

報道によれば、ロシア連邦の一部軍関係者および軍事ブロガーの間で、Tu-214型旅客機を巡航ミサイル搭載可能な「動員型ミサイルキャリア」に改造する案が提唱されている。これは、ウクライナによる無人航空機攻撃により、Tu-95MS型およびTu-22M3型などの戦略爆撃機が多数損傷・破壊された事態を受け、喪失した航空戦力の代替手段として検討されているものである。
2025年6月1日、ウクライナのドローン攻撃作戦「パヴティナ」により、ロシア国内の複数の空軍基地が攻撃を受け、最大41機の航空機が破壊されたと報じられている。これには、核兵器搭載可能なTu-95MS型、Tu-22M3型、Tu-160型といった多数の戦略爆撃機が含まれており、ロシアの戦略航空戦力に大きな打撃を与えた。特にTu-95型とTu-22型の2機種は旧ソ連時代に設計され、現在は生産が終了しているため、直接的な代替機の調達は困難であるとされている。また、これらの後継となる予定であった次世代ステルス戦略爆撃機「PAK DA」の開発も、戦事の影響により中断しており、戦略航空戦力の回復は極めて困難な状況にある。そこで国内で提案されているのが、Tu-214型旅客機の爆撃機への転用である。
Tu-214


Tu-214型は、1990年代に開発された国産の中型旅客機であり、ロシア国内で広く利用されている。制裁による航空機部品の輸入制限を受け、一時的に生産が不可能となったが、国産部品への切り替えを行い、2024年に初飛行に成功、2025年からは年間10機、2030年までに70機の製造を目指している。Tu-214型は、長距離飛行が可能であり、ペイロードも比較的大きいため、爆撃機としての転用が検討に上がった。Tu-214型の最大離陸重量は約110.7トン、商業用ペイロードは約25トンであり、これはTu-95MS型の戦闘ペイロード(約20.5トン)を上回る。提案されている改造案では、Tu-214型を1.6トンのKh-101型や5.8トンのKh-22型といった巡航ミサイルを搭載・発射可能なプラットフォームに転用することが検討されている。
ロシア空軍では電子偵察機モデルのTu-214R型が既に運用されており、これを拡張する形での軍事利用が考えられる。ただし、Tu-214型を爆撃機として運用するには、爆弾倉やハードポイントの設置、兵装システムの統合など、大規模な改修が必要となり、膨大な時間とコストがかかることが予測される。元々兵器搭載を前提とした設計ではないため、ミサイルの搭載・発射に必要なハードウェアや電子機器の統合は困難であるという指摘もある。電子戦機や偵察機としての転用が現実的であるとされている。
Tu-214型を爆撃機に転用するもう一つの利点としては、旅客機に偽装できるという点が挙げられる。西側の支援を受けるウクライナは国際的な支持を得るため、戦争のルール、国際人道法を遵守する必要があり、これまで民間機を攻撃していない。Tu-214型を爆撃機に転用されると、ウクライナとしては対応が難しくなる。
爆撃機は修理すると宣言
2025年6月5日、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、6月1日のウクライナの無人機攻撃で損傷した戦略爆撃機は修理されると発表し、爆撃機が破壊されたとの報道を否定した。リャプコフ氏は国営通信社タス通信に対し、「国防省の担当者が既に述べているように、問題の装備は破壊されたのではなく、損傷しただけだ。修理されるだろう」と強調した。破壊された爆撃機を修理できるかどうかは、損傷の程度に大きく依存する。損傷が軽微であれば、または損傷箇所によっては再生可能な機体もあると考えられるが、全焼または深刻な損傷を受けたものは事実上、再使用不可能である可能性が高い。また、Tu-160型はまだ生産が続いているものの、Tu-95MS型やTu-22M3型は冷戦期の機体であり、スペアパーツの在庫が非常に限られている。電子機器やアビオニクスに使用されているソ連時代の部品は調達が困難とされる。可能な場合でも、損傷した複数の機体から部品を取り外して再建する程度であると考えられる。その上、戦闘機に比べ、爆撃機の生産ラインは限られており、一度に複数機を修理できるような生産ラインは存在しないとされる。また、ソ連時代のTu-95型とTu-22型の修理に対応できるエンジニアは高齢化しており、人材が不足している。さらに、完全な修理には新造に近いコストがかかり、半年から数年単位の作業が必要という指摘もあり、修理は現実的ではなく、強がり、国内外に向けたポーズともとられている
破壊、損傷した機体を修理するのか、現在も生産が行われているTu-160型を増産するのか、Su-34といった戦闘爆撃機の生産にリソースを割くのか、もしくはTu-214型旅客機を爆撃機に転用するのか、どちらにしもて戦略航空戦力の回復は容易ではない。