

ウクライナ軍が、旧ソ連製の「BTR-60」装甲兵員輸送車に爆薬を搭載し、無人の「自爆型UGV(無人地上車両)」としてロシア軍の防御陣地へ突入させていたことが明らかになった。舞台となったのは、ドネツィク州北部のリマン方面である。ウクライナ軍第3軍団はこの地域において、「ヴィヴァルディ作戦」と呼ばれる大規模な反攻作戦を展開しており、2026年9月28日にはロシア軍の重要拠点だったノヴェなど複数の集落を奪還したと発表した。
Чим обернувся обманний маневр у третьому сезоні «Вівальді»?
— Третій армійський корпус (@ab3army) September 28, 2026
Трійка знищила точки зльоту дронів елітного російського підрозділу «Рубікон» — їх зняли з напрямку. Вперше роботизовані БТР-60 підірвали найскладніші укріплення ворога. Штурмовики прорвали його найміцніші вузли оборони.… pic.twitter.com/5mwIHtyPKs
今回のBTR-60投入は、戦場における単なる奇策ではない。ロシア軍がリマンを足掛かりにして、スロビャンスクやクラマトルスクといったドネツィク州の主要都市を北側から包囲しようとする動きを粉砕するため、強固な防御陣地を突破するべく採用された極めて合理的な戦術である。
ロシア軍が狙う「リマン」の戦略的価値と要塞地帯


リマンはドネツィク州北部に位置する交通と兵站の要衝である。2022年10月にウクライナ軍が奪還して以降も、ロシア軍は同地域への圧力を継続してきた。とりわけ2026年に入り、ロシア軍はリマン北方に突出部を形成し、ウクライナ軍の防衛線を脅かしていた。この地域が重要視される理由は、リマン単体の価値に留まらない。リマンの西側にはスロビャンスク、クラマトルスク、ドルジュキウカ、コスチャンティニウカといったドネツィク州の主要都市が連なり、ウクライナ軍にとって強固な「要塞地帯」を形成している。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)の分析によれば、ロシア軍の真の狙いは、リマン方面からの進出によってこの要塞地帯を北側から大きく包囲することにあった。つまり、リマン方面での攻防はドネツィク州全体の命運を左右するものであり、これを未然に阻止するために発動されたのが「ヴィヴァルディ作戦」である。
「VIVALDI作戦」における巧みな欺瞞戦術
ウクライナ軍第3軍団は、リマン北西部に形成されたロシア軍の突出部を単に正面から攻撃したわけではない。ドローンによる偵察・攻撃、電子戦、そして前線から最大約120kmの深さに及ぶ後方補給線への長距離攻撃を組み合わせ、ロシア軍の前線部隊を孤立させる戦術を採用した。さらに特筆すべきは、その欺瞞戦術の巧妙さである。第3軍団長のアンドリー・ビレツキー准将によれば、ウクライナ軍は意図的にシャンドリホロヴェ~ゼレナ・ドリナ方面を主攻撃軸であるかのように偽装し、ロシア軍の予備部隊を同方面へ誘引した。その隙を突き、橋頭堡における最重要拠点であるノヴェに向けて本当の主攻撃を仕掛けたのである。この主導権を奪うための突破口として投入されたのが、爆薬を満載した無人のBTR-60だった。
旧式BTR-60を「自爆ロボット」へと変貌させる合理性
今回注目を集めたBTR-60は、1950年代後半に開発され、1960年代から配備が始まった8輪式の装甲兵員輸送車である。現代の対戦車兵器の前では装甲が薄く、兵員輸送用としては極めて脆弱な旧式車両だ。しかし、ウクライナ軍はこの旧式車両をそのまま運用するのではなく、遠隔操作が可能な巨大な「自爆型UGV」へと改造した。通常、強固な防御陣地への突入は乗員の生還率が著しく下がる最も危険な任務である。しかし無人化技術を用いれば、乗員の命を危険にさらすことなく、数十年前の旧式車両を「大量の爆薬を運搬する使い捨ての精密誘導兵器」として有効活用できる。「旧式兵器を捨てるのではなく、無人兵器として生まれ変わらせる」。これは、「人間ではなくロボットに危険な任務を担わせる」というウクライナ軍の現代戦における合理的なアプローチを象徴している。
「リマン奪還」ではなく「要塞地帯の防衛」の成功
9月28日、第3軍団はヴィヴァルディ作戦の第3段階の完了を宣言した。この作戦を通じて、ウクライナ軍はノヴェ、リドコドゥブ、カテリニフカの3集落を完全に解放し、ノヴォミハイリウカとカルピウカからもロシア軍を一掃した。第3軍団の発表によれば、第3段階のみで51平方km、作戦累計で176平方kmの領域を奪還し、ロシア軍に約2000人の人的損害を与え、250人以上を捕虜にしたという。
ここで留意すべきは、一部で誤解されがちな「リマン奪還作戦」という表現は正確ではないという点だ。リマン市自体はすでにウクライナ軍のコントロール下にある。今回の反攻の本質は、ロシア軍がリマンを起点として西へ進軍するための足場(突出部)を崩し、スロビャンスクやクラマトルスク方面への圧力を排除することにある。
VIVALDI作戦は、旧式装甲車と最新の無人化技術の融合、そして欺瞞戦術と長距離打撃を組み合わせた現代の諸兵科連合戦術のひとつの到達点を示している。ドネツィク州の戦局は依然として予断を許さないが、ウクライナ軍がロシア軍の攻勢企図を挫き、戦場の主導権を握るための重要な一手を打ったことは間違いない。
