

イスラエルはイランからの反撃を受け、弾道弾迎撃ミサイル「Arrow(アロー)」の在庫が著しく減少している。報道によれば、弾道ミサイル迎撃の中核を担う同ミサイルは、数日から2週間程度で枯渇する見込みである。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は18日、匿名の米国当局者の情報として、イスラエルの弾道弾迎撃ミサイル高度ミサイル迎撃システム「Arrow(アロー)」の弾道弾迎撃ミサイルが不足していると報じた。ミサイルの持続期間は最大12日間とされ、現在の防空システムが危機的状況にあると指摘されている。イランからの長距離弾道ミサイルに対抗する同国の能力に懸念が生じている。
6月12日、イスラエルは200機の戦闘機を用いてイランに先制攻撃を実施した。これに対し、イランは即座に反撃を開始し、13日夜から14日未明にかけて200発、翌日には30発、15日から16日にかけては数回に分けて65発、16日には65発、17日から18日にかけては2波に分けて計約25発のミサイルを発射した。これまでに計385発程度のミサイル攻撃を受けており、一日平均60発以上となる。このペースが続けば、アローのミサイルは間もなく枯渇する。
Arrowミサイルシステム


アローミサイル防衛システムは、ヘブライ語で「Hetz(ヘッツ)」と呼ばれ、イスラエルの多層ミサイル防衛システムの一つである。イランのミサイル脅威を念頭に、米国の軍事・資金支援のもと、イスラエルの軍需企業IAIによって1990年代に開発され、2000年から配備が開始された。弾道ミサイルの迎撃を目的としており、その迎撃高度は地球の大気圏を超える。これはイスラエルにとって最も重要かつ困難なミサイル防衛層である。現在、アローシステムにはアロー2とアロー3の2つのモデルが運用されており、アロー2は二段式の固体燃料ロケットモーターで最大速度はマッハ9、弾道ミサイルを高度10-50kmの大気圏内で迎撃する。アロー3は更に迎撃高度が伸び、大気圏外で迎撃する。弾道ミサイルはエルタ社のEL/M-2080「グリーン・パイン」フェーズド・アレイ早期警戒レーダーが検知、追跡する。最大約500kmの範囲で目標を検出し、3,000m/sを超える速度で30個以上の目標を追跡、レーダーは目標を捕捉し、アローミサイルを誘導する。現在、3基のアローが配備されており、1基あたり半径100kmをカバーし、イスラエル全土をカバーする。
米国の支援を期待


米国の更なる支援が期待されている。2024年10月中旬、イランによる大量の弾道ミサイル攻撃(約200発)を受け、アローのミサイル不足が認識された。バイデン政権の決断により、イスラエルにはアメリカの終末高高度防衛ミサイル「THAAD(サード)」とその関連部隊100人が配備された。THAADはイスラエルのIron Dome(短距離)、David’s Sling(中距離)、Arrow(長距離)と並ぶ多層防衛構成の一角を担い、終末段階での敵ミサイルの大気圏外〜高高度域への迎撃を担当する。2025年4月には第2バッテリーの展開も確認されている。公式声明は出ていないものの、今回のイランのミサイル攻撃に対しても使用が確認されている。その他、海上に展開している米海軍のイージス艦も艦船発射型弾道弾迎撃ミサイル「SM-3」で迎撃戦に参加している。アメリカの軍事力をもってすれば、イランのミサイルの撃ち合いに対抗は可能であるが、米軍にとっても弾道弾迎撃ミサイルの備蓄は限られており、イスラエルに多数の迎撃ミサイルを配備したことで、「米国も迎撃ミサイルを消耗してしまうのではないかという懸念が出ている」とWSJは報じている。
どちらのミサイルが先に枯渇するか
イラン側のミサイルも現在のペースが継続するとは考えられていない。反撃初日の200発から徐々に数は減少しており、今後は20発以下のペースとなり、6月末には数発ペースになると推測されている。イスラエル軍は17日、これまでの作戦でイランの弾道ミサイル発射装置の約40%が破壊されたと発表した。イスラエル側もミサイルの応酬となることを承知しており、自軍の迎撃能力を計算に入れた上で今回の作戦を実施したと報告されている。
しかし、まだ多くの在庫を持っているという見方もある。米国中央軍(CENTCOM)などは、イランが3,000発以上の弾道ミサイルを保有していると報告している。中距離以上でイスラエルを攻撃可能なミサイルに絞ると、約2,000発程度とする推計がある。イスラエルの攻撃でその内40%が破壊されたとしても、1200発が残り、400発は既に発射され、在庫は800発という計算になる。しかし、イスラエル軍は今回の攻撃でイランのミサイル生産施設も破壊した。固体推進薬混合装置(プラネタリーミキサー)が破壊され、英国は「ミサイル生産能力が1年程度失われた」と分析している。今回の両国の衝突がいつまで続くか不明であるが、イランとしても生産に制限が掛かっている中で全てのミサイルを使い切るわけにはいかないだろう。