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ロシアが無制限航行可能な原子力巡航ミサイル「Burevestnik」の発射成功を発表

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ロシアが発表した原子力巡航ミサイル「Burevestnik(ブレベスニク)」は、その特異な設計と潜在的な戦略的影響力により、国際社会に大きな波紋を広げています。約14,000 kmを15時間飛行したというロシア政府の主張は、この兵器が従来の兵器システムとは一線を画すものであることを示唆しており、軍事的および政治的な観点からその重要性が強調されています。しかし、その実用化には、放射性リスク、技術的課題、そして情報の透明性の欠如といった多くの「影」が付きまとっており、実際の配備への道筋は依然として不確実な要素に満ちています。

ロシア政府は2025年10月26日、長距離巡航ミサイルとして開発された「9M730 Burevestnik(NATOコード:SSC-X-9 “Skyfal”)」の飛行試験で、約14,000 kmを15時間飛行することに成功したと発表しました。この成功は、国内外に向けた強力な軍事的・政治的メッセージとして位置づけられ、ウラジーミル・プーチン大統領自身も視察に訪れ、「世界のどの国も保持していない独自の兵器」と評価し、この兵器の配備に向けた準備を進めることを明言しました。

小型原子炉を搭載した原子力巡航ミサイル

Burevestnikの最も注目すべき特徴は、動力源として「小型原子炉」を採用している点にあります。一般的な化学ロケットやターボジェットエンジンとは異なり、核熱推進または核ターボジェット方式を用いることで、極めて長時間の巡航飛行を可能にするとされています。これにより、「燃料による航続距離の制約が事実上存在しない」という設計思想が報じられており、理論上は「無制限」での空中待機や飛行が可能となります。ミサイル本体は、従来の巡航ミサイル(例えばロシアのKh-101系)に似た形状ながらも、搭載される原子炉やその冷却・遮蔽構造を考慮すると、より大型になるとの分析もあります。

過去の事故と放射能リスク

ロシア側は、2018年にこの兵器を「新戦略兵器」の一つとして公表しました。しかし、その開発は少なくとも2016年には開始されていたと外部専門家は分析しています。2019年には、ロシア北部で関連する爆発事故が発生し、科学者5人が死亡、周辺地域で放射線値の上昇が観測されたことから、国際社会からその安全性に対する懸念の声が上がりました。これまでに複数回の試験が行われたものの、失敗も繰り返されており、今回の成功発表も、兵器が完全に運用可能な状態になったことを裏付けるものではないとされています。

Burevestnikは亜音速の巡航ミサイルですが、理論上は燃料に起因する航続距離の制限がないため、事実上の「無制限」での空中待機・飛行が可能とされています。この兵器が実用配備されれば、「予測困難な経路で長時間飛行できる核兵器」として、戦略的抑止力や政治的宣伝手段として非常に強力な意味を持つことになります。

しかしながら、その一方で、以下のような多くの課題や懸念が指摘されています。

  • 放射性物質の拡散リスク: 核熱推進による排気には放射性物質が含まれるため、飛行中に放射性物質が拡散するリスクがあります。
  • 重量とサイズ増による制約: 小型原子炉、遮蔽、冷却系の搭載はミサイルの重量とサイズを大幅に増加させます。これにより、発射プラットフォームに大きな制約が生じる可能性があります。
  • 迎撃と追跡の側面: 長時間飛行は迎撃回避の可能性を高める一方で、検出・追跡される時間も延長されるという逆の側面も持ち合わせています。
  • 撃墜時の放射性物質拡散リスク: もしこのミサイルが撃墜された場合、搭載された原子炉からの放射性物質が広範囲に拡散する深刻なリスクがあります。

懐疑的な見方

ロシア政府は今回の飛行試験の成功を大々的に発表していますが、外部専門家からは、2016年以降、少なくとも13回程度のテストが行われ、部分的成功と失敗が混在しているとの評価がなされています。ロシア側の発表を裏付ける独立したデータ検証が乏しいことも問題視されており、実際の配備運用に至ったという確実な裏付けは不足しているのが現状です。また、この兵器に対して懐疑的な見方も少なくありません。大気圏から極超音速で飛来する大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、発射地点が予測できない潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の方が、より現実的な脅威であると見なす声も多く聞かれます。

ロシアが今回発表した「14,000 km・15時間飛行」という数字が事実であれば、世界の戦略バランスにおいて新たな転換点となり得る可能性を秘めています。しかし、実用配備、運用開始、そしてそれに対する対策技術(迎撃・検知・防護)の発展という観点から、依然として兵器としての有効性、使い道に懐疑的な点が残されています。

Burevestnikの開発は、軍事技術の最先端における「飛躍的挑戦」の典型でありながら、同時に技術的な実現可能性、安全性、そして情報の検証という複雑な課題をはらんでいます。今後、第三者による分析や、実戦配備に向けた具体的な動きがあるかどうかが、国際社会の最大の注目点となるでしょう。

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