

ドイツの巡航ミサイルメーカー、タウルス・システムズ社(Taurus Systems GmbH)が、日本の川崎重工業とミサイル用小型ターボファンエンジンの共同開発・技術協力を検討していることが複数の報道で明らかになった。両社は2025年春頃に協議を開始し、防衛関連展示会で覚書(MOU)を交わしたとされる。
川崎重工の小型ターボファン技術とは
川崎重工は、国内向けの長射程対艦・対地巡航ミサイルの開発に伴い、高効率かつ軽量で信頼性の高い小型ターボファンエンジンを開発中だ。特徴は以下の通りである。
- 高効率:民間航空機用の燃焼技術を応用し、推力を維持しつつ燃料消費を低減。
- 軽量化:チタン合金や複合材を活用し、エンジン全体のコンパクト化に成功。
- 高信頼性:自衛隊装備品向けの品質基準で設計され、長期運用にも耐えうる耐久性を備える。
この小型ターボファンは、従来のアメリカ製エンジンを超える航続距離や燃費性能を実現できる可能性がある。
タウルスが川崎重工と組むメリット
タウルス・システムズは、欧州空軍向け巡航ミサイル「KEPD 350」を手掛けるメーカーだが、開発から20年以上が経過しており、次世代型「Taurus NEO」の開発を進めている。川崎重工のエンジン技術を活用するメリットは大きく、次の3点が挙げられる。
- 射程延伸
軽量かつ燃費効率の高いエンジンにより、現行500km級のミサイルを700〜1000km級まで延伸する可能性がある。 - 開発期間の短縮
川崎はすでに試験段階のエンジンを保有しており、ゼロから開発するよりも短期間で技術検証が可能。 - 高信頼性の技術パートナー確保
精密加工や燃焼制御などで高い評価を受ける川崎の技術力は、欧州企業にとって安心できる選択肢となる。
米国依存からの脱却も副次的な背景
KEPD 350の現行型では、エンジンが米ウィリアムズ・インターナショナル社製になり、基幹部分がアメリカ製に依存していた。近年、ロシア・ウクライナ戦争を背景にドイツをはじめとする欧州諸国では、「米国依存からの脱却」が防衛戦略上の喫緊の課題となっている。米国製は政権交代による方針の転換に左右される上に、政治的制約、厳しい輸出管理によって、自国での輸出や改良が制限されるという問題に直面している。この「米国依存のリスク」は欧州各国で再認識され、自前のエンジン技術を確立することで、米国の規制に縛られない防衛装備品の開発を目指す動きが加速している。このような背景から、ドイツは新たなパートナーを模索していた。しかし、あくまで今回の協議は性能向上と開発スピードを優先した選択が主目的であり、米国依存からの脱却が主目的ではないとされる。
今後の見通し
現時点で、両社の協議はまだ検討段階であり、正式契約や技術移転の詳細は未確定だ。しかし、実現すれば、日本製の小型ターボファンエンジンが欧州巡航ミサイルに搭載される初の事例となる可能性がある。これは、日本の防衛技術が国際市場で直接採用される画期的なケースとなるだろう。川崎重工の高効率・軽量エンジンとタウルスの次世代ミサイルが結びつけば、欧州の防衛技術に新たな連携の形が生まれることになる。
