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まるでゲーム画面!視覚上にマップや仲間の位置情報を投影する「EagleEye」

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© 2025 Anduril Industries

2025年10月、ワシントンD.C.で開催されたAUSA(米陸軍協会総会)において、アメリカの防衛テクノロジー企業Anduril Industriesは、兵士向けの画期的な統合システム「EagleEye(イーグルアイ)」を発表しました。このシステムは、同社が独自開発したAI戦術ネットワーク「Lattice」と連携し、戦場における兵士の状況認識と意思決定能力を飛躍的に向上させることを目指しています。

EagleEyeの革新性:視覚・聴覚を通じた直感的な情報共有

EagleEyeは、兵士の頭部に装着する混合現実(MR)システムであり、従来の情報伝達手段を大きく覆すものです。このシステムは、広視野のヘッドアップディスプレイを通じて、地形地図、敵味方の位置、進入経路、通信状況といった戦況データを兵士の視界にリアルタイムで直接投影します。これにより、あたかもFPSゲームのインターフェースのように、兵士は視覚的・聴覚的に情報を直感的に把握できるようになります。従来のタブレットや無線通信に依存していた情報伝達と比較して、情報の即時性と理解度が格段に向上すると期待されています。

Latticeとの連携:AIによる戦術的ハイライトと空間オーディオ

EagleEyeの最大の特長は、Anduril独自のAI戦術ネットワーク「Lattice」との密接な連携にあります。Latticeは、無人機、地上センサー、車両カメラ、そして兵士間など、多様なソースから送られてくる膨大なデータをリアルタイムで統合・分析します。AIが自動的に脅威や注目すべき対象を識別し、その情報を兵士の視界に「戦術的ハイライト」として強調表示します。これにより、兵士は膨大な情報の中から重要なものだけを選別して受け取ることが可能になります。

さらに、EagleEyeは空間オーディオ(spatial audio)機能を搭載しており、音声情報が方向性を持って兵士に提示されます。例えば、発砲の方向や仲間からの呼びかけなどが、視覚情報だけでなく音によっても即座に察知できるようになり、これにより兵士の戦場での状況認識能力はさらに高まります。

開発パートナーと多様なバリエーション

Andurilは、EagleEyeの開発において複数の専門企業と協業しています。軍用ヘルメットメーカーのGentex、先進的な表示技術を提供するMeta、そして高性能チップセットを供給するQualcommなどがそのパートナーとして名を連ねています。この協業により、ヘルメット一体型から軽量なゴーグル型まで、用途に応じた複数のバリエーションが開発されており、様々なミッションプロファイルに対応できるようカスタマイズが可能です。軍用以外の用途への発展も期待されます

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EagleEyeは、Microsoftが主導する「IVAS(統合視覚拡張システム)」の後継または代替案として注目されています。IVASは、HoloLens 2を軍用に改良したARゴーグルで、兵士の視界に戦術情報、目標、位置データなどを重ねて表示する統合戦闘支援システムとして開発されました。しかし、初期バージョンでは視界の歪み、頭痛、夜間視認性の低さといった問題が兵士から指摘され、2022年のテストでは「現場投入には不適」と評価され、一時中断を余儀なくされました。現在、改良版「IVAS 1.2」が開発され、軽量化、視野角拡大、暗視能力強化などが施されていますが、まだその先行きは不透明な状況です。

一方、Andurilは米陸軍の新しいプログラム「Soldier Borne Mission Command(SBMC)」にも深く関与しており、来年にも約100台規模のEagleEyeの試験配備が計画されていると報じられています。

EagleEyeは、兵士の情報処理能力をAIが支援する「人間拡張型戦闘システム」の典型例と言えます。Andurilは、EagleEyeが兵士の意思決定速度を最大で40%向上させる可能性があると示唆しており、未来の“デジタル戦士”構想の中核をなす装備となる可能性を秘めています。

実戦配備への課題と倫理的懸念

しかし、実戦配備に向けては依然として多くの課題が残されています。戦場環境での耐久性、バッテリー寿命、対電子戦、通信が遮断された際の対応、そして、IVASでも指摘された、兵士に与える負荷や夜間運用時の視認性などが挙げられます。また、AIが戦場での判断に深く関与することに対する倫理的・法的懸念も指摘されており、米軍内部でも継続的な議論が行われています。これらの課題にもかかわらず、EagleEyeは戦場の情報格差を縮め、兵士一人ひとりを「ネットワーク化された戦闘ノード」へと変革する可能性を秘めています。米陸軍がこの画期的なシステムを制式採用するかどうか、今後の試験結果が注目されます。

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