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ハイブリッド飛行船「Airlander 10」が軍事用途で初の受注を獲得

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©Hybrid Air Vehicles

世界最大級の航空機として注目を集めるハイブリッド飛行船「Airlander 10」が、軍事用途での新たな可能性を開拓しています。開発元の英国Hybrid Air Vehicles(HAV)社は10月23日、同機が初めて軍事用途で3機の注文を獲得したことを発表しました。この受注は、Airlander 10が防衛・安全保障分野に革新的な戦力をもたらす可能性を示唆しており、今後の軍事市場での展開に大きな期待が寄せられています。

Hybrid airship “Airlander 10” receives first military order

Airlander 10とは

Airlander 10は、固定翼機と飛行船の利点を融合させた「ハイブリッド飛行船」という独自のコンセプトで設計されています。そのルーツは、米陸軍が構想した長時間滞空監視システム「LEMV(Long Endurance Multi-intelligence Vehicle)」にあります。LEMVは、地上部隊への情報収集、監視、目標捕捉、偵察(ISTAR)支援を目的とした中高度長時間滞空型無人航空機の実証を目指して開発されました。しかし、2013年に米陸軍がLEMVプログラムを中止したことで、機体は英国に戻され、その後は民生利用へと重点が移されました。しかし、HAV社の戦略計画には常に軍事用途が組み込まれており、今回、Airlander 10の持つ軍事的ポテンシャルが再評価される形となりました。

軍事用途

HAV社は、防衛関連請負業者からのAirlander 10の受注を公表しましたが、企業名は明らかにされていません。現時点では正規軍に「正式採用」された事例は確認されていませんが、今回の軍事用途での初受注は、今後の軍での採用拡大に向けた重要な一歩となります。米国防総省の運用エネルギー部門がHAV社との研究協力を延長するなど、軍事利用を視野に入れた取り組みは継続されており、HAV社自身も「防衛・通信・監視用モジュールを搭載可能」と公式に説明し、軍事市場向け提案を積極的に推進しています。

Airlander 10の比類なき強み:長時間滞空と多用途性

Airlander 10の最大の強みは、その卓越した「長時間滞空能力」にあります。ヘリウムガスを燃料とする飛行船に補助翼と尾翼、4基のディーゼルエンジン駆動のダクテッドプロペラ備え、静圧揚力と動圧揚力の両方を利用して飛行するハイブリッド設計により、燃料補給なしで最大5日間もの連続飛行が可能であり、未舗装の野原や水面を含むほぼあらゆる平坦な地形からの離着陸が可能です。これらの特徴から、Airlander 10は以下のような多岐にわたる用途での活用が想定されています。

  • ISR(情報収集・監視・偵察): 広範な視界と長時間滞空性能を活かし、地上・海上の広範囲な監視活動に貢献します。高出力レーダーを搭載すれば、数日間連続で空中監視が可能となり、地上よりも広い範囲の情報を収集できます。
  • 通信中継: 山岳地帯や沿岸地域など、通信が途絶しがちな地域へのデータ中継や指揮支援を提供し、部隊間の連携を強化します。
  • 兵站: 前線やインフラが未整備な地域への物資輸送手段として活用され、補給線の確保に貢献します。3トンを超えるペイロード能力により、多様な物資の輸送が可能です。
  • 災害・人道支援: 災害発生時には、被災地への物資搬入や避難支援、状況把握など、人道支援活動に迅速かつ効果的に対応できます。
  • ドローン母艦: 空中母艦として機能し、複数のドローンを搭載して空中から射出・回収することで、広範囲なドローン運用を可能にします。
  • 対潜任務: 対潜センサーを搭載し、最大5日間にわたってコスト効率よく広い範囲の海上を監視し、脅威情報の収集を行います。従来の哨戒機と比較して、長時間の飛行が可能であり、運用負担を大幅に軽減できます。

同社によれば、Airlander 10は多様なセンサーの搭載が可能であり、その柔軟性も大きな強みとなっています。

Airlander 10は、従来の航空機やドローンに比べて速度では劣ります。しかし、「長く、静かに、広範囲を見渡せる」という点で、代替困難な独自の役割を担うことができます。その静音性も、秘匿性の高い監視活動において有利に働く可能性があります。

スペック

  • 全長: 約92m
  • 幅/高さ: 約43.5m/約26m
  • 最大離陸重量: 約30,000kg
  • ペイロード: 約10トン前後(貨物・センサー等)
  • 最高滞空時間: 乗員ありで5日、無人なら数週間の設計
  • 最高速度: 約148km/h
  • 巡航速度: 約102km/h
  • 航続距離: 約4000km
  • 実用上昇高度: 3,000 m
  • 推進方式: ディーゼルV8エンジン×4(2029年には電動モーターを導入し、ハイブリッド化予定)

課題と今後の展望

巨大な飛行船であるAirlander 10には、いくつかの弱点も存在します。強風や悪天候への耐性、専用の係留設備などのインフラ確保、運用実績の不足、ペイロードと速度で固定翼機・回転翼機に劣ることで展開に時間を要することなどが挙げられます。過去には、係留設備から外れて損傷する事故も報告されており、運用ノウハウの蓄積と改善が今後の課題となります。

しかし、燃料消費量が少ないため運用コストを削減でき、遠隔地での飛行時間を延長できるといったメリットは、上記の弱点を補って余りあるものです。HAV社は、これらの課題を克服し、Airlander 10の持つ軍事的ポテンシャルを最大限に引き出すべく、技術開発と運用体制の構築を継続していくことでしょう。今回の軍事用途での受注は、その道のりの重要な一歩であり、Airlander 10が世界の防衛・安全保障にどのような変革をもたらすのか、今後の動向に注目が集まります。

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