MENU
カテゴリー

イスラエル、F-15IAを25機発注、F-35Iと併用する空軍戦略とは

  • URLをコピーしました!
F-15I(USAF)

2025年末、アメリカ国防総省は、イスラエル空軍(IAF)向けに特注された新型戦闘機 F-15IA(Israel Advanced) の設計、生産、納入に関する正式契約をボーイング社と締結したと発表しました。この契約は総額約86億ドル(日本円で約1.3兆円)という巨額に上り、新造機25機を2035年までに納入完了する計画です。さらに、追加で25機分のオプション契約も含まれており、最終的には最大50機がイスラエル空軍に配備される可能性があります。

Contracts For Dec. 29, 2025

イスラエルはすでに、世界最強クラスの第5世代ステルス戦闘機である F-35I “アディール(Adir)” を保有・運用しています。この状況下で、なぜイスラエル空軍は最新鋭ステルス機ではなく、非ステルス機であるF-15系列の大型戦闘機を、それも巨額の費用を投じて選定したのでしょうか。この決定は、IAFの将来的な航空戦力構想と、中東地域の戦略環境の変化を色濃く反映しています。

F-15IAとは

ボーイング、F-15EX戦闘機を電子戦攻撃機にする事を計画、実現すればステルス化も
F-15EX(©Boeing)

F-15IAは、ボーイング社が開発したF-15の最新バージョンであり、アメリカ空軍向けの F-15EX Eagle II をベースに、イスラエル独自の要求仕様に合わせて大幅なカスタマイズを施した機体です。現行でIAFが運用しているF-15Eのイスラエル仕様、「F-15I Ra’am(ラーム)」の後継機・発展型として位置づけられており、将来的には老朽化したF-15Iの代替も視野に入れています。F-15IAは、従来のF-15が持つ最大の特長である 「高い兵装搭載能力」「長距離航続力」「大型兵装の運用能力」 を維持・強化しつつ、以下の点で革新を遂げています。

  • 最新アビオニクスとセンサー類の統合: 最先端のレーダー、電子戦システム、ミッションコンピューターが搭載され、戦闘状況認識能力(SA)と生存性が大幅に向上しています。
  • 第4.5世代戦闘機: ステルス性こそ持ちませんが、電子戦能力、ネットワーク機能、高速処理能力において第5世代機に近い能力を付与されており、第4世代機の延長線上にある究極の非ステルス戦闘機と分類されます。
  • イスラエル独自の技術搭載: イスラエル軍事産業が開発した独自の電子戦システムや通信機器などが組み込まれる予定であり、同国の独自の戦術要求と作戦環境に完全に適合したカスタマイズが施されます。

F-15系列機は、その優れた運用実績から、特に空対空戦闘、多数の爆弾を搭載した長距離爆撃任務、そして重い兵装を運用する作戦において、極めて高い信頼性を誇ります。

F-35Iとの役割分担戦略:補完関係にある2つの翼

F-35I(IDF)

イスラエルがF-35Iを増強するのではなく、非ステルス大型戦闘機であるF-15IAを選んだ最大の理由は、「役割分担による戦力の最適化と強化」 にあります。

機種世代主要な能力と特徴主な役割分担
F-35I “アディール”第5世代ステルス機ステルス性、高度なネットワーク能力、敵防空網内への侵入・偵察・攻撃敵防空網制圧(SEAD)、高脅威度の初期攻撃、精密攻撃
F-15IA第4.5世代重戦闘機大量の兵装搭載能力、長距離航続力、高い汎用性重量打撃、長距離爆撃、防空戦闘、大規模航空戦力投射

F-35Iは、ステルス性 を最優先した設計のため、敵の強力な防空網を避けて深く侵入する任務に優れていますが、搭載量と航続距離には物理的な制約があります。また、ソフトウェア主導の運用が中心であり、米国との補給・整備ネットワークに深く依存する側面も持ちます。一方、F-15IAはステルス性を持たないものの、圧倒的な 兵装搭載量と航続距離 を誇り、大規模な爆撃任務や継続的な航空戦力投射に適しています。イスラエル軍事計画において、F-35Iが「目となり、高価値目標を叩く鋭い矛」であるのに対し、F-15IAは「大量の打撃力を運ぶ、持続性のある力」として位置づけられ、両機種は相互に補完し合う関係にあります。

変化する戦略環境とF-15IAの必要性

F-15IAの導入は、近年の中東情勢の複雑化と、イスラエルが直面する複数の脅威に対応するための現実的な判断の結果でもあります。2023年10月以降のガザ紛争の再燃、レバノンのヒズボラ、そしてシリアにおける敵対勢力との緊張は、イスラエルに複数の戦域での同時多発的な任務遂行を要求しています。F-35Iは高性能で高価であるため、ガザやレバノン、シリアなどの隣接する低・中程度の脅威に対しては 「過剰スペック」 であり、運用コストも高くなります。F-15IAは、これらの戦域で必要とされる大量の兵装運搬、持続的な航空支援、防空戦闘といった汎用的な任務において、よりコスト効率が高く、継続的な作戦能力を提供できます。

イランへの「抑止力」としての長距離攻撃能力

イスラエルにとって最大の戦略的脅威の一つであるイランに対する攻撃能力を確保する上で、F-15IAの長距離航続能力は決定的な利点となります。F-35Iは航続距離が短く、イラン国内への攻撃任務を遂行するには、空中給油機(タンカー)の随伴 が必須となります。これは作戦の複雑性を増します。その点、F-15IAは、大型の増槽(燃料タンク)を搭載可能であり、理論上は空中給油なしでイランまで往復できます。この能力は、長距離での重量打撃を可能にし、イスラエルの抑止力、特にイランの核関連施設への対応能力を劇的に向上させます。

この大型軍事契約は、長年にわたる 米国とイスラエルの強固な同盟関係の象徴 である一方で、国際社会、特にガザ紛争以降、国内外で激しい批判と反発を招いています。米国では、一部の議会議員や市民団体、特に反戦・プロパレスチナ活動家の間で、この契約に対する強い反対意見が出ています。「イスラエルへの軍事支援が、紛争の激化と民間人の犠牲を助長している」との批判が高まっており、対外軍事販売(FMS)の透明性や倫理的な側面に疑問が呈されています。また、国際社会、特にヨーロッパ諸国や中東の一部からも、批判の声が上がっています。イスラエルによるガザでの軍事作戦が多数の民間人犠牲者を出しているとの報道が続く中、米国が軍事機器を供給し続けることは、「一方的な戦争支援」と受け止められています。この状況は、人道的懸念と国際的な議論を呼び、兵器供給という行為そのものに対する倫理的な批判をかつてないほど高めています。

イスラエル空軍は、最新鋭のF-35Iの導入を進めると同時に、F-15IAという非ステルスの重戦闘機を更新・増強するという長期的な航空戦力計画を掲げています。F-15IAの納入は2031年から始まり、数年をかけてIAFの戦列に加わる予定です。この「F-35IとF-15IAの並存・補完運用」戦略により、イスラエル空軍は、ステルス侵攻から大規模な長距離爆撃、地域紛争への対応まで、多様な戦域と脅威に対して柔軟に対応できる戦術的な選択肢 を大幅に増やすことになります。F-15IAの導入は、イスラエルが将来的な戦力の質と量の両面での強化を目指す、極めて重要な一手と言えます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!