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流出文書から中国空軍がロシアからIl-78空中給油機20機の購入計画が判明

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Il-78MK-90A空中給油機(mod russia)

ロシアの最大手国営軍需企業Rostec(ロステック)から流出した文書により、中国人民解放軍空軍(PLAAF)がロシアから高性能なIl-78MK-90A空中給油機を20機購入し、2027年から2028年にかけて引き渡しを受ける可能性が浮上しました。

海外メディアの報道によると、この情報はハッカー集団「BlackMoon」がロステック社をハッキングして入手した約300件の文書の一つに記載されていたもので、2023年9月13日付の書簡で、Il-78の生産元であるイリューシン社の幹部が別の部署に宛てたものでした。この書簡には、「顧客156」向けに発注されたIl-78MK-90A空中給油機20機の構成部品について説明を求める内容が記されており、「顧客156号」が中国空軍を指し、納入時期が2027年~2028年と示されていたとされます。情報がハッカー集団によるものとはいえ、詳細な日付や具体的な機種、数量、納入時期が記されていることから、その信憑性は高いとみられています。しかし、戦時中であるロシア側の生産能力には不確実性があり、スケジュールと機数に関しては不透明な部分があります。

Il-78MK-90A空中給油機の能力

Il-78MK-90A空中給油機(mod russia)

Il-78MK-90Aは、ロシアが誇る輸送機Il-76MD-90Aをベースに改良された最新鋭の空中給油機です。ロステック社傘下の統一航空機製造会社(UAC)によって製造されており、その性能は中国空軍の長距離作戦能力を劇的に向上させる可能性があります。

  • 燃料転送能力: 1,000km飛行時で約78トンの燃料を転送可能であり、これは長時間のミッションを支える上で極めて重要な能力です。
  • 給油システム: 機体両翼に各1基、尾部右側に1基、合計3基のホース&ドローグ方式ポッドを装備しています。これにより、空中では同時に3機、地上では4機に給油することができます。
  • 多用途性: Il-78MK-90Aは単なる給油専用機に留まりません。貨物・人員輸送、パラシュート降下支援など、多様なミッションに対応できる「多用途配置可能」な設計が施されています。
  • 運用環境への適応性: 未舗装滑走路(ある程度の悪条件滑走路)からの運用を視野に入れ、脚部強化や構造強化が行われており、過酷な環境下での運用も可能です。

中国の戦略的狙い

中国空軍のYY-20空中給油機(Weibo)

中国がこれほど大量の空中給油機を導入しようとする背景には、人民解放軍空軍が抱える課題と、地域における戦略的野心があります。

1. 長距離・長時間作戦能力の強化

空中給油機能力は、戦闘機、爆撃機、輸送機といった航空作戦機が「遠距離展開」「長時間滞空」「増大兵装搭載」を実現するための不可欠な要素です。近年、中国は南シナ海、東シナ海、台湾海峡、さらには西太平洋域での空中作戦の実効性向上を強く求めており、給油能力の拡充は、これらの地域での軍事プレゼンスを強化するための重要なインフラと位置付けられています。

2. 空軍戦力のギャップ解消

中国空軍は、戦力規模だけで見れば米空軍に次ぐ世界第2位の規模を誇ります。しかし、その戦力の多くは戦闘機に偏重しており、現状、長距離作戦能力は少数の給油機に依存しています。このため、長距離・高持続時間作戦を支える能力には依然として大きなギャップがあると指摘されてきました。

中国空軍の既存の空中給油機としては、H-6爆撃機を改造したH-6Uと、Y-20輸送機を改造したYY-20が存在します。しかし、H-6Uは旧式で、燃料搭載量や運用能力が限定的です。YY-20は現在生産されている最新型、2022年に配備が始まったばかりで、輸送機と並行して生産されているため、その量産は需要に追いついておらず、実戦配備数には限界があるとの分析があります。

このような状況下で、ロシア製Il-78MK-90Aの導入は、即効的な能力補填策として極めて有効です。信頼性と実績のあるロシア製機体を導入することで、自国製給油機の生産が需要に追いつくまでの「ブリッジ(橋渡し)」とする可能性があります。中国は2014年から2016年にかけてウクライナから古いIl-78系給油機を3機取得しており、既にIl-78MK-90Aの運用ノウハウも持ち合わせていると考えられます。

3. 地域における影響力の拡大

給油機が拡充されれば、中国空軍の戦闘機や爆撃機はより長時間、より遠距離での作戦行動が可能になります。これにより、以下のような戦略的なメリットが生まれます。

  • 「第一列島線」以遠への展開能力強化: 台湾海峡、南シナ海、さらには西太平洋方面までの「第一列島線」を超え、「第二列島線」までの展開能力が強化される可能性があります。これは、米軍とその同盟国の展開をけん制し、地域における中国の影響力が拡大します。
  • 多面的な空中ネットワークの整備: 給油機の輸送兼用能力を活用すれば、離島への輸送や空挺展開など、多岐にわたる空中ネットワークの整備が進むと考えられます。これは、南シナ海の人工島やその他の遠隔地への補給・展開能力を高めることにも繋がります。
  • 主要戦闘機の作戦範囲拡大: 特に南シナ海、台湾、そして太平洋のさらにその先への空軍展開において、J-16、J-20、J-35、H-6Kといった中国の主要戦闘機や爆撃機の長距離任務を支援するために、大型空中給油機の増強は不可欠です。20機のロシア製Il-78MK-90A空中給油機の購入は、中国の空中給油能力を大幅に向上させ、これらの航空機の作戦範囲と滞空時間を飛躍的に延伸させるでしょう。

ロシアからのIl-78MK-90A空中給油機20機購入の可能性は、中国人民解放軍空軍が長年の課題であった長距離作戦能力のギャップを埋め、地域における軍事プレゼンスを一段と強化しようとしている明確な兆候です。これは、台湾を巡る情勢、南シナ海問題、そしてインド太平洋地域全体の安全保障環境に大きな影響を与える可能性があります。

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