海峡周辺で影響力を強めれば、国際的な物流やエネルギー輸送に深刻な影響を及ぼしかねない。ロイター通信は10月2日、サウジアラビアがフーシ派の支配地域を奪還するため、イエメン政府側の部隊による攻勢を計画していると報じた。作戦の規模や時期は確定していないが、サウジアラビアが紅海の航行安全を重要な軍事目標としていることがうかがえる。エジプトにとっても、紅海の不安定化は重大な問題だ。スエズ運河の通航量が減少すれば、通航料収入に打撃を受ける。サウジアラビアとの経済関係も強く、同国の防衛を支えることは自国の利益を守ることにもつながる。一方、トルコとパキスタンにとっては、サウジアラビアとの防衛協力を具体化し、地域安全保障での役割を強める意味がある。3か国の協定は、外部からの攻撃に対して共同で抑止力を高めることを狙っている。
周辺大国の関与は紛争を変えるのか
今回の動きで重要なのは、エジプト、トルコ、パキスタンが、それぞれ異なる形でサウジアラビアの防衛に関与している点だ。エジプトは議会が軍事支援を承認し、実際の派遣に向けた政治的な道筋を整えた。トルコは防空・情報面などの支援を進め、パキスタンは軍事装備の提供やサウジアラビアの防衛協力を担っている。ただし、今のところ3か国の軍事関与がそのままイエメン領内での共同攻撃を意味するわけではない。特にトルコとパキスタンは、協定を防衛目的のものと位置付けており、フーシ派への直接攻撃については慎重な姿勢を示している。
それでも、サウジアラビアが防空能力や軍事装備、情報面で支援を受ければ、フーシ派への軍事作戦を継続するための基盤は強化される可能性がある。反対に、支援国が攻撃対象となったり、報復の連鎖に巻き込まれたりすれば、紛争がさらに広い地域へ拡大する危険もある。イエメン紛争は今、サウジアラビアとフーシ派の対立にとどまらず、周辺の軍事大国が防衛協力を通じて関与を深める局面に入っている。今後の焦点は、エジプトの具体的な派遣計画、トルコの協定批准と支援の拡大、そしてパキスタンの関与が防衛支援の範囲にとどまるかどうかだ。
