

イスラエル国防軍は、イラン陸軍が保有するAH-1攻撃ヘリコプターを破壊した映像を公開しました。AH-1は先日破壊が確認されたF-14トムキャット戦闘機と同様に、親米政権時代にアメリカから取得された兵器です。
イスラエル国防軍は水曜日、イスラエル空軍の戦闘機がイラン西部ケルマンシャー州の空軍基地において、イランのAH-1シーコブラ攻撃ヘリコプター5機を攻撃したと発表しました。その後の作戦でさらに3機のAH-1攻撃ヘリコプターが戦闘機によって破壊されたことを発表し、これらの攻撃ヘリコプターが「イラン領空で作戦中のイスラエル軍航空機に打撃を与えることを目的としていた」と付け加えました。イラン空軍のAH-1Jには短距離空対空ミサイルが搭載されているとの報道があります。イラン空軍が保有するAH-1攻撃ヘリコプターは、先日破壊が確認されたF-14トムキャット戦闘機と同様に、親米のモハンマド・レザー・シャー政権時代に米国から購入された兵器です。
イランのAH-1Jシーコブラ


1970年代、親米のモハンマド・レザー・シャー政権は米国から大量の兵器を購入しました。その中には当時最新鋭の攻撃ヘリであったAH-1コブラシリーズも含まれており、1971年から1975年にかけて、米海兵隊仕様のAH-1Jシーコブラを202機購入しました。AH-1は10カ国以上に採用されましたが、米国を除くと最大の導入国となりました。
AH-1Jシーコブラ
AH-1Jシーコブラ(SeaCobra)は、AH-1Gをベースにした艦載・海兵隊用の攻撃ヘリコプターであり、AH-1Gの単発エンジンから改良され、双発のT400ターボシャフトエンジンを搭載しています。海上運用に耐えうる高い生存性と冗長性を備えています。機首には三砲身のM197機関砲を搭載。ウイングポッドにはロケット弾ポッド、TOW対戦車ミサイル、FIM-92スティンガー空対空ミサイルが搭載可能です。
200機も導入されたAH-1Jですが、導入から数年後、1979年のイスラム革命によりレザー・シャー政権が崩壊すると、米国と国交断絶となりました。米国製兵器のサポート・部品提供は全面停止されます。米海兵隊では1979年から改良型のAH-1TおよびAH-1Wスーパーコブラの導入が始まり、1990年代初頭には全てのAH-1Jが退役しましたが、サポートが受けられないイランは独自にメンテナンス、改修を行っていきました。1980年から1988年にかけて勃発したイラン・イラク戦争でAH-1Jは初めて実戦導入され、イラン軍のロシア製攻撃ヘリMi-24と初の攻撃ヘリ同士の空中戦を展開するなど活躍しましたが、部品不足に悩まされることになりました。しかし、エンジン・ローター・電子機器など一部を内製化し、中国やロシアの支援を受けて闇ルートから部品を仕入れることで何とか運用状態を保ちます。その後も独自の改修を行い、導入から半世紀が経過しますが、運用状態を保っています。
Toufanの開発


その後、イランはAH-1Jをベースとしたイラン製改良型である「Toufan(トルファン)」を2010年代に開発しました。外観はAH-1Jとあまり変わりありませんが、運用目的・搭載システム・火力などで大きく異なるとされています。アナログであったAH-1Jに対し、トルファンではFLIR(赤外線照準)、レーザー測距・GPS・昼夜兼用照準装置、HUDなどを搭載。TOW対戦車ミサイルのコピーであるToophanやAIM-9空対空ミサイルのコピーとされるFatterといった国産兵器を統合しています。2013年には改良型のToufan IIが発表されています。
Toufanシリーズは、基本的に既存のAH-1Jシーコブラの機体をベースにした改修型ですが、一部の機体については新規製造の可能性も示唆されており、イラン国防省やIRGC(革命防衛隊)は「このヘリコプターは、イランの航空工業が完全に独自設計・製造した国産攻撃ヘリである」と述べています。しかし、イランの工業能力で独自に設計開発することは難しいとされ、古いAH-1Jのフレームをベースに独自部品を追加して製造したと推測されており、その国産率は60〜80%程度と推定されています。
そして今回、イスラエル国防軍が破壊を発表したAH-1が旧式のAH-1Jなのか改良型のToufanなのかは判明していません。イラン陸軍航空隊とイスラム革命防衛隊は90~100機のAH-1J、50機のToufanを所有していると推定されています。これらのうち、何機が稼働状態にあるのかは不明です。