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安価で大量投入可能な対艦兵器「QUICKSINK」

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AFRL

「QUICKSINK」は、米空軍研究所(AFRL)が推進する画期的なプログラムであり、既存のJDAM(統合直接攻撃弾:GPS誘導炸弾)を改造・最適化することで、「安価かつ大量に」敵艦艇を無力化する能力の獲得を目指しています。これは、高価な長射程対艦ミサイルに依存するだけでなく、多様な脅威に対応するためのコスト効率の高いソリューションとして注目されています。

QUICKSINK

QUICKSINKは、米空軍研究所(AFRL)が主導する「統合コンセプト・技術デモンストレーション(JCTD)」プログラムの一環として、空中投下式の安価な対艦兵器の評価と実証を進めています。その基本的なアプローチは、既存のGPS誘導精密誘導爆弾であるJDAM(GBU-31、GBU-38など)をベースに、以下の要素を追加・改良することにあります。

  • 終末誘導用シーカーの追加: 海上を航行する艦艇や移動目標を精密に追尾し、命中させるためのシーカーが組み込まれています。これにより、GPS誘導だけでは困難な移動目標への高精度な攻撃が可能になります。
  • 改良キットの統合: JDAMの基本構造を維持しつつ、対艦攻撃に特化した改良が施されています。

これらの改良により、QUICKSINKは「安価で、航空機から投下可能な魚雷に匹敵する誘導対艦兵器を大量に供給する」という野心的な目標を掲げています。これは、単なる爆弾投下ではなく、高度な誘導能力と破壊力を兼ね備えた対艦兵器としての役割を果たすことを意味します。

試験と実証の進捗

Quicksinkは、複数の弾量クラスでの試験が実施されています。

  • 2,000ポンド級(約900 kg): 主力となる大型版であり、強固な構造を持つ艦艇にも致命的なダメージを与えることが期待されています。
  • 500ポンド級(約225 kg): 軽量版として評価が進められており、より多くの航空機からの搭載や、飽和攻撃における弾頭数の増加に寄与します。

これらの試験には、B-2ステルス爆撃機をはじめとする多様な航空機が用いられ、海上目標に対する実際の投下試験が繰り返し実施されています。AFRLや米空軍は、これらのデモンストレーションが成功したことを発表しており、特に「船体に致命的ダメージを与えるデモ」は大きな注目を集めました。公開された映像では、一発のQUICKSINKによって標的艦が真っ二つに破壊され、瞬時に撃沈される様子が確認できます。この標的艦はタンカーのような商用船と見られ、軍用艦に対して同様の効果が得られるかは今後の検証が必要ですが、命中すれば極めて致命的な打撃を与えることは間違いありません。この映像は、QUICKSINKの破壊力の大きさと潜在的な脅威を示しています。

射程と運用上の課題

Quicksinkの正確な射程は公表されていませんが、JDAMキットをベースにしているため、基本的にはJDAMの射程に準じると考えられます。JDAMは滑空誘導爆弾であり、投下高度や速度によって射程は大きく変動します。

  • 標準JDAM: 一般的に約15海里(約28km)前後。
  • JDAM-ER(射程拡張版): 翼を装着することで、最大で約40~45海里(約74~83 km)程度まで射程が延伸されます。

しかし、運用上最も懸念されるのは、敵艦隊の強固な防空網を掻い潜って投下できるかという点です。現代の艦隊防空システムは非常に高性能であり、例えば中国の最新鋭駆逐艦055型のフェイズアレイレーダーは、探知距離が500km以上とも言われています。JDAMの射程範囲に入る遥か手前で敵に検知され、対空ミサイルによる迎撃を受けて撃墜される可能性が高いという課題が指摘されています。この課題に対し、米空軍はB-2スピリット戦略爆撃機を用いた試験を行っています。B-2は以下の特性により、Quicksinkの運用における懸念を軽減します。

  • 高度なステルス性能: レーダーに探知されにくく、敵の防空網を突破する可能性を高めます。
  • 高高度飛行能力: 最高飛行高度は15,240m以上にも達し、高高度からの投下はQuicksinkの滑空距離を最大化し、射程を延ばすことに貢献します。
  • 搭載能力と飽和攻撃: B-2は500ポンドのJDAMを最大80発搭載可能であり、これにより敵艦隊に対する飽和攻撃が可能となります。JDAMの終末速度は条件によっては音速を超えることもあり、同時に80発もの滑空爆弾を迎撃することは極めて困難です。これは、敵の防空システムを圧倒し、命中弾を確実に増やすための重要な戦略となります。

参考までに、ステルス戦闘機のF-35のウェポンベイに搭載できるJDAMの数は2発であり、B-2の搭載能力がいかに突出しているかが分かります。

中国海軍に対抗するために開発

Quicksinkは、主にインド太平洋地域での海上戦闘能力を強化する枠組みの一部として開発されています。これは、中国の大規模な海軍を含む潜在的な対艦脅威を明確に念頭に置いたものです。中国海軍は、艦艇数において既に米海軍を凌駕していると評価されており、その圧倒的な艦艇数に対抗するためには、高価な長射程対艦ミサイルだけでは限界があります。そこで、米空軍は「多数投入できる廉価な兵器で敵の防御を飽和させる」という戦略的ニーズを認識しており、QUICKSINKはその答えの一つとして位置づけられています。

QUICKSINKは、大量投入可能な廉価兵器として開発されており、これにより米軍は、中国海軍の艦艇数に対しても効果的な対艦攻撃能力を維持し、地域のパワーバランスを保つことを目指しています。その低コスト性と多量生産可能性は、将来的な大規模海上紛争における兵站的な優位性をもたらす可能性を秘めています。

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