

ロシアが最新鋭ステルス戦闘機Su-57を極東地域の「Dzyomgi(ジェムギ)空軍基地」に集中的に配備している可能性が浮上し、関係国の間で大きな注目を集めている。複数の衛星画像解析や報道によれば、同基地において少なくとも18機のSu-35S、3機のMig-31BM、そして、15機規模のSu-57が確認されたという。これが事実であれば、これはロシアが現在保有するSu-57の稼働機体群の相当部分を一か所に集約したことを意味し、その戦略的な意図について様々な憶測を呼んでいる。
貴重なSu-57


Su-57は、ロシアが開発した第5世代ステルス戦闘機であり、アメリカのF-22やF-35に対抗する、同国航空戦力の将来を担う存在として位置づけられている。その特徴は、高度なステルス性、強力なセンサー融合能力、そして超音速巡航能力にあり、ロシアの軍事技術の粋を集めた「象徴的な最新兵器」とされている。しかし、その開発と量産化は当初の計画から大幅に遅延してきた。1998年に開発計画がスタートし、2010年に初飛行を果たしたものの、現行の量産モデルの生産が始まったのは2019年になってからである。さらに、西側諸国による経済制裁の影響もあり、量産ペースは緩やかにならざるを得なかった。ウクライナ侵攻が始まる直前には、配備された量産型はわずか3機程度とされており、その後量産は加速したものの、現在でも配備数は20機をわずかに超える程度に留まっていると推定されている。ロシアにとって、Su-57は将来の戦力を保証する切り札であると同時に、損失が許されないほど貴重な戦略資産というジレンマを抱えている。このため、ウクライナ侵攻下においても、ロシア軍はSu-57を前線近辺で大規模に運用している形跡はほとんどなく、その実戦投入は極めて限定的とされてきた。具体的には、長距離ミサイルの発射母機としての役割や、戦闘域から離れた後方からの限定的な支援任務に留まっているとの見方が支配的である。
極東集中配備の背景
今回報道された「15機規模」という数字は、ロシアのSu-57全体の中で極めて大きな割合を占める。その機体をあえて極東に集中させた目的は、単なる戦力増強というよりも、複合的な戦略的合理性に基づいている可能性が高い。
1. 製造拠点に隣接する「合理的集約」
Su-57が集約されたとされるジェムギ空軍基地は、同機の製造拠点であるコムソモリスク・ナ・アムーレの航空機工場に極めて近い位置にある。これは、戦力化を急ぐロシアにとって決定的な利点となる。
- 迅速な改修とアップグレード: 量産初期段階にある最新鋭機は、ソフトウェアの更新、機体構造の細かな改修、不具合への対応などが頻繁に発生する。工場と基地が近接していれば、技術者や専用の整備部品を即座に供給することが可能となり、改修サイクルを大幅に短縮できる。
- 初期不良への即時対応: Su-57は経済制裁により部品と仕様の変更を強いられているとされ、運用開始後に予期せぬ技術的な問題が発生しやすいとされる。製造工場の支援をダイレクトに受けられる環境に機体を集めることは、機体の早期の戦力化と安定運用を確立するための最も合理的な方法である。この動きは、「前線への即時投入」よりも「戦力化の加速」と「運用ノウハウの確立」を強く意識した配置と読み取れる。
2. ウクライナ戦線からの「安全な保管」戦略


もう一つの極めて現実的な理由は、損失リスクの回避である。ウクライナ戦争の長期化に伴い、ロシアの国内基地や航空機がウクライナ側のドローン攻撃や長距離ミサイル攻撃にさらされる事例が増加している。2024年6月には前線から600km離れたロシア南西部アストラハン州の飛行場で、Su-57がドローン攻撃により損傷したと報道されている。例え強固な防空網があっても、前線に近い場所に貴重な第5世代機を置くことは、ロシアにとって大きな政治的・軍事的なリスクとなる。
- 国家威信と技術情報の保護: Su-57は単なる戦闘機ではなく、「ロシアが最先端の軍事技術を維持している」という国家威信の象徴である。破壊されれば、戦力的損失に加え、国家的な威信失墜と、機密性の高い技術情報の流出という重大な懸念が生じる。
- リスク最小化の配置: 極東の奥地に集約することは、ウクライナ戦線からの地理的な距離を最大限に確保し、これらのリスクを最小限に抑えるための戦略的な「保管」措置とも解釈できる。
3. 部隊運用ノウハウとパイロット育成の集中
少数配備の最新鋭機にとって、パイロットの育成や部隊戦術の確立は最大の課題の一つである。機体性能を最大限に引き出すためには、運用データの継続的な蓄積と、部隊としての熟練度が不可欠となる。
- 訓練効率の最大化: 多数のSu-57を一か所に集中させることで、整備体制、部品供給、教官の配置、そして訓練シナリオの共有を効率的に行うことができる。機体を分散させてしまえば、訓練効率が低下し、本格的な戦力化がさらに遅れる危険性がある。
- 部隊の早期形成: ロシアは、Su-57を単なる個々の高性能機ではなく、一つの精鋭部隊として組織し、運用ノウハウを蓄積する狙いがあるとみられる。この集約は、「部隊としての形を整える」ための必須ステップである。
極東・日本への影響:「即時の脅威」より「長期的な変化」
今回の極東配備の動きが事実であったとしても、日本周辺の軍事バランスが直ちに一変するわけではない。Su-57は依然として数が限られており、その本格的な運用能力も、西側の第5世代機と比較して未知数な部分が多い。しかし、ロシアがSu-57を極東で戦力化しようとしている事実は、日本にとって無視できない長期的な戦略的変化を示唆している。極東ロシア地域には、既に高性能な第4++世代戦闘機であるSu-35などが配備されている。これに、限定的とはいえ第5世代戦闘機Su-57が加わることで、将来的にこの地域のロシア航空戦力の「質」が向上する可能性は否定できない。
日本の防衛当局が注視すべきは、「今すぐ日本近海を飛行する」という短期的な緊張よりも、ロシアがウクライナ戦争による消耗戦の中でも、次の時代を見据えた最新鋭戦力を極東方面で温存し、着実に戦力化しようとしているという、その戦略的な意図と長期的な戦力変化そのものである。ロシアがSu-57を極東基地に集中させた狙いは、極東における即時の軍事力誇示というより、製造拠点に近い場所で集中的に整備・改修・訓練を進め、損失リスクを避けながら戦力としての能力を成熟させる点にあるとみられる。
「数が少ない」からこそ、前線に出して消耗させるのではなく、後方で安全に温存しつつ、機体と部隊の能力を最大限に成熟させる方が、ロシアにとって極めて合理的である。この動きは、ロシアがウクライナ戦争の泥沼化と制裁下においても、将来の航空戦力を見捨てず、長期的な視点に立った戦略的温存と育成を進めていることを示している。日本を含む周辺国にとっては、短期的な反応にとらわれず、ロシアの長期的な軍事戦略の変化として、引き続き動向を注視していく必要があるだろう。
