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ロシア軍機40機以上を破壊!100機以上のドローンで襲撃したウクライナ軍の特殊作戦「蜘蛛の巣」

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ウクライナ保安庁(SBU)は、2025年6月1日、ロシア連邦領内における複数地点において、特殊作戦「パヴティナ(Pavutyna:蜘蛛の巣)」を実行した。本件作戦においては、ドローンをコンテナに隠匿しロシア国内に搬入、その後100機以上のドローンを用いて空軍基地への攻撃を敢行し、戦略爆撃機を含む40機以上のロシア軍機を破壊するに至った。これは、ロシア・ウクライナ戦争開戦以来、航空戦力に対する一度の損害としては最大規模のものとなる。

戦略爆撃機の34%を破壊か

2025年6月1日、SNS上において、駐機中のロシア航空宇宙軍所属Tu-95MS戦略爆撃機複数機が爆発炎上する状況が拡散された。ウクライナ保安庁(SBU)は、ロシア連邦領内において、ロシア空軍基地を標的とした特殊潜入破壊工作作戦「パヴティナ(蜘蛛の巣)」を実行した。本件作戦は、AI制御によるFPVドローン117機を木製コンテナに隠匿し、トラック輸送によりロシア国内に搬入、基地近傍からドローンを発進させ攻撃を行うという極めて大胆なものであった。しかしながら、この奇策がロシア軍の警戒を逆手に取った形となり、攻撃は大きな成功を収めた。現時点において、ロシア軍機41機の破壊が確認されたとウクライナ側は発表。また、これらは大型機に偏っており、破壊された機体の内訳は以下の通りである。

・Tu-95MS戦略爆撃機
・Tu-22M3戦略爆撃機
・A-50早期警戒管制機(AWACS)

Tu-95MSは、ソビエト連邦時代の1950年代に開発された戦略爆撃機Tu-95の近代化改修モデルである。飛行高度12,000m、航続距離15,000km、ペイロードは最大15,000kgであり、最大16発のKh-55空対地ミサイルを搭載可能だ。Tu-22M3は、1960年代に開発された戦略爆撃機Tu-22の近代化モデルであり、最高速度2500km/h(マッハ2.05)を誇る音速爆撃機である。両機種ともに、ウクライナへの空爆に用いられている。A-50は、ロシア空軍の指揮統制及び偵察に不可欠な早期警戒管制機であり、その保有数は10機未満とされ、これまでに少なくとも2機が失われている。41機の詳細な内訳は明らかになっていないが、SNS上の映像から確認できる限り、Tu-95MSが複数機破壊されたことは確実である。ゼレンスキー大統領は、今回の攻撃によってロシア空軍が運用する戦略爆撃機の34%を破壊したと主張しており、被害総額は約70億ドル(約1兆円)と推定されている。Tu-95及びTu-22は、ロシア空軍の戦略爆撃機部隊の中核を占めるが、両機種ともに既に生産を終了しており、戦力回復は事実上不可能である。その他にも、Su-35戦闘機、Su-34戦闘爆撃機といった前線における攻撃任務に用いられる機体が破壊されたという情報も存在しており、未だ情報が錯綜している状況にある。

4カ所の同時多発攻撃

今回の攻撃は、4箇所において同時多発的に実施された。攻撃されたロシア空軍基地は以下の通りである。

・オレニャ空軍基地(ムルマンスク州)
・ベラヤ空軍基地(イルクーツク州)
・ディアギレヴォ空軍基地(リャザン州)
・イヴァノヴォ空軍基地(イヴァノヴォ州)

特筆すべきは、オレニャ及びベラヤ空軍基地への攻撃である。オレニャは、北極圏内のフィンランド東部隣接のムルマンスク州に位置する。同基地は、ロシア軍の重要な軍事施設の一つであり、ロシア北方艦隊の母港であるムルマンスクに隣接している。同地は、ウクライナ国境から2,000kmも離れている。ベラヤ空軍基地は、更に遠隔地に位置し、シベリアのイルクーツク州に所在し、モンゴルのほぼ北に位置する。同地は、ロシア戦略空軍の主要基地であり、ウクライナの支配地域から4,500km以上も離れている。この他、6000km離れた極東アムール州にあるウクラインカ基地も狙っていたという情報もある。これは攻撃前にドローンを積んだトラックが爆発炎上して失敗したとされる。

ウクライナの工作員は、今回、大量のドローンを搭載した民間車両をロシア領内に侵入させたが、ウクライナからここまでドローンを輸送することは極めて困難である。そのため、オレニャ空軍基地を攻撃したドローン群はフィンランド経由でロシアに搬入され、ベラヤ空軍基地を攻撃したドローン群はモンゴル経由でロシアに入国したと推察される。ウクラインカは中国という可能性もある。ウクライナ工作員のみで本件作戦を遂行することは困難であり、現地住民の協力があったとみられ、ゼレンスキー大統領も「私たちを支援した人々」という表現を用いている。作戦に関与した者は全員無事に脱出したと報告されている。ロシア国防省は、ディアギレヴォ、イヴァノヴォの両基地に対する攻撃は撃退したと発表しているが、オレニャ及びベラヤにおいては損害があったことを認めている。ロシア軍としても、ウクライナから遠く離れたオレニャ及びベラヤが攻撃を受けることは想定しておらず、警備が手薄であった可能性がある。

ドローンは、遠隔操作及びAI技術によって運用された。これほど遠隔地からの操作は通常困難であるが、遠隔操作にはロシア国内の通信プラットフォームを用いることでこれを克服したとされる。また、ドローンに搭載されたAIには、攻撃対象となるロシア軍機の3Dスキャンデータを用いて学習させ、精密攻撃、電波妨害に対して自律的に攻撃を行えるよう対処した。

「パヴティナ作戦」は、先日発生したロシアによる大規模なドローン攻撃への報復として位置づけられており、ウクライナの防衛能力及び意志を示すとともに、ウクライナの高度な技術力及び戦略的計画能力を示すものとされる。先日には、極東のウラジオストクの海軍基地が攻撃されており、ロシア国内における警備体制の脆弱性が露呈し、ロシア軍、ロシア国民にとって大きな心理的打撃となった。ただし、この後にはイスタンブールでの停戦交渉が予定されているため、その影響が懸念される。また、クレムリンでは緊急会議が行われ、プーチン大統領が報復を命令、極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」による攻撃準備が進められているという情報がある。各国では小型ドローンによるスウォーム攻撃により基地が大きな損害を受けたことに衝撃を受けており、安全保障環境に与える影響が注目されている。

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